アパレル・ファッション業界の求人・転職ならFashion HR

記事一覧

デザイナー金村実奈(SILNA minacolo)が起こすファッションのミラクル

2011年にイタリアに渡り、数々の名立たるブランドで経験を重ね、2021年に「SILNA minacolo」を立ち上げた金村実奈さん。各百貨店でポップアップを開催するなど、ブランドを立ち上げたばかりとは思えないスピードで注目を集めています。本人曰く「まるで奇跡のように物事が好転していく」――金村さんにはなぜ奇跡が起こるのか?イタリアで過ごした激動の10年間のエピソードを交えながら、今後の展望と併せてお話を伺いました。


「ああ、私はここで自分のお店をつくるんだ」

――ファッションに関心を持ったのはいつですか?

幼稚園の頃には既に自分で服を選んでいましたね。母が選んだ服は嫌だ!と、翌日着る服を、頭のカチューシャから靴下まで一式準備して、枕元に置いて寝ていました。ファッションに目覚めたきっかけは1997年に放送されていたNHK連続テレビ小説「あぐり」。美容師の物語で、「なんて格好良いの!」と衝撃を受けました。とにかく何かファッションに関わる仕事がしたいと思い、夢を探すために宝塚造形芸術大学4年制のファッションコースに進学。元々オートクチュールに興味があり、桂由美さんのウエディングドレスのように生地からこだわったゴージャスな一点ものの服を作りたいなと思っていたのですが、学校の課題で服を作るため布屋さんに行った時、使いたいと思う生地がなくて…。じゃあ作ろう、ということで自分の手で織った生地を使って服を作るようになりました。そうするうちにもっと生地のことを深く勉強したいと思うようになり、イタリアに行くことにしたんです。

―――なぜイタリアだったのでしょう

高校では美術コースを選択していて、2年生の時に研修旅行でイタリアに行ったんです。ローマ、ヴェネツィアなどを巡り、最後がミラノでした。ミラノのファッション通りを歩いていた時に「ああ、私はここで自分のお店をつくるんだ」と思ったんです。イタリアに渡り、ナバ芸術アカデミー(NABA-Nuova Accademia di Belle Arti Milano)のファッション&テキスタイルコース一期生としてデザイナーのロメオ・ジリ※1に師事しました。色の魔術師と呼ばれアジアのファッションをヨーロッパに取り入れた初めての人で、私が無意識に感じている生地の魅力を、しっかりとファッションとして表現できる人なんです。私にとって今でも一番尊敬するファッションデザイナーですね。

ファッションに関わるありとあらゆる仕事を経験して

―――ナバ芸術アカデミー卒業後は、様々なブランドを経験されています。

私たち外国人がイギリスやイタリアに住むとなると、立ちはだかるのが就労ビザの問題。就労ビザの許可が下りずに夢を諦めて帰国する人は少なくありません。私も仕事を転々とすることになりました。怒涛の10年間でしたよ!(笑)バッグブランドのGABSに就職したのですが、自分のバッグへの知識の乏しさに気付き、仕事を辞めて鞄づくりの学校に通うことに。インターン生としてBVLGARのバッグデザイナーであるシモーナ・チャッキのスタジオでアシスタントをした後、CELINEの工場へ。ベテランの職人さんの傍で怒られながら(笑)、革の下処理や、コバ塗り※2、バッグのハンド付けなど鞄づくりのいろはを学びました。その後は色々なブランドを取り扱っている生産会社でパッキングから検品、梱包、配送、店頭での接客までを経験し、再びGABSに戻りました。

――なぜもう一度GABSに?

ファッションに関わるあらゆる仕事を経験し、やっぱり自分はデザイナーになりたいんだと気付きました。そんな時にGABSの創設者でありデザイナーのフランコ・ガブリエリが、声をかけてくださり、彼の家で居候をしながらGABSで働くことになったんです。家族ぐるみでいまだに仲良くしていただいていて、私にとってはイタリアの第二の家族のようなものですね。彼は企業家でありデザイナーでありアイディアマンだったので、本当に沢山の刺激をもらいました。フランコや一緒に働いていたデザインチームの仲間たちとはまた一緒にmade in ITALYのものづくりをできたらいいねと話しているのですが、GABS自体はコロナの影響でフランコがブランドの権利を同業者に売り、経営者が変わったことで経営が悪化。外国人である私もリストラ対象になってしまったんです。

――波乱万丈ですね…!

