アパレル・ファッション業界の求人・転職ならFashion HR

記事一覧

玉木新雌が挑む「進化する播州織」 伝統を継ぎ、伝えていくということ【後編】

“日本のへそ”として有名な兵庫県西脇市。この地で伝統産業である播州織に新たな息吹を吹き込むブランド、tamaki niimeを率いるのが玉木新雌さんです。当初3人だけで西脇市に移住し今年で14年目を迎える今、ブランドはいっそうの広がりを見せています。播州織の素材である綿花栽培など、原料までをも自社で作る取り組みも話題ですが、ここでの働き方も実験的でアイディアが満載。後編となる今回は「働き方」と「人」にスポットを当ててご紹介します。


実験室で繰り広げられる作品作り

染色工場跡地に現在のラボ&ショールームが誕生したのは2016年のこと。ここはtamaki niimeのモノづくりのコアな場所であり工房を要するショールームでもあり、玉木さんご自身はこの場所を「実験室」と捉えています。

Q.大学生のインターンだという若者からベテランの風格漂う職人までと、多彩な人材が揃っていることに驚きます。

「異なる経験や世代を組み合わせることで、今までになかった視点が見つかることも多いと思うのです。弊社には学生もいれば前職はシステムエンジニアだったという中高年の男性までいて、それぞれの感性や技術を持ち寄って作品作りをしています。実は今まではあえて経験者を採用しないという方針で人材を募集していたのですが、それには“型に捉われたくない”という意図があったから。今後は経験者も採用したいと考えていますが、人も機械も動物たちも、ここでは同じ村の一員。その中で感じたことや世代間の交流で得たことをモノづくりに生かすことができればと思います」

Q.外部の職人さんから学ぶ機会も多いそうですね。

「ラボに並ぶ織機の中には年代物が多数あります。今ではその織機のメーカー自体が存在しないものもあるのですが、まだそこのメーカーの織機に精通している職人さんがいらっしゃる。そんな場合はその職人さん方に来ていただいて機械のメンテナンスをスタッフと一緒に学ぶなど、技術や技を次世代へと繋いでいくのも大切な作業。機械にもそれぞれクセというか個性があり、その機械を使って何を作るのかがとても重要で難しい部分です。その最もクリエイティブな部分を担うのは人であり、そのクリエイティビティを刺激できるような労働環境であることを目指しています」

Q.社内の風土にとても自由さを感じます。

「風通しの良さというのは私が目標としている部分。動物たちを迎えたのも、幸せホルモンが分泌するような社内環境であればと願ってのこと。また、多くのアパレルでは染色や製作、販売が全て別の場所で行われるのが大半ですが、ここでは分業になりがちな生産工程から販売までの全てを同じ場所で行っています。作業やそれぞれの仕事に携わるスタッフの分断がないことで、今誰が何を作っているかがわかる仕組みに。それによって連携が生まれモノづくりに一貫性が出るのではないでしょうか。外部の人を招いてのトークショーや地域の方も参加できるコットンの収穫をはじめ、社内はもちろんのこと地域ぐるみで交流をすることが自由な社風に繋がっているのかもしれませんね」


お金以外の価値観の大切さ

綿花はもとより、無農薬米に野菜までを作るtamaki niime。服を作る、売る、といったアパレルの姿とは一線を画し、地域が育んだ自然と一体となりながら村的な暮らしと働き方ができるのも魅力のひとつです。

Q.多彩なスタッフが集まる中で、共通していることはありますか?

「個性豊かなスタッフが揃っていますが、なんとなく一般社会では生きにくさを感じる人が集まっているように感じます。お金以外の部分に価値を見出せる人やそういう価値観を大切にできる人が多いですね。弊社ではコットンの種取りも自社でしていたり、綿花の種を農家さんにお渡しし育った綿花を買い取る取り組みもしているんですが、これは利益度外視なんです。けれど原料をなるべく自分達の近くで作りたいという気持ちもあるし、日本に綿花産業を根付かせたいという思いがあってのこと。新型コロナウイルスが発生した当時、コットンの輸入が止まって苦労したアパレルは数多くありました。今後もこういったことが起きるかもしれない。けれどその時に国内で流通できればモノづくりを止めないで済みますよね。こういう将来的なヴィジョンも含め、日本ならではのモノづくりをしていきたいのです」

Q.tamaki niimeが求める人材とは。

「人前で話す力、プレゼンテーション能力や表現力のある人です。モノづくりをするなかでどういう想いでこれを作りたいのかをしっかりと伝えられる人、他者と議論できる人が理想的。今はインターネットを含め多くのチャンネルがありインプットをうまくできる人は多いけれど、アウトプットを上手にできる人は少ないように感じます。だからこそ自分の考えやアイデアを外に発信できる能力がとても大切だと思っています」

Q.ショールから始まり今では綿花栽培に無農薬米や野菜の栽培までと、どんどん拡大するtamaki niime。今後考える新たな一手とは。

「愛犬と一緒に泊まれる宿泊施設をやってみたいというアイデアがあります。せっかく西脇市に来てtamaki niimeに触れてもらったなら、いっそ滞在してここの魅力を存分に満喫してほしいですね。私は学生時代に専門学校の授業の一環で海外に行った際に、外から見ることで日本の良さを実感し、改めて日本が大好きになりました。西脇市は日本の原風景がある場所。そんな地域の良さを多くの人に体験してもらいたいです」

ショールームには玉木さんの愛犬が寝そべり、窓の外を行き交うのは羊やアルパカ。ここで働く人は目の前のモノづくりに夢中で、その表情からはtamaki niimeの一員であることに誇りを持っていることが伺えます。きっと会社もここの織物のように、様々な人が持つカラーが入り混じった個性的なもの。唯一無二な職場での働き方もまた、多くの彩りにあふれているのでしょう。


玉木 新雌 たまき・にいめ

福井県出身。エスモード ジャポンでパターンを学び、繊維商社にパタンナーとして就職。

独立後、播州織に出会い2004年に大阪府で「玉木新雌/tamaki niime」を設立。

2009年から播州織の産地である兵庫県西脇市に移住し、彩り豊かで着心地の良い唯一無二のモノづくりを行う。

2016年には染色工場跡にラボ&ショールームを構え、綿花の栽培など素材からのmade in Japanにこだわっている。

https://www.niime.jp/


TEXT:横田 愛子

PHOTO:大久保啓二

Fashion HRはファッション・アパレル業界に特化した求人情報サイトです!

FHR_top

ショップスタッフや店長などの販売職から、PR、MD、VMD、営業、総務/経理、秘書、ロジスティックスなどのバックオフィス職まで、外資系ラグジュアリーブランドから国内有名ブランドまで求人情報を多数掲載中。早速、会員登録をして求人をチェック!

   
無料会員登録する

記事一覧