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ファッションの魅力を描く漫画家たちVol.4 矢島 光

ファッションに関する仕事というと、ショップの販売員など各ブランドで働くスタッフをイメージする人が多いと思いますが、世の中には様々なファッションに関わる仕事が存在します。そんな中から、イラストとストーリーでファッションの魅力を伝えることができる「漫画家」にインタビューをする企画をスタート。漫画家から見たファッションや「好きを仕事にすること」についてお話をうかがいます。

第4回は、大学在籍中に2011年モーニングMANGA OPEN(講談社)で漫画家デビューを果たし、2020年から連載を開始した『光のメゾン』が今年7月に完結したばかりの矢島光先生にお話していただきました。


小学生からの夢だった漫画家に

Q.7月13日に最終巻となる4巻が発売されました。完結されていかがですか?

最終話を書きながら「もうこの子たちとも会えないのかあ」と、終わってしまう寂しさを感じて少し泣きました。今は次の作品どうしようというのをずっと考えていて、感傷に浸っている暇はなく、「いやあ、まいったね」という状況です(笑)。

Q.漫画を描き始めたきっかけは?

小学生の頃に漫画が大好きで、漫画家になりたいという夢が今まで続いている感じです。中高生の頃は部活に夢中だったので描く時間がなかったんですが、大学に入って「そういえば漫画家になりたかったんだった」と思い出し、初めて原稿用紙に漫画を描き始めました。色々な編集部に持ち込みもしていましたね。

Q.持ち込みではやはり厳しいコメントもありましたか?

講評のあとは必ず大泣きしていました(笑)。でも、憧れの出版社に行って、漫画家になるための過程を踏んでいると思うと精神が駆動している感じがして楽しかったんですよね。大学4年生の頃、ラストチャンスだと意気込んで描いた漫画を「MANGA OPEN」に投稿し、佳作を受賞して担当編集さんがつきました。受賞パーティーがあったので、その時にネームじゃなくて原稿を持っていったら「こんな短期間でやるじゃないか!」ってなるのでは!?なんて思って、卒業旅行に行かずに32Pの漫画を、見開きの表紙まで描きあげて持って行ったんですが、実際は1分くらいでバーっと読んで、スッと返されちゃいましたね(笑)。編集部の方に「週刊連載できる?」と聞かれて、咄嗟に「できます!」と答えたんですが、「本当に週刊連載できるならいいんだよ」と。

Q.それはつまり「できるわけがないよね」と…

そうです。実際にはできるわけがないんですよね(笑)。でもその受賞パーティに審査員としていらっしゃった東村アキコ先生に「ラブコメ描きな!あんたはラブコメ!」とアドバイスをいただいたり、帰りのタクシーの中で担当編集さんに「あんなに言ってもらえるのは才能があるからだよ」と励ましてもらいました。苦しい言葉も沢山ありましたが、それよりも「漫画の世界に入れたんだ」という喜びが大きかったです。

デビュー後、社会人経験を積むために就職

Q.大学卒業後、一度就職されているんですよね。

はい、サイバーエージェントに就職しました。内定辞退の旨を伝えに行った際に、当時のクリエイティブディレクターの方に「自分の作品を作りたいという気持ちはよくわかるけど、お金は大事だよ。とりあえず一度勤めてみても良いんじゃない?」と言われたんです。編集部の方にも「一度社会を見てきた方がええんちゃう?」と言われて、それもいいかなと。「本当に描きたかったらまた君は戻ってくるよ」という編集部の方の一言も大きかったかもしれません。

Q.どのタイミングで再び漫画の道に?

サイバーエージェントには3年間勤めましたが、良い人ばかりで本当に周囲の環境に恵まれていたと思います。アメーバピグのフロントエンジニアも任せてもらえて、充実していました。それでも私の中には、漫画家としてアシスタントさんに指示している自分のイメージがずっとあったんですよね。サイバーエージェントでの仕事がどれだけ楽しくても、自分のなりたい姿にこの道は続いてないなと思い、仕事を辞めました。暫くストーリー漫画を描いていなかったので、エッセイ漫画を描いてファッション誌に持ち込んだんですが、「ギャグは向いてない。ストーリーをやって」と言われました。ストーリーを描き始めたものの辛くて一旦描くのを辞めてしまって…でもその1週間後に連載が決まり、「耐えた~!」と(笑)。それが単行本化もされた『彼女のいる彼氏』です。

諦めたことの中にこそ自分が在る

Q.『彼女のいる彼氏』と『光のメゾン』の間に「バトンの星」も連載されていました。その時に体調も崩されてしまったとか…

今はもう寛解していますが、うつ病を患ってしまったんです。作家活動に孤独はつきものだとは思うんですが、うつ病の時の孤独ってまた少し性質が違って、辛かったですね。『光のメゾン』の連載が始まった時はまだカウンセリングに通っていました。『光のメゾン』を描いていなかったら今どうなっていたのかなあ…。

Q,病気中に『光のメゾン』を描き始めたんですか!?