ポジティブすぎる!と笑われるかもしれませんが、辞めたおかげで靴の勉強ができたから良かったなと(笑)。退職が決まった時、GABSの先輩から紹介されたのが「チェルカル 靴・履物国際研究所」。国が支援し、Polliniや、CASADEI、Giuseppe Zanotti、Moschino、Sergio Rossiなど名立たるシューズブランドが協賛する育成学校です。限定20名の奨学特待生になれば6ヵ月の授業料90万円を完全免除してもらえると聞き、迷わず応募しました。作品提出、テスト、面接などの審査を潜り抜け、無事合格。もちろん6ヵ月学んだからといって完璧に靴を作れるようになるわけではありませんが、パターンを描いたり、ハサミの入れ方を学んだりと、作り方は理解できるまでになりました。

奇跡の種はすべての人が持っている

――ハプニングが起きても、必ず良い方向に好転されていますよね。

サブブランド名の”MINACOLO”は私の名前の”MINA”とイタリア語で「奇跡」を意味する”MIRACOLO”を組み合わせた造語。私に奇跡がたくさん起こるから、と言葉遊びのように友人たちが私を”MINACOLO”と呼ぶようになったんです。奇跡と言っても、急いでいる時にちょうどバスが目の前に停まったとか、最初はほんの些細なことでした。GABSの経営者であるフランコ・ガブリエリが大の親日家だったこと、姉の紹介で出会ったSILNAminacoloの現在の営業担当者がたまたま数多くのイタリアのハイブランドを担当する元エリート商社マンだったこと、そして彼の紹介で出会ったインターナショナルの企画会社の社長に投資をしていただきブランドを立ち上げられたこと…すべてが奇跡に感じるくらいありがたいことの連続でした。極めつけはブランドを立ち上げてすぐの展示会に、伊勢丹百貨店の方がいらっしゃって、「こんなブランドを待っていました。僕たちのところでやりませんか?」と声をかけてくださったんです。まだ1年も経っていない無名のブランドに、ですよ!でも、私が特別ラッキーガールということではなく、すべての人が奇跡の種を持っているんです。行動し続けることでその種が芽吹き、奇跡が連鎖していく。

「私は私だ」という”オリジン”を胸に

――それでも、やはり心が折れそうになることもあったのではないでしょうか。

海外での10年間、色々なブランドを転々としている間はもちろん不安でした。でも、「ここで自分は何ができるのか?」と、常に価値あるものを吸収するために必死で、今この場にいられることや環境に感謝しながら突っ走るしかなかった。転々としながらものづくりの一連の流れを経験していたおかげで、ブランドを立ち上げてからも必要な工程ややらなければならないことがわかるんです。全ての経験が繋がっているのだと実感しますね。

ただ、最愛の母を亡くした時は、心が折れそうになりました。ブランドやイベントの宣伝をしてくれたり、展示会にはお花を出してくれたり、まるでマネージャーのように一番近くで応援してくれていた母。そんな時も、私を支えてくれたのはものづくりでした。製作に没頭し、感情をぶつけることで、あらゆる悲しい感情を忘れることができましたね。

――激動の人生を経てきた金村さんが見据える今後とは?

イタリアでの生活で得た一番大切なものは、自分自身の“オリジン(原点)”です。異国の地での暮らしは「自分は一体何者なんだ?」という問いに向き合い続けることそのものでした。私はもともと在日韓国人で、「キム・シルナ」から「金村実奈」になりました。消えてしまう「シルナ」という名前はブランド名として残しています。名前や国籍が変わっても、私は私なんです。どこで生まれようが、何人だろうが、名前がなんだろうが、関係ありません。私は私なのだと胸を張って生きていく。高校生の時、想い描いたように、いつかイタリアのミラノにSILNA minacoloの店を持ちます。”オリジン”を胸に、ものづくりに真摯に向き合うことで”MINACOLO”の奇跡の連鎖を繋げてきたいと思っています。

※1【ロメオ・ジリ】――ブランドROMEO GIGLIのデザイナー。ドレープやプリーツなどを用いたシルエットを強調するデザインが特徴。民族調のデザインも多く、その色彩の美しさじゃら「色の魔術師」とも言われる。

※2【コバ塗り】――コバ(革の裁断面)をニスで艶を出したり顔料や塗料で色付けしたりすること。


金村 実奈 かねむら・みな

テキスタイル&バッグデザイナー。

2021年にブランド「SILNA minacolo」をスタート。

ブランド名の「minacolo」はデザイナーの名前である「MINA」とイタリア語で奇跡を意味する「MIRACOLO」を掛け合わせた造語。人とのかけがえのない出会いや、製作に真摯に向き合うことでもたらせる「奇跡」。イタリアで培ったキャリアと経験、想いをオリジナルテキスタイルで表現し、”Happy Mind Share”というメッセージを込めてデザインしている。

https://silna-minacolo.com/

https://www.instagram.com/silna_minacolo/


TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)

PHOTO:谷 勇樹

Fashion HRはファッション・アパレル業界に特化した求人情報サイトです!

FHR_top

ショップスタッフや店長などの販売職から、PR、MD、VMD、営業、総務/経理、秘書、ロジスティックスなどのバックオフィス職まで、外資系ラグジュアリーブランドから国内有名ブランドまで求人情報を多数掲載中。早速、会員登録をして求人をチェック!

   
無料会員登録する

記事一覧