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スポーツを通じて、子供たちに幸せな未来を残す|アパレル企業のサスティナブル戦略 「アシックス」編


自然環境を守り、次の世代によりよい未来を残すための視点として、時代が求めるキーワードのひとつが「サスティナビリティ=持続可能性」。環境や社会とバランス良く共生することを目指すこの考え方は、さまざまな企業の経営戦略にとって欠かせない要素となっています。

アパレルの分野でもこの動きは例外ではありません。『ケリング』や『LVMHグループ』などラグジュアリーブランドを筆頭に、世界を視野にグローバルに活躍するブランドにとって、サスティナブル戦略はもはや必須事項です。

そこで、社会への配慮について一歩先をゆく企業から学ぶべく、第1回は各種スポーツ用品を展開する『アシックス』CSR・サステナビリティ部 部長 吉本譲二さんに、同社のサスティナブル戦略についてお話を聞きました。

『アシックス』における、サスティナブル戦略の方針は?

『アシックス』では、グローバル規模で持続可能な社会を実現することに力を入れるため、全社の事業戦略にCSRやサスティナビリティの考え方を取り入れています。2004年、それらを促進するため、日本・ヨーロッパ・アメリカそれぞれに専任の部署を設置。社内外のステークホルダーとも連携を取りながら、日々活動を行っています。

2017年に誕生した新たなブランドメッセージ『I MOVE ME(ワタシを、動かせ。)』には、「体を動かすことで、活力や幸福感を得るなど心の充実を感じて欲しい」という願いが込められていますが、私たちのサスティナブル戦略もそれに連動し、

①『I MOVE ME Smarter(環境への配慮)』
②『I MOVE ME Stronger(人と社会への貢献)』

という2つの柱に分類して、それぞれに目標を設定しています。

環境に配慮する『I MOVE ME Smarter』の代表的な活動は?

●CO2の削減

オフィスや倉庫、工場などで使われる電力は企業体が大きくなるほど膨大になり、それがCO2の発生に悪影響を与えます。その対策として『アシックス』は『SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアチブ)』に参加しています。

ここは国連の『COP21(気候変動枠組み条約締結国会議)』のサポートも行っている有識者らによって構成されており、企業の温室効果ガス削減を認定する機関です。SBTに参加すると、科学的な根拠をベースに、気候変動への影響を最小限に抑えるためにどのくらいCO2を削減するべきか、排出量(Scope1&2)の具体的な数値目標を設定してもらえます。

私たちはそれに準拠し、2030年度に向けてCO2排出量33%削減(2015年比)を掲げました。具体的な例としては全社をあげてCO2を排出しない電力の購入を促進。ヨーロッパにおいては風力発電やバイオマスの利用、アメリカにおいてはソーラーパネルの導入などを実施することで、2018年にはCO2排出量17.5%削減を達成しました。

●環境に配慮した製品の開発

平昌2018冬季オリンピック・パラリンピックで日本代表選手団に提供したシューズ『GEL-YETI 2』が、スポーツシューズで初めてエコマーク認定を取得しましたが、私たちのものづくりでは環境に配慮した材料や工程を多く取り入れています。

スポーツシューズを例にすると、リサイクル素材や植物由来のバイオマス素材を使ったり、軽量化することで運送時のCO2を削減したり。また耐久性を高めることで買い換えの頻度を減らして環境負荷を減らす、という考え方も採用。数を売ることだけを優先するのではなく、履き心地のクオリティや耐久性を感じてもらい、ブランドのファンを増やすことが大事だと考えています。

●環境にも人にも、安心・安全を徹底

繊維に色をつける染料などの化学物質の中には、水質を汚染するもの、アレルギーの原因になりうるものなど、危険な物質が含まれているケースがあります。そこで2017年末、化学物質の安全管理をさらに強化するため、スイスの『ブルーサイン テクノロジーズ』社と、日本のブランドで初めてシステムパートナー契約を結びました。

これまでは、使用する材料に含まれる危険化学物質に対し、自社で独自検査を行っていましたが、今回の契約により、環境リスクの少ない持続可能な化学物質や、水質汚染などに配慮した材料の世界的データが得られるように。結果として、より安心・安全な製品を提供することが可能になっています。

人と社会に貢献する『I MOVE ME Stronger』の代表的な活動は?

