アパレル・ファッション業界の求人・転職ならFashion HR

記事一覧

展覧会レポート『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』

エルザ・スキャパレッリ《イヴニング・ケープ》1938年、京都服飾文化研究財団蔵、広川泰士撮影

現在、東京都庭園美術館で開催されている展覧会『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』。シュルレアリスムがモードに与えた影響をひとつの視座としながら、その自由な創造力と発想によって、モードの世界にセンセーションをもたらした美の表現に迫ります。

シュルレアリスムとは、フランスの詩人・文学者のアンドレ・ブルトンが提唱した20世紀最大の芸術運動・思想活動のことです。20世紀は心理学が盛んに学ばれ、フロイトやユングなどの精神科医が大きな注目を集めた時代。フロイトの精神分析論を柱に、「無意識」や「夢」など意識的にコントロールできない「現実を超える現実」を表現することで本当の自由の獲得を目指しました。のちに芸術の域を超え、価値観や生き方など人々の意識の深層にまで影響を及ぼすようになります。

『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』では、現代の私たちからみた「奇想」をテーマに、シュルレアリスムの理念と重なり合うような優れたクリエイターたちの作品を展示しています。

コルセット、1880年頃 イギリス、神戸ファッション美術館蔵

展覧会の冒頭となる【第1章「有機物への偏愛」】、【第2章「歴史にみる奇想のモード」】、【第3章「髪(ヘアー)へと向かう、狂気の愛」】では引きずるほど長い動物の毛で覆われたミュールやヘアアクセサリー、昆虫の羽を用いた甲冑や、ウエストを締め付けることで美しいシルエットを生み出すコルセット、小さな足こそ美しいという価値観のもと、小さい靴をわざと履かせることで足を変形させた中国の纏足などが展示されています。

マルタン・マルジェラ《ドレス》2006年、京都服飾文化研究財団蔵、京都服飾文化研究財団撮影

小谷元彦による髪の毛を三つ編みにしたものを編み込んで作られたドレスや、マルタン・マルジェラのブロンズの髪を転写したプリントドレスなど「偏愛」「狂気の愛」というタイトルの通り、一般的な感覚では受け入れられにくいモチーフばかりですが、時代を先駆けるクリエイターやデザイナーたちが生み出した作品は、どこか神聖さすら感じさせ、その美しさに目を奪われます。

エルザ・スキャパレッリ《イヴニング・ケープ》1938年、京都服飾文化研究財団蔵、広川泰士撮影

【第4章「エルザ・スキャパレッリ」】ではデザイナーであるエルザ・スキャパレッリの作品を特集。トロンプルイユ(だまし絵)セーターや、芸術家クリスチャン・ベラールのデザイン画を金糸やスパンコールで立体的に刺繍を施したイヴニング・ケープを展示。ファッションデザインを服作りではなくアートとして捉え、シュルレアリストたちと親交のあったスキャパレッリらしい前衛的な作品群を見ることができます。

【第5章「鳥と帽子」】にはエルザ・スキャパレッリやスザンヌ・ピアットによる鳥の羽をふんだんに使用した帽子が。まるでとさかのようなボリューミーな帽子から、なんと鳥のはく製をそのまま縫い付けた「飾り帽子」まで登場します。戦時中で贅沢が禁じられる中で、「帽子だけは贅沢を楽しんでも良い」という風潮があったことからこのような流行が生まれたのだそうです。

ハリー・ゴードン《ポスター・ドレス》1968年頃、京都服飾文化研究財団蔵、畠山崇撮影

【第6章「シュルレアリスムとモード」】では「裁縫とシュルレアリスム」・「分断化される身体」・「物言わぬマネキンたち」という3つの項目に分けてシュルレアリスムが内包していたモード的要素に着目します。展示された『Harper’s BAZAAR』や『VOGUE』の表紙から、当時はファッション誌でもシュルレアリスム手法の静物画が頻繁に使われていたことがわかります。中でも『Harper’s BAZAAR』(1938年10月号)の表紙とハリー・ゴードンによる『ポスター・ドレス』(1968年頃)を並べた展示は必見。どちらも同じ「眼」をモチーフにしていながら、『Harper’s BAZAAR』がシュルレアリスムらしいどこか不安を煽るような「眼」であるのに対して『ポスター・ドレス』は強い生命力を感じさせる「眼」がプリントされ、全く違う印象を与えます。

