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ファッションショーに全てを懸けたドリス ヴァン ノッテン

Andrei Antipov – stock.adobe.com

花とファブリックを愛し、独創的かつエキゾチックなディテールに彩られたスタイルを多数世に送り出したベルギー人デザイナー、ドリス ヴァン ノッテン。自身が創業したDRIES VAN NOTENを6月に開催される2025年春夏メンズコレクションを最後に退任することを発表し、ファッション界に惜しむ声が広がっています。豊かな発想と鮮やかな色彩、素材に対する並々ならぬこだわりで唯一無二の世界観を創造してきました。今回はファッションの目利きにも愛されるドリス ヴァン ノッテンについてご紹介します。

【目次】
ドリス ヴァン ノッテンとは
アントワープの6人のうちのひとり
花と自然から得るインスピレーション
広告は打たない、という姿勢
「DRIES VAN NOTEN」を退任

ドリス ヴァン ノッテンとは

ドリス ヴァン ノッテンはベルギー、アントワープ出身のファッションデザイナー。服の仕立て屋を営む祖父母、紳士服ブティックを経営する父というファッション一族の元に1958年に生まれ、10代の頃から両親と共にパリやミラノへ服の買い付けに同行していました。幼少期からファッションに囲まれて育った彼は1977年にアントワープ王立芸術アカデミーのデザイン科に入学。在学時から子供服のデザイナーとして活躍しながらも父のブティックの買い付けにも携わり、卒業後は政府が企画したモード活性化のためのプロジェクトに参加。後述する「アントワープ・シックス」と呼ばれるメンバーにおいても成功した1人で、自身の名を冠した「DRIES VAN NOTEN」を1985年に創業します。1986年にはロンドンコレクションに「アントワープ・シックス」として参加し、バーニーズニューヨークなど世界的な有名ショップの目に留まるように。これをきっかけに「DRIES VAN NOTEN」のコレクションの商品化が決まり、1989年にはアントワープに最初の旗艦店「ヘット・モードパレス」をオープン。1991年にはパリでのメンズ春夏コレクションに参加し、その2年後、1993年にはウィメンズでパリコレに参加。日本では2009年に南青山に旗艦店をオープン。元々セレクトショップでの取り扱いは多かったものの、旗艦店の存在でその人気を確たるものにしました。


アントワープの6人のうちのひとり

ファッション好きならば必ず一度は耳にしたことがあるであろう「アントワープ・シックス(アントワープの6人」という呼称。これは1985年にアントワープ王立芸術アカデミーを卒業した6人の学生が、それぞれの作品を1台のバンに詰めてロンドンコレクションに参加したのが始まりです。その6人は、ドリス ヴァン ノッテン、アン ドゥムールメステール、マリナ イー(現在は引退)、ウォルター ヴァン ベイレンドンク、デルク ヴァン サーヌ、ダーク ビッケンバーグ。実はこの年のショーには同じアカデミー卒業のマルタン マルジェラも参加しており、マルジェラを加え「アントワープの7人」とも称されます。1986年のロンドンコレクションには、ジャン ポール ゴルチェに就職が決まっていたマルジェラが抜けたため「アントワープの6人」となりました。現在でも活躍する錚々たるデザイナーが名を連ねた「アントワープ・シックス」は当時話題となり、アントワープという土地がファッション的にも大いに注目を集めたのです。


花と自然から得るインスピレーション

ドリスの服といえば、真っ先に鮮やかな色彩を思い浮かべます。エスニックな要素や繊細な刺繍、独創的な柄ながらもどこか地に足のついたデザインはとびきり美しく、まるで色の洪水なのにそれらが絶妙なバランスで互いを引き立て合い、唯一にして無二な美を放っています。この色彩感覚やデザインのインスピレーションとなったのが、彼が愛した花々と自然でした。これはいくら文章で書き連ねるよりも、1年間ドリスに密着して撮影したドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』を観ていただくのが早いかと思います。ドリスは19世紀に建てられたアントワープ郊外の邸宅にパートナーと共に住んでいますが、そこには広大なガーデンがあり、そこで摘んだ花を屋敷のあちこちに飾るのを習慣にしています。今にも香り立ちそうな切り立ての花は家具の色やバランスと見事に調和して飾られ、そこかしこに彼の美意識が垣間見られるのです。こうして日々の生活でも植物や自然、色彩の調和を意識し、かつ多彩なプリントを如何なるバランスで組み合わせるかを吟味する仕事風景も映像に収められていますが、プライベートで自然に触れる時間を大切にするドリスだからこそ、「DRIES VAN NOTEN」のデザインは生まれるのでしょう。


Andrei Antipov – stock.adobe.com

広告は打たない、という姿勢

雑誌やメディアに広告を出稿し、インフルエンサーやファッションアイコンに自身のブランドを宣伝してもらう。これはブランドが当たり前に取り入れている広告戦略で、数多のハイブランドが人気のある有名人をアンバサダーに任命し、より広い世代へとブランドを浸透させているのは既知の通り。しかしながら、ドリス ヴァン ノッテンは広告とは無縁の世界にいます。彼はコレクションで披露するショーこそがシーズンの世界観を伝える唯一の手段だと考え、イメージ広告は一切打たないという姿勢を貫いているのです。そのためショーに懸ける姿勢は誰よりも強く、過去には英国VOGUEのインタビューに対し、ショーについて「magical moment(魔法が生まれる瞬間)」だと語ったことも。ショー自体も奇をてらったものではなくオーセンティックなスタイルで行うことが多く、実際に「DRIES VAN NOTEN」の服は何よりも雄弁にドリスの描き出す世界を表現しています。ちなみに、アントワープの旗艦店も店内は撮影禁止。ゆったりと服と向き合える空間となっています。


「DRIES VAN NOTEN」を退任

2024年3月、ファッション界に大きな衝撃が走りました。それはドリスが自身のブランドを2025年春夏メンズコレクションを最後に退任するというもので、惜しむ声があちこちから挙がっています。ドリス自身は「私はこの時に備え、しばらくの間準備をしてきました。そして、新しい世代の才能がブランドに新たなヴィジョンをもたらす余地を残す時期が来たと感じています」と語り、メゾン設立当初から公私共に彼を支えたパートナーやアトリエの職人、チーム全員などブランドに関わる人に感謝を伝えました。続くウィメンズコレクションはスタジオ・チームが担い、後任のデザイナーは適切な時期に発表するとのアナウンスがありましたが、ドリス自身は今後もメゾンに関わっていくと表明しています。

ドリス ヴァン ノッテンの服は決して色褪せることがありません。それはトレンドという枠にとらわれず、デザイナー独自の美学がデザインに落とし込まれているからです。実際にドリスの愛好者は何年も前、時には10年以上前のコレクションを今も愛用している人が多く、その理由には、袖を通す度に改めてその服の魅力に気付かされるからでしょう。

TEXT:横田愛子

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