「レース」と聞くと、糸を編んだり、撚りあわせたりして、透かし模様や花などのモチーフを象ったものを思い浮かべるのではないでしょうか。ファッションをはじめ、カーテンやテーブルクロスなどにも用いられることの多いレース。今回は、そんな身近なレースの歴史や豊富な種類、その特徴についてご紹介していきます。
レースの歴史はヨーロッパから
レースの歴史をたどると、「衣服などを繕うためにかがったのがはじまり」「漁網を編む過程で生まれて発展したもの」とされているなど、諸説あります。すでに紀元前にはレースの原型となるものがあったという説もあるため、簡単にその歴史を追うことはできないようです。
レースが本格的に発展した時代は、およそ14世紀から16世紀にかけてのこと。現在のようなレースが誕生したのは1500年代頃だと言われています。
レースの生産は、ベルギーのフランドル地方やイタリアのベネツィア地方、フランスのランソンやシャンティ地方などで特にさかんに行われていました。優美なレースは、当時の貴族や王族たちの贅を極めた装飾品として扱われ、「織物の王様」と呼ばれた時代もあります。
機械製と手編み製に分かれる
レース機が誕生したのは18世紀頃のことです。ちなみに、日本へは1920年頃にはレース機が輸入され始めています。
レース製造の機械化が進む以前は、すべて手作業で生産されていました。その中でも大きく分けてニードルポイントレースと、ボビンレースに系統が分かれ、より歴史が古いのがニードルポイントレースです。一方、ボビンレースはベネツィアやベルギーで誕生し、ニードルポイントレースをまねるかたちで発展しました。
ここからは、ニードルポイントレースやボビンレースをはじめとする豊富なレースの種類とその特徴について紹介していきましょう。
時代や背景も垣間見える、バラエティに富んだレースの種類
〈ニードルポイントレース〉
ニードルポイントレースは、下書きした紙を地布にしてモチーフを編んでいくレース。好きなモチーフを描きやすく、立体的に編めるのが特徴です。
・ニードルレース
ニードルレースは、縫い針と糸を使って、かがるようにして模様を作ります。アンティークレースの代表格で、レースの中でも手間のかかるレースです。
・グロポワン
ボタンホールステッチでかがっていき、モチーフを浮かび上がらせる手法です。もともとは男性の服装の装飾に使われていました。
・ポワンドネージュ
ネージュとは雪を意味する言葉。ポワンドネージュはまさに雪の結晶のような小さなモチーフを組み合わせて編まれたレースのことをいいます。
・レティセラ
カットワークやドロンワークなどと併せて用いられることの多い技法で、極初期のニードルレースの原型とされています。
〈ボビンレース〉
アンティークレースの一種で、連続で織り込むストレートレースと、断片的に追っていくフリーレースがあります。
・トーションレース
ストレートレースの一種で、太めのリネンとコットンの糸で作られたレースです。トーションは雑巾を示す言葉で、農民の間で広まり、縁取りなどに用いられました。
・ロシアンレース
こちらもストレートレースの一種に分類されます。ロシア時代に作られたテープレースで、一筆書きのように連なる模様が特徴です。
・チュールレース
フランスのチュール地方で誕生したレース。繊細で細かい模様が特徴的なレースで、今では機械編みで製造されています。
・ギュピールレース
組紐や飾り紐という意味の言葉を語源に持っているレースです。太いリネン糸で編まれ、編み上がったものも少し厚みがあります。
・ブリュッセルレース
ベルギー・ブリュッセルで生まれたもの。ニードルレースの技法を活用し、ボビンレースに取り入れた代表的なレースです。
・クリュニーレース
こちらはフランス・クリュニーで誕生したもの。トーションレースの一種ですが、より具体的な模様や柄を編むのが特徴です。このレースは、機械編みになるとリバーレースと呼ばれます。
・シャンティレース
フランス・パリのシャンティで誕生しました。白やクリーム色の糸が定番のレースですが、このシャンティレースは黒糸を使用します。
・ホニトンレース
フリーレースの一種です。イギリスで生まれたボビンレースで、イギリス王室では伝統的に、洗礼式用のベビードレスにこのホニトンレースを用います。
・デュシェスレース
ベルギー・ブリュッセルのフリーレースで、フランス語で「公爵夫人」を意味します。ボビンレースの中でも最高級のレース。花などをモチーフにし、最高級の名にふさわしい優美さがあります。
〈クロッシェレース〉
クロッシェとは、ニードルレース風ですが、かぎ針編みで編まれたレースのことを言います。細編みや長編み、鎖編みなど、細い糸を編み合わせながら模様を作ります。
〈その他のレースの種類〉
・カットワーク
刺繍後に、透かし模様にしたい部分を切り抜き描くレースの技法です。誕生したのは13世紀頃と言われています。
・アイレットレース
薄い生地に穴を開け、その縁をかがってカットワークのように模様を作っていきます。
・テープレース
テープレースは、リボンレースとも呼ばれるレースのこと。テープやリボンなどを一筆書きのように用い、ステッチで固定させていきます。日本では、明治時代にバテンレースが作られるようになり、今でも日傘やハンカチなどの製品に多用されています。
・プリンセスレース
ベルギーで誕生したテープレースの一種です。インペリアルレースやロイヤルレースとも呼ばれます。ネット状の布の上にテープを縫い止めていく製法です。
・ヴェネチアンレース
イタリアのヴェネチアン地方で誕生したレース。モチーフの大きさも多様で、優雅さのある絵柄が特徴です。人気があり、ヨーロッパ各地に広まった歴史があります。
・スワトーレース
中国のスワトーで誕生したレース。透け感がある布を使い、カットワークなどと併用しながら刺繍を施していきます。
・フィレレース
漁網のようなネットに糸を結んでいきながら絵柄を起こしていきます。イタリア・トスカーナで13世紀には作られていたという説もあり、一部でタスカーニレースとも呼ばれています。
・ボーラーレース
エンブロイダリーレース機というレース機に「きり」を取り付け、穴を開けながら編んでいきます。
・マクラメレース
針などを使わずに、結び目を連ねながら模様を作っていきます。タッセル等にも用いられるレースです。
・クンストレース
棒針編みで編んでいくレースです。輪編みや複数の棒針を使うなど、複雑な構成で編んでいきます。
・レザーカットレース
レザーカット機を用いて製造する皮革レースです。
・ドロンワーク
引き抜くという意味のあるドロン。縦糸や横糸を抜き取ったり、束ねたり、刺繍などをしたりして透かし模様を描いていきます。
・ヒーダボー
デンマーク・ヒーダボーで作られたレースです。ドロンワークとカットワーク、ニードルレースの技法を複合的に用いて作られます。
〈機械製レース〉
・リバーレース
機械製のレースの中では最高級のレースで、イギリスのジョンリバーという人物が発明しました。
・ラッセルレース
リバーレースよりも安価に作れるように改良されたレース機です。チュール、カーテン、ブラジャー等に用いられています。蜘蛛の巣のような形をしたスパイダーレースは、このレース機で編まれます。
レースとひとことで言ってもその形態、模様はさまざまです。時代や製法、誕生した地域によって違いがあることを、わかっていただけたのではないでしょうか。