「裁縫とシュルレアリスム」では、アイロンやミシンなどのモチーフを扱った作品が登場。なぜシュルレアリスムと裁縫は親和性が高いのか?という疑問が、「縫い合わせる」という行為と、異質なものを組み合わせて表現するシュルレアリスム手法の共通点を探ることで解消されていきます。

マルタン・マルジェラ《ネックレス》2006年、京都服飾文化研究財団蔵、京都服飾文化研究財団撮影

【第7章「裏と表─発想は覆す」】ではマグリットやマルセル・デュシャンらの不可思議な空間描写がもたらす「違和感による未知の刺激」を感じる作品が並びます。パターン用のトルソーを服に置き換えたマルタン・マルジェラのジャケットや大きな額縁をそのまま首からかけたようなネックレス、猫足をモチーフにしたヴィヴィアン・ウエストウッドのパンプス、薄い生肉を張り付けたような熊谷登喜夫の革靴など、コンセプチュアルなアイテムを見ることができます。

【第8章「和の奇想─帯留と花魁の装い」】からは日本におけるモードの奇想に迫ります。虫などをモチーフにした帯留めが取り上げられ、一瞬ぎょっとするようなムカデの帯留めも。ムカデは縁起物であり、商家の女性が大晦日に1年間のツケの回収を願って身に着けたのだそうです。

舘鼻則孝《Heel-less Shoes (Lady Pointe)》2014年、個人蔵、GION撮影

国の重要文化財にも指定されている東京都庭園美術館。アール・デコ様式を正確に留めた貴重な歴史的建造物ということもあり独特の空気感が漂う今回の展覧会。第9章からは渡り廊下を歩き新館へ。

【第9章「ハイブリッドとモード─インスピレーションの奇想」】として現在活躍しているアーティスト達による展示に切り替わります。新館は本館とは打って変わって少し冷たさを感じる真っ白な空間。レディー・ガガも愛用する花魁の高下駄からインスピレーションを受けたという舘鼻則孝の厚底靴や、串野真也による玉虫の羽を使ったオブジェのようなハイヒール、本物の馬の毛皮を使用し、しっぽから蹄鉄までをリアルに再現した永澤陽一のジョッパーズパンツなど、「奇想」と呼ぶに相応しいアヴァンギャルドな作品群が展示されています。展覧会の最後は、カーテンをくぐってブラックライトの闇の中へ。

蚕の遺伝子を組み換え、神秘的な光を放つ糸で紡がれたANOTHER FARMのドレスが登場。専用の眼鏡を装着することで模様が出現します。

昆虫や人毛といった身近な有機物をモチーフとした第1章から、テクノロジーの発展とファッションを融合させた第9章まで、個性的な作品が並ぶ今回の展覧会。ぜひ会場で「装い」への狂気、「美しさ」への執着を体感してください。


【INFORMATION】

『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』

会場:東京都庭園美術館(東京都港区白金台5-21-9)

会期:2022年1月15日(土)~4月10日(日)

時間:10:00–18:00(入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜休(ただし3月21日は開館、3月22日は休館)。

公式サイト:

https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/220115-0410_ModeSurreal.html

Fashion HRはファッション・アパレル業界に特化した求人情報サイトです!

FHR_top

ショップスタッフや店長などの販売職から、PR、MD、VMD、営業、総務/経理、秘書、ロジスティックスなどのバックオフィス職まで、外資系ラグジュアリーブランドから国内有名ブランドまで求人情報を多数掲載中。早速、会員登録をして求人をチェック!

   
無料会員登録する

記事一覧