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ファッションの魅力を描く漫画家たちVol.1 常喜寝太郎

ファッションに関する仕事というと、ショップの販売員など各ブランドで働くスタッフをイメージする人が多いと思いますが、世の中には様々なファッションに関わる仕事が存在します。そんな中から、イラストとストーリーでファッションの魅力を伝えることができる「漫画家」にインタビューをする企画をスタート。漫画家から見たファッションや「好きを仕事にすること」についてお話をうかがいます。

第1回は、ちばてつや賞第68回ヤング部門で準優秀新人賞を受賞、ロリータファッションをテーマに「自分らしく生きること」を描いた『着たい服がある』が第23回 マンガ部門 審査委員会推薦作品にも選出された、常喜寝太郎さんです。


忍者になる夢を諦め、漫画家に

Q.漫画を描き始めたきっかけは?

幼稚園の頃から絵を描き始めて、既に将来の夢は「漫画家」と決めていました。でも本当は最初の夢は「忍者」だったんですよ(笑)当時は世代的に忍者ブームで、忍者になるために毎日走り回っていました。でも、ある日重たいセロハンテープ台を足の上に落としてしまって、脚の指が折れてしまったんです。「もう忍者の夢は叶えられへん…走られへんし…」と忍者の夢は諦めることに…(笑)

実は母も若い頃に漫画家を目指していて、走れず落ち込んでいる僕に「絵を描いたら?」と勧めてくれたことがきっかけで、その時飼っていたハムスターをひたすら描き始めました。そこからは絵を学べる「美大」という場所があること、漫画家という職業があることを知り、将来の夢を忍者から漫画家に変えました。

Q.『着たい服がある』は「ロリータ服を着たい」という誰にも言えない秘密を抱える女子大生マミの物語。なぜロリータファッションをテーマに選ばれたのでしょうか?

元々はロリータファッションについて全然知らなかったんです。友人がKERA(パンク、ロリータ、ゴシックなど、個性的なファッションやカルチャー情報を掲載するファッション誌)を読んでいたり、大学にロリータファッションの子がいて「可愛いな」とは思っていたのですが、ロリータファッションをテーマに選んだのはたまたまですね。ただ、デビュー作のインスピレーションは大いに受け継がれていると思います。デビュー作は奇抜な男の子が好きな服を買うために奔走するという漫画でした。「なんでそこまでして買いたいのか」という登場人物の問に対して主人公が「着たい時に着るのが一億倍気持ち良い」と答えるシーンがあるんですが、そのインスピレーションがずっと残っていて、『着たい服がある』と同じ設定のプロトタイプができました。漫画をTwitterに上げてみたところ3万近くRTされて、沢山の感想を頂きました。

「着たい服を諦めた人がこんなにいるんだ」

Q.ファッションの中でもロリータはコアなジャンルだと思いますが、そんなに反応があったのですね。

皆さんにも着たい服があって、でも着ることを諦めた経験がある方が沢山いらっしゃることを知りました。自分は着ることができなかったからこそ、今着ている人を応援したいという方がとても多かったですね。ロリータファッションの知識がなかったので、最初は甘ロリ(ロリータファッションの中でも甘さを追求したスタイルのこと)のことをゴスロリ(黒を基調に薔薇や十字架などのモチーフを取り入れたスタイル)と描いてしまって…。読者の方から指摘されたことをきっかけに、ロリータファッションについて沢山調べました。掲示板などでロリータの方々の悩みを見るうちに、彼女たちの抱える悩みはロリータに限らず、僕たちにも当てはまるなと気付いたんです。そのことを担当編集さんに話したら「じゃあそれを描いてみようよ!」と背中を押して頂いて、『着たい服がある』が生まれました。

ファッションは「自分らしさ」を見つけるための入り口

Q.「着たい服がある」ではファッションを通して「自分らしく生きる」ということが描かれています。なぜ自分らしく生きることをファッションで表現しようと思ったのでしょうか。

「自分らしく生きる」ということは、スポーツでも漫才でも表現できたと思うんです。でも、服が大好きなので服をテーマにしました。僕は、例えば服とか腕力とか、自分を特別に着飾ったり強く見せるものがなくても生きていける人が最強だと思っているんです。ファッションをアイデンティティにしてしまうと、じゃあファッションがなくなった時の自分は「自分らしくないのか?」という話になっちゃうじゃないですか。真っ裸の状態でも「自分らしさは自分の中にある」と言える人が一番強いなって思うんですよね。でもいきなりそんな「自分らしさ」を求められても無理。そこで、「自分らしさ」を表現する一番わかりやすいものがファッションなのかなって。「自分らしさ」を見つけるためのきっかけとして、ファッションは素晴らしい存在だと思います。

Q.「着たい服がある」を描いたことで何か心境の変化はありましたか?

