
少数精鋭の作品を不定期で世に出すニットブランド「PIRKATANE(ピリカータネ)」。ブランドの創設者でありデザイナーの田原菜美さんのインタビュー後編となる今回は、田原さんがニットやものづくりに対して抱いている思いをはじめ、今後の展開やファッション業界を目指す人へのメッセージなどを伺いました。
―― 田原さんが思うニットの魅力を教えてください。
「とにかく自由なところです。柄も形も思いのまま、好きなように成形できます。ロスが出ないのも魅力と感じています。一方で難しさもあり、ニットは長く愛用するうちに毛玉や毛羽立ちなどが目立つ素材。私は主に天然素材を扱うため、当然、経年変化が起こります。買った時の綺麗な状態のまま変化させないことを良しとする風潮がある中で、変化を当たり前のこととして受け入れてもらうことが課題のひとつです。例えば肌や髪の毛が年齢と共に変化するように、天然素材のニットも変化する。しかしそれはマイナスなことではなく、愛着を持って受け入れてほしい。PIRKATANEでは染め直しやお直しも承っており、何度も手を加えながら長く着てもらえる工夫もしています」
―― 染色といえば、PIRKATANEのニットには優しい色が多いですね。
「草木染めをしているため、意図せずともナチュラルな色味になるのだと思います。日本の伝統技術や文化を反映したものづくりが私のテーマでもあり、染めはコレクションテーマに合わせて草木染めの職人さんにお願いしています。草木染めは環境に優しく自然の色に染まるため肌なじみも良い。ウールなどの素材もどこでどんなふうに育っている動物の毛なのかを意識して選び、作るうえで環境に優しいかどうかという視点は忘れないようにしています」

―― 2024年夏からメンズアイテムの展開も始まりました。
「元々メンズ、レディースというのは意識しておらず、ユニセックスで着られる服づくりをしていたのですが、今までは使用している編み機の身幅に制限があり、必然的にレディースサイズのみの展開になっていました。編み機を変えたことでメンズサイズを作れるようになったため、後はあえてメンズ、レディースで差を設けるかもしれませんが、どちらを着ても自由。着てくださる方の感性に委ねています」
―― 2022年に家庭用編み機から工業用編機にシフトされた理由は?
「家庭用だと制限もあり、いずれは工業用へと思っていました。そんな中、紹介していただいた和歌山の工場をとても気に入り、ひと月ほど和歌山に住んで毎日工場へ通い、製作の様子を学ばせていただきました。そこでは職人さんたちが命を燃やしながらものづくりに励んでおられ、そういう現場に触れたことで、より一緒に仕事がしたいという気持ちが強くなりました。ニット製品において、デザイナーとニット職人は一心同体。職人さんが編み型を作ってくださることで作品が完成します。心が通い合っていないと思い通りのものは作れません。ここだ、と思える工場や職人さんたちと出会えたことがきっかけで、何より大きな財産です」
―― 大量生産ではなく、小ロットや受注生産などロスのないもの作りにこだわりをもたれていますね。
「まだ小規模であることも影響していますが、当初デザイナーを志した時に感じた、作ったものが誰に届くのかまでを見たい、という気持ちが大きいです。服づくりに関わる人が誰も無理をしないことを目指している以上、大量生産はできません。現在はポップアップや展示会などでの受注生産が主なので、購入できる場が少ないのが課題となっています。早く安定したいという気持ちはもちろんありますが、自分なりのペースでものづくりをすることが私にとっては自然。祖父の仕事の影響やフランスへの留学を経て日本文化や伝統を大切にしたいという思いがある中で、大量生産は私が考える方向性とは少し違う気もしています」

―― 今後の展開を教えてください。
「2025年に岩手県で展示会を開催します。宮沢賢治さんが愛した場所での開催となるので今から非常に楽しみなのですが、岩手県らしい伝統や文化をコレクションにも反映できればと考えています。ものづくりは場所を選ばないかもしれませんが、どうせならその土地の伝統や文化、暮らしと結びついたものを作りたい。岩手県を皮切りに、今後は日本それぞれの土地と結びつくようなコレクションを各地で発表していけたら素敵です。さらに先の展開としては、そうして作ったものを持ち、日本から海外へと打って出たいという目標も持っています」
―― これからファッション業界を目指す人にメッセージをお願いします。
「数あるブランドの中で、自分が服をつくる意味や理由を考え、その服の行き先を模索することで、自ずとやりたいことが見つかるのではないかと思います。私は不器用なタイプなので遠回りをしたかもしれませんが、やりたいことに対してはとにかく失敗を恐れず挑戦し、誠実にものづくりと向き合って続けてきました。これが私にとって自分にできることだったからです。それが今に繋がっており、その中でもいつも楽しんできました。大事なのは楽しむこと。楽しみながら取り組んだことは、きっと形になると思います」
取材時に田原さんが纏っていたのは、腰の位置に長袖がついたような不思議な形のニットワンピースでした。それをそのまま垂らしても、腰でベルトのように結ぶのも、着る人の自由。「茶室」をテーマに直線的なラインで構築されたこのニットコレクションは、どこか折り紙のような日本らしさを思わせながらも、着る人の動きに合わせ幾通りにも姿を変える。このしなやかな様子は、田原さんにシンクロするよう。自分のブランドを持つということは、自分らしさを作品に投影することでもあります。しなやかさと芯の強さを併せ持つPIRKATANEのニットたちは、そのまま田原さんの姿勢につながるのでしょう。
『PIRKATANE』 田原 菜美
1984年生まれ。紋章上繪師の祖父のもと衣服を身近な存在として育つ。文化服装学院ニットデザイン科を卒業後に渡仏。ハンドメイドのフルオーダーニットブランドを手がけたのち、2019年にニットウェアブランドPIRKATANE(ピリカータネ)を立ち上げコレクションを発表。2012年より京都芸術デザイン専門学校講師を務めるほか、ワークショップ講師、映画衣装提供、他ジャンルアーティストとのコラボレーション等多岐に渡り活躍。
TEXT:横田愛子
PHOTO:長谷川勝久









