「ひとりでも多くのお客様に、店頭でお買い物を楽しんでいただきたいけれど、今ひとつ客足が伸びない……」そんな悩みを抱えている販売員は少なくありません。そんなとき、店舗から動けなくても直接アプローチできる方法のひとつが「お手紙」。以前、「接客メールの秘訣」について触れましたが、メールのよさは文面を簡単にコピー&ペーストで送れるのに「その人宛」に届くパーソナル感。一方手紙は、メールよりもさらに相手に対する思いが伝わりやすいのがメリットです。
今回は、空き時間の有効活用にもなる、お手紙でのアプローチについて考えてみましょう。
【目次】
・メールやLINEの時代だから「お手紙」が響く
・基本ルールを押さえれば、書くことは難しくない
・お手紙の参考例(夏の新作の紹介)
・DM(ダイレクトメール)の場合
メールやLINEの時代だから「お手紙」が響く
「わざわざ手紙なんて面倒なことをしなくても、メールを送ればすぐなのに」「LINEなら読んでもらえたか、まで分かるし」と思う方もたくさんいると思います。しかし不特定多数に簡単に送ることができるメールの弱点は、特別感を出しづらいこと。ひいては、読みもせずにサッとごみ箱に入れる、ということも可能になります。これはDMなどの印刷物でも同様です。
一方「手書きのお手紙」のメリットは、確実に相手に届くうえ「文字を書く」という労力をかけた証が残ること。自分宛てに届いた封書は多くの場合、必ず開封します。そこにオリジナルの文面があれば「私にわざわざ書いてくれたのだな」という思いが伝わります。あえて不便を選択するからこそ「そこまでしてくれたから、ちょっとお店を覗いてみようかな」とお客様の背中を押す役割を果たすのです。
特に、扱うアイテムの単価が高いラグジュアリーブランドの中には、お手紙のアプローチを実施しているところがたくさん。 上顧客に対してはメールと差別化して、ぜひ真似をしてみましょう。
基本ルールを押さえれば、書くことは難しくない
最初に基本ルールと文面を決めておくことで、作業がスムーズになります。
①面倒でも自筆で書く
パソコンを使って出力したものをお送りしては、メールでコピー&ペーストをした文章と同じ印象を与えます。面倒でも「手紙を出す」と決めたら自筆で送るようにしましょう。自筆には人間の存在を感じさせ、温もりを伝える力があります。「字が下手だから……」と自信がなくても、丁寧に書けば大丈夫。キレイな出力文字よりもずっと、書いた人の人柄や思いを感じさせてくれます。
②便せんは小さめに
大きな便せんを用意すると、内容をたくさん書かなくてはいけないため「手紙を書くのが好き」という人以外は大変です。最初は小ぶりの便せんを選ぶようにしましょう。大きな便せん1枚で収まる内容も、小さな便せん2枚にしたほうが、同じ文字数でもたくさん書いてあるような印象を与えることができ「わざわざ」感を強められます。
③内容はある程度、フォーマット化してOK
手紙の内容を、一人ひとりに応じて変えるのは少々大変です。文面については、どのお客様に対しても同じものを使って良いと思います。その代わり、文章の中に「〇〇様」など、お客様の名前を呼びかけることで「あなたに宛てています」という印象を強めましょう。
お手紙の参考例(夏の新作の紹介)
それでは、実際のお手紙の参考例から、文面の作り方を考えてみましょう。
参考例のポイントを解説
【導入】は、ごあいさつ
・「拝啓」など、手紙の冒頭に使う頭語を入れる
・時候(季節)のあいさつは、四季の豊かな日本ならではの伝統的な習慣
・感謝のあいさつは、できるだけ心のこもった表現を工夫する
・優しい気持ちになれて、さらりと読める短めの文章で手紙を始めるのがベター
よく手紙のノウハウとして「時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のお引き立てにあずかり、厚くお礼申し上げます。」など、正式なあいさつ文を入れるテクニックも紹介されますが、親しみを感じていただくには固い印象になるため不向きです。
【前段】は、自分の近況報告
・突然「お店に来てください!」というアプローチをするのはNG
・時候に応じた近況報告で人柄を伝える
・【後段】にリンクした内容にすると話の流れがスムーズ
