ファッションを語る上で数年前からよく耳にするのが「ユーティリティー」という言葉です。今季のトレンドとしても取り上げられることが多いキーワードですが、具体的にどのようなファッションのことを指すのでしょうか。実は定番ファッションのワークやミリタリーもユーティリティーの仲間。では早速、ユーティリティールックとは何かを紐解いていきましょう。
【目次】
・ユーティリティとは
・注目のブランド
・ユーティリティアイテムの代表格
・シックに着こなすには?
・押さえておきたいアイテム
ユーティリティとは
ユーティリティー(utility)は実用性や有用性、利便性などを意味する英語。つまり機能的要素のある服を指してユーティリティーファッションと呼び、着心地や動きやすさといった機能美を活かしたスタイリングがユーティリティールックです。例えば複数のポケットがついたアウター、防水加工が施された服などがユーティリティーに当てはまり、作業着にルーツを持つワークウエアやミリタリーウエアもユーティリティーファッションの一種です。ユーティリティーファッションは2017年頃にビッグトレンドとなり、それ以降機能性をも備えたデザインが定着したことから、今ではトレンドを越えてひとつのファッションジャンルとしての地位を確立しました。ここ数年は「アーバンユーティリティー」と呼ばれる、機能的かつオシャレに見える装いがストリートのスタンダードとなっています。
注目のブランド
ユーティリティー人気の火付け役といえば間違いなくマウンテンパーカーでしょう。防水性や防寒性、耐久性といった野外活動向きの機能を備えたこのフード付きのアウターは、発端こそアウトドアブランドでしたが、その人気を受けて今や幅広いブランドがリリースするようになりました。例えばユニクロやGUといったファストファッション。かつてはアウトドアブランドが独占していたユーティリティーウエアをより安価に世に出したことで、今までアウトドアとは無縁だった人にもユーティリティールックが浸透。さらに今季はミュウミュウやステラ・マッカートニーといったコレクションブランドも機能的要素の強いルックを発表するなど、ファッション界のユーティリティーブームの裾野は広がり続けています。また、特に今シーズンこのブームが起きているのが韓国。Z世代に人気の「メーラーベイン」がスタイリッシュなユーティリティーデザインを多数発信していることもあり、若い世代がこぞって取り入れるように。また、スポーツブランドのデサントが日常でも楽しめるデザインをとローンチした「デサント オルテライン」をはじめ、ザ・ノース・フェイスなども街に溶け込みやすいシックなカラーを数多く展開。本気のアウトドア&スポーツブランドが手掛けるライフスタイルウェアは、大人世代にも支持されています。
ユーティリティーアイテムの代表格
マウンテンパーカーの他にも、ユーティリティーアイテムと聞いて思いつくものは多数あります。まずワークシャツ、そしてカーゴパンツ。昨今人気が復活したサロペットやジャンプスーツは特に女性の間で人気ですね。また、これから暑い時期にかけてはワークの要素をプラスしたショートパンツも見逃せません。いずれもトレンドを超え古くから愛されてきたアイテムですが、共通点は大きなポケットやタフかつ機能的な素材など、デイリーに取り入れやすい定番品が中心。しかし気をつけたいのが、これら定番にも「今年らしさ」が必ずあることです。例えばカーゴパンツなら旬のシルエットはワイド。ショートパンツもゆるりと太めのものが主流で、一方サロペットなどはキレイめに着こなせる細身のデザインが中心。デニムも同様ですが、定番品こそシーズンごとにアップデートされるので、今季らしいシルエットを押さえておくのが素敵に着こなす秘訣です。
シックに着こなすには?
ユーティリティーウエアの王道はアウトドアやスポーツブランド、そしてワークウエアブランドのアイテムたち。しかしカジュアルだったりスポーティーに寄ったデザインが基本なため、大人っぽくシックに着こなすのが難しいと感じるかもしれません。しかし昨今のアーバンユーティリティー人気の影響もあり、モノトーンなど落ち着いたカラーの商品が増えています。シックなユーティリティールックを目指すなら、ポイントはふたつ。まずは色を絞ることで、グレーやブラック、白といったモノトーン、淡いブルーなどを基調にし、カラフルなアイテムは差し色程度に加えること。黒一色にするよりも、白や淡い色を挟み抜け感を出すのがコツです。次に重要なのはサイズ感。ワイドなボトムスならばトップスはタイトにするなど、上下ともにルーズにならないよう要注意。タイトでもルーズでもない程よいサイズの上下を合わせると運動着のように見えアウトドア感が強く出るため、何よりバランスが重要なのです。さらにカーゴパンツなら足元にはバレエシューズを選んだり、男性の場合はサンダルでリラックス感を演出するなど、どこかに異なるテイストを添えて抜け感を出すのもお忘れなく。
押さえておきたいアイテム
昨今のユーティリティールックで特に注目を集めているのがフィッシングベストやナイロンベストです。しかし、フィッシングベストをおしゃれに着こなすのはかなり難易度が高め。着こなすにはインナーとの色味を合わせたりベスト自体のボリュームが控えめなものを選ぶなどいくつかコツはありますが、フィッシングベスト=おじさんっぽいというイメージが根強いのもまた事実。そこで最も手軽に挑戦できるのがナイロンベストでしょう。特に今季はシアーな素材が流行していることもあり、薄手で透け感のあるリップストップナイロンをはじめ、インナーの色柄がほのかに覗くライトカラーのベストが豊富。女性ならボリュームのあるロングスカート&タイトなTシャツのコーデに羽織ったり、フェミニンスタイルの引き締めアイテムとしても活躍するはず。ベストを含め全体をペールトーンで統一するなど、色で統一感を出すことで機能美と可愛さを両立できますよ。
そしてもうひとつ、巨大化したポケットもトレンドです。このトレンドを牽引するのはルイ・ヴィトンやクレイグ・グリーン、サカイといったコレクションブランド。今季はユニフォームのテイストを取り入れたデザインが多いことから、まるでバッグのように大きなポケットを配したディテールが多く見られました。ポケットはワーク要素が強い装飾ながら、これらのブランドに共通するのは軽やかさ。シルクやシフォンといった薄手の素材にあえてワークな要素を取り入れることでエレガントに昇華したユーテリティールックは、まさに洗練の極みと言えるかもしれません。
機能美は最近のファッションを語る上で外せないキーワードですが、それらを「今っぽく」着こなすために何より重視するべきはバランスです。ワークウエアに端を発したユーテリティーアイテムはそのまま着ると野暮ったく見える危険性もありますが、素材とサイジング、全身のバランスにこだわることでぐっとモダンに見せることもできるのです。
TEXT:横田愛子