ファッションとは切り離せないアイテムのひとつ、それがインナーウエアです。インナーは服を纏うよりも先に身につける最もプライベートな衣類。服をより美しく見せるため、そしてボディラインを整えるため、時には自分のモチベーションや気分を上げるため、私たちは日々インナーウエアを選びます。また、過去には何度もインナーウエアそのものがファッションの表舞台に上がったこともありました。今回は、誰しもが身につけるインナーがファッションに与えた歴史と魅力を紐解いていきます。
【目次】
・インナーウエアとは?
・インナーウエアの歴史
・下着を進化させたディオールのニュールック
・ジャン=ポール・ゴルチエによるインナーウエアの解放
・ハイブランドによるインナーウエアの世界
・デザイナーとコラボした注目すべきインナーウエア
・ヘルシーコーデを邪魔しないインナーとは
インナーウエアとは?
インナーウエアとひと口に言ってもその種類は多岐にわたります。昔から「肌着」や「下着」とも呼ばれ、特にそれが女性用のもので装飾が多ければ「ランジェリー」と呼ばれることも。一般的にインナーウエアはその名の通り“服の下に着るもの”、つまり下着のことを指し、アンダーウェアもほぼ同じ意味で使われています。ファッションにおいては、例えばジャケットの下に着るカットソーなどを指してインナーと呼ぶこともありますが、今回焦点を当てるのは下着という意味でのインナーウエア。では早速、その過去と現代、その進化をご紹介していきます。
インナーウエアの歴史
歴史にその存在を残すインナーウエアと聞くと、真っ先にルネサンス期の女性がドレスの下に纏ったコルセットを連想する人が多いでしょう。しかし下着の歴史はもっと古く、紀元前3000年頃の古代メソポタミアの壁画に描かれた女性が腰に巻いている、この腰布こそ下着のルーツ。そこから下着は生活様式や宗教観などによって形を変えながら現代へと続いていきました。なお、今では女性用インナーウエアの代名詞ともなっているブラジャーは、1914年の2月12日にアメリカ人女性がハンカチをリボンで結んだブラの原型を考案し、特許を申請したことが始まり。そのため今も毎年2月12日はブラの日に設定されています。なお、日本のインナーウエア史は比較的新しく、ワコールが初めてブラジャーを作ったのが1949年。わずか50年ほど前です。というのも、当時はまだ着物文化だったためすぐには浸透せず、1950年代になり洋装文化の広がりと共に一般的となりました。
下着を進化させたディオールのニュールック
1947年にクリスチャン・ディオールが発表した「ニュールック」。華奢なウエストや豊かなバストラインといったフェミニンなスタイルは多くの女性を虜にし、世界的なファッショントレンドとなります。これと時を同じくして日本では洋装化が一気に進み、世界でも日本でも、ニュールックと謳われたこのファッションを美しく着こなすためにインナーウエアが大きく進化しました。なぜなら女性らしいシルエットを強調するためには、下着によってボディラインを整える必要があったからです。この頃を境に百貨店では下着売り場の拡充が図られ、素材や色、デザインが多様化し始めます。
ジャン=ポール・ゴルチエによるインナーウエアの解放
1982年、インナーウエア界に革命が起こります。その仕掛け人はパリのデザイナー、ジャン=ポール・ゴルチエ。アヴァンギャルドの旗手とも呼ばれたゴルチエ氏はこの年にコルセットを露出するファッションを発表し、翌年の秋冬コレクションでは世間を驚かせたコーンブラをローンチ。バストを強調したこのブラはのちにマドンナが着用して一世を風靡しますが、当時は大きな物議を醸しました。しかしゴルチエ氏の手によって今までは隠すはずのものだったインナーウエアが堂々と表舞台へと躍り出て、以降は度々インナーをあえて見せるランジェリールックが流行するように。今や定番化したキャミソールなどのランジェリーにルーツを持つアイテムは、ゴルチエ氏の功績がなければ未だ下着というカテゴリーのままだったかもしれません。