参考例で言うと、「夏物の新作を見てもらいたい」というのがこの手紙を書いた目的です。そのため【前段】では「夏物の新作がほしくなる」エピソードが適しています。そこで今回は「お出かけ」をキーワードに「新しい服を来て出かけたい」という気持ちを喚起させることを狙いとし、「旅行の計画」の近況報告を綴っています。
【後段】は、来店アプローチ
・足を運んでいただく動機を記載するのがポイント
・あくまで「お手紙」であり、チラシではないことを念頭に置く
・あなたに来てほしいからご連絡した」という気持ちを後押し
「ブランドからの連絡」ではなく「ひとりの販売員が送ったお手紙」というのを徹底するために、「ご覧いただければ、大変嬉しく存じます」「お近くにお越しの際は、お気軽にお立ち寄りください」など、個人的な気持ちを伝える言い方を添えましょう。
【末文】は、結びのごあいさつ
・結びのあいさつは、今後の健康や幸せをお祈りする言葉が適切
・「かしこ」または「敬具」という結語で締める
・「かしこ」は、女性の差出人が目上の人に対して使う結語
・男性が手紙を送る場合は「敬具」に
今回は親しみを込めつつ丁寧に、というバランスから頭語を「拝啓」結語を「かしこ」にしましたが、格式を重んじる場合は頭語を「謹啓」、結語を「謹言」にするなど、お客様との関係性やブランドの姿勢によって使い分けてもよいでしょう。
【後付け】には、心の距離が近くなる効果が
・後付けは、一般に「日付」「署名」「宛名」で構成。「いつ・誰が・誰に」宛てた手紙なのか明記したもの
・名前の部分には、ブランド名と店舗名を加えつつ、氏名をフルネームで書く
・「あなたに書きました」と重ねて伝えるために、お客様の名前をしっかりと記入
今回あえて「日付」を省いた理由は、日時を記載することで、どのお客様に先に手紙を出したか分かってしまうから。万が一、お客様同士が知り合いで「私の手紙は後に書かかれた。彼女のほうが大事なんだ」と気にされる……などのような面倒を避けるためです。
DM(ダイレクトメール)の場合
ショップやブランドによってはお手紙ではなくハガキタイプのDMを送る場合もあります。お手紙よりも文章量が限られているため、ポイントを押さえてより簡潔に書く必要があります。
【導入】
先日は〇〇店にお越しいただき誠にありがとうございます。
【前段】
ご友人の結婚式でも着用されると仰っておられましたが、着心地はいかがでしたでしょうか?
【後段】
暑い日が続いております。移動中などジャケットを脱いで持ち運ばれることもあるかと思いますが、お買い上げいただいたジャケットは皴になりにくい素材ですのでご安心ください!
【末文】
またお会いできる日を心待ちにしております。
参考例のポイントを解説
【導入】は、来店してくれたことへのお礼
お手紙と同様、まずはご挨拶から。しかし、DMの場合は「拝啓」などかしこまることなく、感謝のメッセージを簡潔に書くようにしましょう。
【前段】は、商品への期待を高める言葉
購入していただいた商品の期待値を上げるような一言を添えるのもおすすめです。
【後段】は、“個人”へ向けたメッセージ
接客中に出た話題について触れたり、コーディネートの提案をしたりと、不特定多数ではなくその人“個人”に向けていることがわかるようなメッセージを盛り込むと、お客様との距離がぐっと縮まります。
【末文】では、また会いたいという気持ちを伝える
ついつい「ご来店ください」と締めてしまいそうなところですが、お手紙より短い文章で伝えるDMだからこそ、ビジネスライクな表現ではなく温かみのある表現を心がけて。
販売員として、お客様に「あなたに会いに来たのよ」と言われると嬉しいものです。それと同様に、お客様も「あなたに会いたいと思っています」と伝えられると、やはり悪くは感じないもの。たとえ文面は流用したとしても「あなたのために時間をかけて書いた」という事実が手元に届くのが、手書きの手紙のメリットです。
お客様の予定やそのときの心境を考えると、一通ですぐに効果は表れないかもしれません。しかし、人柄や温もりが伝わる手紙が定期的に届くことで、お客様の心にお店やブランドに対する意識や愛着が芽生えるはず。未来に対する投資として、まずは上顧客から、手書きの手紙に挑戦してみてはいかがですか?