●提携先工場の、労働環境の改善

製品の製造に関わるサプライヤー(委託先工場)を筆頭に、スポーツウェア・スポーツシューズの産業は人間による労働業務の割合が大きい“労働集約型産業”のひとつです。特に私たちのサプライヤーの多くが途上国にあることを考えると、児童労働や長時間労働などの人権侵害を起こさないような配慮は欠かせません。

対策のひとつとして、グローバル各地のCSR担当者が監査員として工場に毎年足を運び、人権侵害が起こっていないか現場調査を行っています。さらに現地の法律や言語、文化に精通した専門の監査機関にも調査を依頼するなどし、2020年までに100%のサプライヤーが私たちの求める労働環境水準を満たすよう、尽力しています。

また、スポーツ用品を扱う私たちは、ワールドカップやオリンピックなどの国際的なイベントをサポートする機会が数多くあり、そのタイミングに合わせて人権を擁護するNPOなどの各種団体から、従業員の労働環境に対する指摘を受けることがあります。ステークホルダーの考えを知ることも問題解決には重要ですから、そういった団体のいくつかに協力を仰ぎ、問題点についてヒアリングを行うほか、人権侵害への懸念を排除するために、提携工場のリストを公開するなどして透明性を高めています。

●地域社会の子供たちをサポート

私たちの創業者である鬼塚喜八郎は、スポーツを通して若者たちの健やかな心身の成長を支えたい、という思いから1949年に『アシックス』の前身、鬼塚株式会社を設立しています。そんな鬼塚の志を継ぎ、未来を担う世代を健やかに育成するため、スポーツで若者たちをサポートするという同じ目的を持っている国際NPO『ライト トゥ プレイ』やアメリカの地域団体『フィット アメリカ』を支援しています。

活動の一例として今年の5月、鬼塚喜八郎の生誕100周年を記念したシューズ&アパレルを『アシックス』『アシックスタイガー』『オニツカタイガー』の3ブランドで発売。それらの商品を1点売上げるごとに10ドル相当を『ライト トゥ プレイ』に寄付、恵まれない状況下の子供たちにスポーツプログラムを提供する活動を支援しました。今回の10ドル相当は、レバノンで暮らすシリア難民の子供ひとりが、プログラムに10週間参加する費用に充てられる予定です。

それぞれの活動における、目下の課題とは?

●I MOVE ME Smarterについて

すでに2020年のCO2削減目標である、「CO2排出の5%削減」は達成しましたが、2030年の目標である「CO2排出の33%削減」に向けてさらに歩みを進めるには、日本のインフラの影響が大きいことが課題です。

というのも、再生可能エネルギーが比較的容易に購入できるヨーロッパやアメリカと違い、日本では再生可能エネルギーの選択肢が限られています。できるだけCO2の排出量が少ない電力会社と契約する、グリーン購入法に基づいた電力購入を行う、などの努力は行っていますが、インフラそのものが今の在り方から変わっていかないと置き換えが難しい。これから未来に向けて起こるであろうインフラ環境の変化を注視しながら、削減に効果のある方法は積極的に採用する考えです。

●I MOVE ME Strongerについて

私たちはサプライヤーに対し、当社が求める労働環境水準をはっきりと提示、守れない場合は契約を解除することを告知しています。しかし中には、いったん労働環境水準が求めるレベルに達していながら、それを継続することができないケースも。

この問題を解決するのに欠かせないのが、キャパシティビルディングと呼ばれる意識改革です。現地の管理職を対象にマネジメント研修を実施し、例えば児童労働がもたらす悪影響を周知させると共に、具体的な排除方法を提案。そのほかにも低賃金労働を無くすため、国の背景に合った賃金計算方法の指導なども行っています。

また、万が一児童労働が見つかった場合は、工場側が子供たちを確保し、責任を持って教育費を払うよう指示し、教育の力で貧困のスパイラルから脱却することも目指しています。

サスティナブル戦略を実行していくことで、人と社会に与える影響とは?

『アシックス』は、鬼塚喜八郎によって戦後まもなく創業されました。当時の混沌とした社会の中でも、子供たちが元気よく走りまわる姿を見て、鬼塚はスポーツを通して子供たちが健全に育つよう願い、その思いが「健全な身体に健全な精神があれかし」という創業哲学に込められています。

当社の活動すべての源泉になっているその哲学は、将来を担う子供たちをサポートする、という意味で「サスティナビリティ=持続可能性」とは非常に親和性がある。当社がサスティナブル戦略に取り組むことで、将来世代の子供たちに幸せな未来を残すことにつながっていく、と考えています。

Interview&Text:Aki Kiuchi

 

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