ハイブランドによるインナーウエアの世界
インナーウエアの世界には、ファッションとリンクしながらもランジェリーブランドとして確固たる地位を築くメゾンが多数あります。例えば高級下着で知られるLa Perla(ラペルラ)。1954年にイタリアで誕生し、上質な素材と卓越した職人技が融合したランジェリーはまさにハイエンドの極み。キャミソールで7万円を超す商品もあり、洋服と同様に春夏と秋冬にコレクションで新作を発表しています。しかしこういったランジェリーブランドではなく、モードのハイブランドがインナーウエアを手掛けることも多々あります。ブランドインナーで大ヒットをしたのが、カルヴァン・クラインによるボクサーショーツ。メンズのみならずウィメンズもヒットし、ローライズ気味に履いたデニムからロゴ入りのウエストゴムをわざと見せるコーディネートの火付け役となりました。こうした純然たるインナーウエア以外にも、ランジェリールックを取り入れたコレクションでインナーを発表するメゾンは少なくありません。その多くはボディスーツやソックスといったデザイン要素の多いアイテムではありますが、ブランドの世界観をトータルで表現するうえでインナーウエアは欠かせないものです。
デザイナーとコラボした注目すべきインナーウエア
有名デザイナーが自身のブランドからインナーを発表する以外にも、ランジェリーブランドやインナーを含む幅広いアイテムを展開するブランドとのコラボレーションという形でデザインを手掛けることがあります。2010年にはLa Perlaとジャン=ポール・ゴルチエが共同企画でランジェリーコレクションを発表し、近年ではユニクロがMame Kurogouchi(デザイナー 黒河内麻衣子氏)を迎え「下着と洋服の垣根を越えるインナーウエア」を販売。このコラボは大きな話題となりました。また、ファッション界に最も影響を与えたメゾンとも称されるマルタン・マルジェラも「MAISON MARGIELA」よりボディスーツをリリースしています。面白いのはどちらもシンプル&ミニマルに徹したデザインが中心だということで、見せるというよりもセカンドスキンとなり得るインナーウエアだという点。ただ、うっかり見えても下着らしからぬスリークさで、まさにファッションの一部としてのインナーウエアといった趣となっています。
ヘルシーコーデを邪魔しないインナーとは
ヘルシーなコーディネートが定番となって数年経ちますが、現在はZ世代の間でY2Kファッションがブームになっています。ヘルシーコーデとY2Kファッションに共通するのは、健康的な肌見せであること。おへそが覗くショート丈トップスなど、程よく肌を露出しながらもセクシーではなく元気かつ健康的に見せることが肝要。このトレンドはランジェリールックとはまた別のもので、ランジェリールックがレースやボディラインを強調するコルセットをチラ見せするのに対し、ヘルシーコーデはインナーの存在をうまく隠してあくまでもナチュラルに肌を見せるもの。そのためヘルシーコーデを実践するには、透けないようベスキントーンに合ったカラーや、リボンやレースといった装飾を一切省いたインナーが必須。こういったインナーはまさに、先に紹介したマルジェラのボディスーツやユニクロのMame Kurogouchiとのコラボインナーそのものです。見えても大丈夫、けれどファッションを邪魔しないものであること。これが2022年代のインナーウエアの在り方と言えるのではないでしょうか。
関連記事
Y2Kファッションとは?2022年はヘルシー&ジェンダーレスな肌見せがマスト!
インナーウエアは、時代と共に、その時々のトレンドに合わせて進化し続けてきました。現代、特にファッション界においてはジェンダーレスが当たり前となった昨今では、女性性や男性性を感じさせないデザインが主流。男性用のボクサーパンツにレースを用いるなど、かつては女性のものだった素材も今やその垣根をひらりと超越しています。今後のインナーウエアを占うならば、性差に関わらず身につけられるインナーが登場する、そんな気がしませんか?
TEXT:横田愛子