「お似合いです」「素敵ですね」。お客様にそうお伝えするだけが接客の仕事ではありません。サイズや色のストックがない、取り寄せに時間がかかるなど、現場に立つとお客様にご迷惑をおかけする瞬間は避けられないものです。
ご面倒をおかけする際に、いかにフォーマルに接することができるか、という点が販売員としての格を分けます。どんな年代・生活スタイルの方に対しても丁寧に対応できれば、憧れのブランドへの転職の道も開かれやすくなるでしょう。
今回は、会話の間に加えることで丁寧さや配慮を感じさせる「クッション言葉」の活用法について考えてみたいと思います。
お客様に言いにくいことを、丁寧に伝えるために
そもそも「クッション言葉」というのは、会話の前後に挟むことで言いにくいことやお願いごとをスムーズに相手に伝える、クッションの役割を果たす言葉のことです。
お客様の要望に添えないときに「在庫を切らしてしまいまして」と事実だけ述べるよりも、「大変恐れ入りますが、在庫を切らしてしまいまして」と前置きを加えたほうが相手に対して申し訳ない気持ちが伝わる。そういう配慮や経緯を伝えるのが役割です。以前も「外資系ラグジュアリーブランドの販売員に求められる『フォーマルな接客敬語』と『クッション言葉』」の記事でクッション言葉の事例に触れましたが、今回は代表的なクッション言葉と状況に応じた使い分けについて触れてみましょう。
お客様にお願いをするとき
裾上げのお直しを取りに来ていただく、メンバーズカードを提示していただく、などお客様にお願いごとをする場面は、接客の現場において実にさまざまなケースがあります。「お願いできますか」だけだとぶっきらぼうに聞こえることがありますので、必要に応じて「〇〇していただけますでしょうか」とセットにして下記のクッション言葉を使いましょう。
もしよろしければ、こちらのサンプルもお気軽にお試しください
気軽に何かをおすすめする場合などには「もしよろしければ」を使いましょう。押しつけがましくならないので、不要な場合もお客様が断りやすくなります。
差し支えなければ、ご住所をお伺いしてよろしいでしょうか
名前や住所など個人情報に関わることを聞くときは「差し支えないかどうか」を挟むと、相手に対する配慮の気持ちが伝わります。
(大変)失礼ですが、お名前をお伺いしてよろしいでしょうか
名前や年齢など、少し聞きにくいことを聞く場面で用います。顧客カードの記入など、名前や住所を聞くのが自然な流れであれば「差し支えなければ」でよいのですが、取り置きした品を取りに来られた場合やクレームなど、こちらから必ず名前を伺わなければいけないシーンでは「失礼ですが」を使うようにする、などニュアンスを使い分けましょう。
(大変)恐れ入りますが、隣の試着室にご移動をお願いしてよろしいでしょうか
「恐れ入ります」は相手を敬う気持ちを込めたクッション言葉です。唐突にお願いするよりも、丁寧さが加わるので忘れずに使いましょう。面倒や迷惑につながるケースの場合は「大変恐れ入りますが」を用いるように使い分けましょう。
お手数をおかけいたしますが、こちらにお名前をご記入いただけますでしょうか
「お手数」を使うクッション言葉は、文字どおり手を使っていただくときに使いますので、カードのサインを記入いただくときや、後日何かを送付いただくときなどに活用できます。また「お手数」という言葉には「労力」そのものを表す意味もありますので、軽めのお願いごと全般に使っても差し支えありません。
ご足労をおかけいたしますが、来週あらためてご来店いただけますでしょうか
「ご足労」という単語を使うクッション言葉は、お客様の移動を伴うお願いのときに使います。もう一度店舗まで足を運んでいただくとき、別な場所に移動していただくときに活用できます。
ご迷惑(面倒)をおかけしますが、何とぞご了承いただけますでしょうか
再来店の希望日が定休日である、などお客様にとって迷惑になるケースで使います。「迷惑」よりも「面倒」のほうがより重い表現になるので、こちらのミスで二度手間を起こしてしまった場合などは「ご面倒をおかけいたしますが」のほうがより適切です。
お客様にお断りをするとき
必ずしもご要望にお応えできないときに「できない」というニュアンスが強く伝わると、お客様は気分を害してしまいます。できるだけ柔らかく伝わるよう語尾を「できません」ではなく「いたしかねます」など肯定的な表現に変えてお伝えしつつ、クッション言葉で丁寧さを加えていきましょう。
あいにく(ですが)、ご希望のサイズが売切れてしまいまして、来週入荷予定となっております
相手の希望に添えない場合に、お詫びや思いやりの気持ちを表すために「あいにく」を使います。在庫を切らしております、で話を終えないように次の入荷予定までご案内するなどして、肯定的に終わらせましょう。どうしても対応ができない場合は「ご希望に添えず申し訳ございません」と謝罪の気持ちを伝えるのを忘れずに。
大変(誠に)申し訳ございませんが、店内での飲食はご遠慮いただいております
受入れることができないことに対しては、最初に謝罪の気持ちを表すことで、後につながる「無理です」という意図が伝わりやすくなります。「できません」と言わずに「ご遠慮いただいております」という肯定表現を使うことで否定のニュアンスも和らぎます。
ご要望に添えず(大変)残念ではございますが、お探しの商品はすべて完売となっております
店側の都合を伝えることになる場合に「本当はお客様の気持ちに応えたいのだけれど」という気持ちを加えるために使用します。「残念」というニュアンスが入ることで「やむを得ない」表現に適しており、たとえば昨年から完売している商品について今年問い合わせが来たような場合などはこの表現で対応できます。
(大変/誠に)心苦しい限りではございますが、いまご用意できるのは1色だけとなっております
「ご要望に添えず」と同様に、お客様の気持ちに応えたい気持ちを表すクッション言葉ですが、より重い表現になります。たとえば店内の連絡がうまくいっておらずに、頼まれていたのと違うものを用意していたような場合は「心苦しい」のほうが適切です。その後に続く言葉も「1色しかご用意できません」ではなく「1色だけでしたらご案内できます」と、「できない」より「できる」にフォーカスしてお伝えするよう配慮しましょう。
話す側は何気なく口にした言葉だとしても、お客様には思いのほか強い印象で残ってしまうことがあります。どうしても避けられないお願いやお断わりこそ、クッション言葉を上手に用いながら、できるだけ柔らかくお伝えできるようになれば、コミュニケーションもよりスムーズに行えるようになるでしょう。
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