作中で小澤が学校でいじめられる回想シーンがあるんですけど、あれは僕の実体験です。いじめをきっかけに、ちょっと強めの服を着るようになりました。僕は小澤と同じで、弱い自分を隠すために強い鎧としてファッションに走ったんですよね。でも、『着たい服がある』で小澤がファッションという鎧を脱いで変わっていく姿を描いたことで、僕の服に対しての考え方も変わりました。

表現方法が変わっても表現したいことは変わらない

Q.漫画家以外になりたかった職業はありますか?

正直、クリエイター系ならなんでも良いですね!(笑)僕、格闘技が好きで、今格闘技に関わるお仕事をさせて頂いているんですが、これって漫画家じゃなくてもチャンスは頂けたじゃないですか。表現方法が変わっても表現したいことは変わらないと思います。

Q.やはり「好きを仕事にした」からこそ苦しいこともあるのでしょうか。

仕事って多かれ少なかれ絶対「やりたくないこと」が出てくると思うんです。その時に好きじゃないことを仕事にしてしまうと「やりたくないこと」しか残らない。でも好きなことを仕事にしていたら、9割「やりたくないこと」だったとしても、1割の「好き」は残りますよね。この1割の「好き」って、すごく大きいと思うんです。よく「何もやりたいことがない」という人がいらっしゃいますが、それはきっと見つけられていないだけだと思います。「お気に入りの映画は?」「今日はどうしてその服を選んだの?」――そんな風に考えていけば「好き」が見つかる。その「好き」を集めていくことでやりたいことが見えてくるんじゃないでしょうか。

Q. 「好きを仕事にする」ための一歩は、「好き」を見つけることなんですね。

例えばファッションが好きでアパレルショップに就職したとして、そのショップが自分に合わないと感じた時、「どうしてそのショップを選んだのか」という原点に立ち返ってみて欲しいんです。もしかすると、そのショップで働き続ける必要はないかもしれない。そもそも「好き」っていう気持ちって日々更新されていくものだと思うので、「好きだと思っていたけど違った」でも良いんですよ。「好きを仕事にする」ために継続は欠かせないと思いますが、「継続=ただ続けていくこと」ではないと思います。自分の「好き」を見つめ直して、アップデートすること、そして自分の得意なこと、苦手なことを理解するということも大切なんじゃないかな。

様々な経験が「引き出し」に

Q.元ギャル男、格闘技、ブレイクダンス、社交ダンス…様々なことを経験されています。それらの経験はどんな風に今の仕事に活きていらっしゃいますか?

もちろん話のネタになったり、そこから色々な人と出会えたり、メリットは沢山ありますけど、やっぱり体験を通して「どう感じたか」という経験を得られるのは大きいですね。例えばサッカー漫画を描くとして、サッカーの経験はなくても野球経験があれば、野球を通して感じたことや価値観の変化を描けますよね。僕も自分のファッションジャンルとしてはギャル男でしたが、その時の経験を活かしてロリータファッションをテーマに漫画を描きました。色々な経験をすると、描きたいテーマとリンクできる引き出しが増えていくんです。

Q.次作である『不良がネコに助けられてく話』も好評発売中、映像作品の脚本も務められている常喜さん。今後挑戦したいことや夢はありますか?

もっと響く漫画を描いていきたいというのはもちろんですが、自分自身を売り込むためにできることはなんでもやりたいと思っています。『着たい服がある』の作者としては認知されていても、「常喜寝太郎です」ではわかってもらえなかったりするので…。1回で良いから街で「あの…常喜さんですよね…?」って言われてみたいんですよ(笑)

『ファッションの魅力を描く漫画家たち』
ファッションの魅力を描く漫画家たちVol.2 坂本拓
ファッションの魅力を描く漫画家たちVol.3 猪ノ谷言葉


常喜寝太郎 つねき・ねたろう

滋賀県出身。ちばてつや賞第68回ヤング部門で準優秀新人賞を受賞。趣味は服を買うことと格闘技。『着たい服がある』は初連載作品。

『着たい服がある』(モーニングKC)

「ロリータ服を着たい」
それは、女子大生・マミの誰にも言えない秘密だった。
家、学校、職場……社会の中で「自分らしく」あるために、マミはもがき、傷つき、やがて答えを見つけていく——。
これは、ただの「服マンガ」ではない。他者との関わりに悩む全ての人へ贈る、真の「自分探し」物語。

https://morning.kodansha.co.jp/c/kitaifukugaaru.html


TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)

PHOTO:須藤しぐま

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