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より満足のいく形で身につけてもらうために何ができるか?コスチュームデザイナー・高橋正史さんインタビュー

俳優やミュージシャンの衣装を手がけるコスチュームデザイナーとして、衣装製作会社・有限会社オーティーエルの代表を務める高橋正史さん。映画やドラマ、ライブやミュージックビデオなど、様々なメディア作品に使用されるコスチュームを製作し、30年以上に渡り信頼を獲得しています。東京モード学園の卒業生として後輩である学生たちにセミナーを行うなど、若手の育成もサポートしている高橋さんに、デザイナーを志した動機や仕事のやりがいについて伺いました。

学生時代に思い描いた夢は、唯一無二のデザイナー

−どのような経緯で、ファッションの道を志したのでしょうか?

もともとは中学・高校とテニスに打ち込む学生生活を過ごしていました。大学からテニス推薦をいただけるほどの成績は納めていたのですが、卒業が視野に入ってきた頃、ふと「僕はテニスの道で一生食べていけるのか?」という不安を覚えたんです。そこで進路相談のとき、先生に思いを打ち明けたところ「あなたには人とは違う個性がある。ファッションの道なんてどう?」と言われまして。それを母に話したら大喜び。というのも僕の家庭は親族にファッション専門学校の出身者が多く、みんな洋服が大好き。中でも母はわざわざ息子のためにウール100%の学ランをあつらえてくれたほど、服にこだわりがある女性だったんです。ちょうどその頃、東京モード学園が斬新なCMを打ち出していました。それを見た母が「東京モード学園に行くなら学費を出してあげる」と(笑)。それで進路を決めたんです。

−学生時代はファッションデザイナーを目指していたそうですね。

はい。在学中は「イヴ・サンローランのような唯一無二のデザイナーになりたい」という漠然とした憧れを抱いていました。母の影響で、家には様々なファッション関連の図録があり、小学生の時にそれらを何気なく見ていたら、斬新な四角いデザインの洋服があった。それがサンローランの作品だったんです。「こんな服があるのか!」と衝撃を受けたことが、ずっと印象に残っていたんでしょうね。卒業してからもすぐにはデザイナーの道に進まず、テキスタイルメーカーに勤めて生地の勉強をしました。いろんなアパレルに生地を卸す立場ですから、デザイナーがどういう観点で生地を選ぶか間近で見られ、大変勉強になりましたね。

−先日行われた東京モード学園の特別講義では、学生たちにコスチュームデザイナーになるまでの経緯についてお話していらっしゃいましたね。

学生のなかにはコスチュームデザイナーを希望する学生もいました。僕の時代もそうでしたが、なりたいと思ってもなかなか情報を得るのが難しい仕事です。僕の経験が何かの参考になれば、とお話をさせていただきました。

予期せぬ事態を乗り切る、やわらかな発想力が大切

−たしかに、コスチュームデザイナーがどのようなお仕事なのか、については決して情報が多くありません。ぜひ一例を教えてください。

まずは発注者と打合せをして、映画なのかライブなのかなど、衣装を使う用途をお伺いします。そのとき求められるテーマや、衣装を着る人、着用する人数などの詳しい情報も確認します。舞台の広さや装飾などのイメージ、ステージ上でどのような動きをするのか、着替えの有無など、衣装に求められる要件は現場により様々。それらを踏まえながらデザイン画を起こし、イメージをすり合せてから製作に着手、試着を経て完成品に仕上げるのが一般的な流れですね。

−アーティストのライブや映画など、手がける作品によっていろんな面白さがあるかと思います。どんなときにやりがいを感じますか?

アーティストのライブは予期せぬ出来事の連続です。舞台の上ではアーティストもダンサーも気合いが入っていますから、つい力が入って完成したばかりの衣装が破れることもあります。興奮のあまり、1点しかない小道具をアーティストが観客席に放り投げてしまった、なんてこともありました。ライブは数日間続くことが多いので、期間中は現場につきっきりになって徹夜で修理を行ったり、急いで代用品を用意したり。肉体的には大変な面もありますが、自分が手がけた衣装を身につけて演者がステージに上がった瞬間、何万人もの観客からワッと歓声があがる。その様子をステージ脇で見ているだけで、毎回感動を覚えますし、疲れも吹き飛びます。

映画の場合、俳優個人を担当することもありますが、時には作品に登場するすべての衣装を担当することも。まずは台本を読みながら、季節感や時系列がおかしくならないように、作品の中に何日分の場面があるのか計算をして、何パターンのコーディネートを用意しなければいけないか割り出すところからスタート。誰がどこに立つのかシーンを想像しながら、どういう衣装を着せれば効果的に見えるか、配色やバランスを考えてゆきます。入念な準備が必要ですし、作品丸ごととなると用意する衣服の量も膨大。それでも「今回の衣装良かったよ」と出演俳優さんに声をかけていただくと、苦労が報われた気持ちになります。

−やりがいがある反面、どのような瞬間に製作の難しさや苦労を感じますか。

どこにも答えのない“感性”のお仕事ですから、演者の思い描いていたイメージと合わない、ということも当然起こります。そういうときに自分の提案を押しつけるのではなく、相手に合わせて直せるところはギリギリまで直しますし、改良も重ねます。俳優もアーティストも多忙な方が多いので、フィッティングの時間が取れず、なかにはデザイン画を提出したら、もう次は本番というケースも。「万が一サイズが合わなかったら、こうやって対応しよう」など、予期せぬ事態が起こったときのために普段からイメージトレーニングを積み重ね、対応力を磨いておくことが、コスチュームデザイナーに求められる姿勢。より気持ちよく、より満足いく形で身につけて抱くために何ができるか、という柔軟性はいつも身につけておこう、と意識しています。

心の支えは「絶対に失敗しない」という強い気持ち

−これから新たに挑戦していきたいことはあれば教えてください。

先日、スクウェア・エニックスより発売された『THE QUIET MAN』というダウンロードゲームの衣装を担当しました。実写映画とCGのアクションゲームが一体となった作品なのですが、架空のキャラクターの衣装を手がけるのは非常に面白い体験でした。映画でもドラマでも、衣装をイメージするときは役柄の性格や行動などを想像しながら考えるものですが、今回ゲームに携わったことで、何を着せるかだけではなく、人種や顔立ち、髪の色など、キャラクターの設定そのものまで提案できたら面白いのではないか、と考えるようになりました。実際、ハリウッド映画の現場などではそういう仕事もあるようなので、いつか挑戦してみたいですね。

−最後に、コスチュームデザイナーを目指す人に向けてメッセージをお願いします。

おかげさまで、これまで数々の大きな仕事を経験させていただきましたが、最初からノウハウを知っていたわけではなく、現場で勉強させてもらったことがほとんどです。映画の現場ではカメラマンの横でモニターを覗きながら、画面を通すとどう見え方が変わるのか、コンサートのステージ上ではスポットライトで洋服の色がどう変化するのか、ひとつ1つ学びながら今に至りました。僕は自分のことを「天才だから」とよく言うのですが、もともとの性格はとても心配性です。だからこそ“自分は天才”と口に出して自らに言い聞かせることで、気持ちを盛り立てているんです(笑)。現場は常に真剣勝負。絶対に失敗しない、という強い思いでひとつ1つの仕事を誠実に続けていけば、必ず道はひらけていく。僕はそう信じています。

Interview&Text:Aki Kiuchi

 

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