今思えばかなり危険な行動なんですけど、描かなきゃ救われないなと思ったんです。病院で出された薬も効かなくて、じゃあもう漫画描かなきゃ治んないでしょ、って(笑)。ただ、ずっと「気合いでしょ!」でなんでも乗り越えてきてしまったところがあったんですが、できないものはできないということを理解しました。しっかり睡眠と栄養をとるという、基本的なことを徹底しましたね。

Qなぜファッションをテーマに?

担当編集さんの「ファッションをテーマにしてみたら?」という一言で描き始めたんですが、元々ファッションが好きだったので興味津々のスタートでした。東村アキコ先生に向いてると言っていただけた恋愛モノの『彼女のいる彼氏』と、担当編集さんから勧められて描き始めた『光のメゾン』でこうして単行本を出すことができたので、自分の“得意”を周囲の人に見つけてもらっているのかもしれません。

Q.光のメゾン』では主人公の千が、本来希望のデザイナーとしてではなくパタンナーとして活躍します。矢島先生の漫画という夢に対する焦らない姿勢は、最終回での「デザイナーじゃなくていいんです!現時点で私は一生ファッションに添い遂げるつもりなので、パタンナーとして携わる期間があることも尊いなって」という千のセリフに通ずるものがありますね。

まず「漫画家たるもの、週刊連載をしなければ!」という変な思い込みを捨てました。勢いだけじゃどうにもならないこともあるし、もっと長期的に漫画を描けるようにメンテナンスする必要があるなと。手に入れられなかったこと、諦めたことなどの多さに比例して幸福度は高まっていくと思っています。長い間思い描いて、それでも諦めたことの中にこそ自分が在って、その経験が個性になっていく。そして個性が幸せに導いてくれる…。今でも思い通りにならないことに対峙した時、「最高だな」と感じる瞬間があります(笑)。

Q.今後の展望は?

漫画家さんや、担当編集さん、漫画に関わる方に会えるとすごく嬉しいんです。それはその方たちが凄い人だから嬉しいのではなくて、一流の漫画に携わっている方は皆さん本当に優しくて、その優しさに触れる度に私もこうなりたいと思わせてもらえるから。私がこれから良い作品を描けば描くほど、そういった方々に会える確率が上がるじゃないですか。私はすごく好きな漫画家さんがいて、以前友達と「いつかその先生に会いたい」と話したことがあるんです。友達が「絶対会えるよ!」と言ってくれたりして。だけど、その後なぜかモヤモヤしてしまったんです。その時の会話は、「漫画業界に身を置いていたら、いつか会って写真を一緒に撮ってもらえるかも!」というニュアンスを含んでいて、それが心に引っかかったんですね。私はファンとしてその先生に会いたいのではなくて、同じ”漫画家”として会いたいんだ、「君の漫画読んでるよ」と言ってもらうのが夢なんだと気付いたんです。じゃあ描かなきゃいけない、頑張らなきゃいけない。今はただそれだけですね。漫画家って格好良いんです。憧れちゃうんですよ。

※…『モーニング』および『モーニング・ツー』で2014年まで行われていた漫画新人賞


『ファッションの魅力を描く漫画家たち』
ファッションの魅力を描く漫画家たちvol.1 常喜寝太郎

ファッションの魅力を描く漫画家たちVol.2 坂本拓

ファッションの魅力を描く漫画家たちVol.3 猪ノ谷言葉


矢島 光 やじま・ひかる

大学在学中に2011年モーニングMANGA OPEN(講談社)にて漫画家デビューを果たすも、大学卒業後は社会人経験を積むためにサイバーエージェントに就職。2015年に退社後、専業漫画家に。『彼女のいる彼氏』、『バトンの星』などの連載を経て2020年1月から2022年6月まで漫画アプリPalcy(講談社)で『光のメゾン』を連載。

『光のメゾン』(KCデラックス)


幼い頃、帰りが遅い両親を1人寂しく待つ千(せん)に突然射したオレンジ色の温かな光。それはうちにいなよと手を差し出した燦(さん)だった。
息ピッタリの2人はファッションデザイナーを目指して一緒に服を作り、同じファッションブランドに入社。
そんな2人とは真逆に1人で海外でファッションデザイナーとして活躍後入社した市(いち)。異色の3人がファッション業界の頂点を目指す、夢追い物語。

https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000029726


TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)

PHOTO:坂野 則幸

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