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日本の縫製工場を支援する転職エージェントのかつてない試みとは?


90年代以降のファストファッションブームを背景に、日本のファッション産業は賃金の安い海外工場に生産拠点を移してきました。その結果、日本における縫製工場は減少。“メイド・イン・ジャパン”はいま、危機に瀕しています。

そんな現状を変えるべく、新事業を立ち上げたのが転職エージェント『エーバルーンコンサルディング』(※以下、表記『エーバルーン』)。衣服生産のプラットフォームを提供する『シタテル』と事業提携し、深刻な状況下にある工場をM&Aの手法で支援するサービスを開始。このかつてない試みについて、M&Aアドバイザーの吉田直哉さんに話を伺いました。

工場と企業をつなぎ、日本の物づくりを活性化させたい

−まずは今回の事業提携に至る背景となった、日本の縫製工場の現状について教えてください。

ファストファッションの人気と並行して、衣料の低価格化が進んだ90年代以降、日本のファッション産業はコストの安い海外に生産拠点を移してきました。その結果、国内における縫製工場が立ちゆかなくなり数が減少。日本におけるアパレル品国産比率は、1991年に50%だったものが、2016年には3%まで減少している現状があります。

また、日本のアパレル業界特有の構造もそれに拍車をかけています。ブランドやメーカーと工場の間に複数の中間業者が介在することで、低価格な商品を作ろうとするほど、現場の工場は非常に低い工賃で仕事を受けざるを得なくなる。結果として、物づくりを支える縫い子さんたちが低賃金労働を強いられて、よい人材が定着しません。日本が誇る技術が継承できないまま、倒産に追い込まれるという事例も数多く起こっているのです。

−今回、『シタテル』と業務提携した目的とはどのようなものでしょうか?

『シタテル』という会社は、国内外の縫製工場や生地メーカー、パタンナーなどのネットワークを構築し、衣服を作りたい人が直接生産者とつながれるプラットフォームを提供しています。彼らが提携先となる工場を視察する際、「工場を閉鎖する予定なので、ミシンや機械を買い取ってくれるところはないか」と相談を受ける事例が少なくありませんでした。そうやって廃業を決断する前に、私たち『エーバルーン』がM&Aという手法を用いて工場のビジネス価値を正しく判断、的確な企業マッチングを行うことで、高い技術力を持つ工場をひとつでも多く救い、ゆくゆくは日本のファッション業界の活性化につなげることを目的としています。

M&Aという手法が、アパレル業界の衰退を止める機会になれば

−工場のM&A、という斬新なアイデアが生まれたきっかけを教えてください。

私たちはもともとファッション専門の転職エージェントであり、M&Aコンサルティングサービスを提供する会社です。このM&Aという業務を手がけるうえで、最も苦労するのは売り手先企業を探すプロセス。というのも「会社を売りませんか」と口にするのはやはり失礼にあたるものです。どうやって売り手先候補から自発的に相談を受けられるか、と考えるなかで、『シタテル』の取締役である鶴征二さんから「日本の縫製工場は、深刻な継承問題を抱えている」と聞いたことが頭に浮かびました。

縫製工場の多くは、地方での小規模事業が主流です。M&Aという発想が、そもそも選択肢として浮かんでこないケースも考えられる。もし廃業する一歩手前の段階で私たちが手法を提示し、適切な企業の支援を受けることができたら工場が活気を取り戻し、ひいては日本の物づくりが元気になる。そう考えて『シタテル』側に提携の打診をしたところ、「クライアントの力になることだから」と快く話を受けていただきました。ファッションの採用キャリアを支援する立場の私たちとしても、アパレル業界が衰退してしまうのは望まない未来です。『エーバルーン』と『シタテル』、まさにお互いの見つめる先がマッチしたというわけです。

−2018年6月に業務提携を開始してから、約3ヵ月が経過しました。現在の活動状況を教えてください。

いまはまず周知を進めている段階で、具体的な提携までは至っていませんが、地方の縫製工場からさっそく相談のお問合せをいただいています。今後の課題として、M&Aという言葉の響きから「強者が弱者を買収する」かのようなイメージを持たれることがよくあります。実際はそうではなく、双方の合意の元に成り立つものであり、納得がいかなければ他の手段をとることができる、という知識をしっかりとお伝えし、啓蒙活動をしていくことが、今後私たちが大切に取り組んでいくべきことだと思っています。

シタテル取締役企画統括の鶴 征二さん(左)とエーバルーンコンサルティングM&Aアドバイザーの吉田直哉さん(右)

 

ファッションテックの発想が、縫製工場の自立を助ける可能性も

−この仕組みが動き出すことによって、縫製工場を取り巻く環境にどのような変化が起こってほしいと考えていますか?

これは私見になりますが、アパレル業界の価格競争が工場の低賃金労働を生み、技術の継承問題につながっているというこの問題がもっと取り上げられ、現在の在り方に対する議論が生まれるきっかけになれば、と考えています。本来もっとリスペクトされてしかるべき技術力を持った方々が、適切な賃金を得られないのは業界の構造が生んでしまった弊害です。そこをもう一度考え直すことができ、低賃金での労働が解消されて働く人たちもハッピーになれば、結果として「ここで働きたい」という声もニーズも生まれてくると考えています。

−海外における縫製工場の技術力が上がった今、国内の縫製工場が廃れることは必然ではないか、という意見も聞かれます。日本の物づくりにどんな可能性を見出していますか?

海外にも高い技術を持った工場があるのはその通りです。しかし“メイド・イン・ジャパン”の価値が見直され、盛りあがることによって、苦戦を強いられている日本のアパレル産業が“消費されるもの”から“欲しがられるもの”に転換する可能性を秘めているのではないか、と私は考えています。現在、『シタテル』さんをはじめ「ファッションテック」という分野、いわゆるテクノロジー産業がファッション業界で新たなビジネス展開をしていくケースが増えてきました。これもやはり私見ですが、それは今の縫製工場という在り方もアップデートされる必要が出てきている、というひとつの現れなのかもしれません。

たとえば食の分野などはその点で先をいっており、生産者と消費者を直接結びつけるITサービスなどが当たり前に存在しています。そういう外部の視点がM&Aによって縫製工場に組み込まれることで、たとえば工場側が自社ブランドを持ち、B to Cの機能を高めて事業展開を行うなど、これまでとは違う自立した価値を発揮するケースが増えてくると思っています。

物づくりの背景を知ることも、ブランド価値を上げる方法のひとつ

−最後に、ファッション業界に働く人たちにメッセージをお願いします。

ファッションが必要とされていくには、やはりお客様にブランドの“価値”を見出していただく必要があります。では、価値がどこにあるかを考えたとき、目の前にある衣服や雑貨の背景を理解することは必須ですし、逆に出所もわからないまま「おしゃれだよね」というだけの提案では、次々と消費されてしまうことになる。

お客様に大切にされ、愛着を持っていただくためにも、まずは自分たちが携わる商品がどういう人たちによって、どういう工程で作られているのかぜひ関心を持っていただきたい。それを一人ひとりが誇りを持って、お客様に伝えていただくことが工場、ひいてはアパレル産業全体の活性化へとつながる。ファッション業界の最前線で働く方々こそ、その大切な役割を担っているのだと思います。

Interview&Text:Aki Kiuchi

 

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