先日行われた株式会社ステュディオス主催「ファッション業界独立支援セミナー」の内容を前編に続きレポートします。
ゲストの「N.HOOLYWOOD(エヌ・ハリウッド)」デザイナー尾花大輔さんの独立までのエピソードに続き、後編では「STUDIOUS」谷代表がアパレル未経験から代表になるまでを語った内容をご紹介します。
アパレル未経験だから“できないこと”をやる
谷:僕は大学在学中からずっとセレクトショップがやりたかったんです。将来的にセレクトショップをやるなら、大手アパレル会社よりもっと密に多くのノウハウを学ぶことができる会社で働きたいと思い、(株)デイトナインターナショナルに入社しました。
入社1年目は、他の新入社員がキツイって思うようなことでもとにかくやって、これは試練だと思って、応えるようにしていたんです。
そこで当時、今の「STUDIOUS」原宿本店の場所にあった赤字店舗を半年で黒字にしたらお前のやりたいことをなんでもやっていい、と言われたんです。そこから不採算事業再建プロジェクトをスタートしました。
尾花:どうして不採算事業を担当する事になったの?
谷:もともと新卒採用で入ったんですけど、僕、当時すごい生意気な奴で、初対面の社長との面接で「セレクトショップをやりたいから、そのお金を出してください!」って、言ったりしていて。
そんな僕でも、この不採算店舗を立て直すとき、自分よりキャリアが長いバイヤーや年齢が上の先輩に向かって、意見を言わなきゃいけないのは大変でした。
尾花:そういう時、どういう言い方をするのが良い、とか谷くんなりのコツはある?
谷:コツは3つあります。1つ目は公共の場で言うこと、1対1だとまくしたてられてしまうから。2つ目はあまり良くないことですけど、社長のせいにする。最後は、お酒の席で半分泣きながら言う(笑)。面白くないって思う先輩もたくさんいるし興味を持っていない人もいたけど、結局そういうひとは今残っていないんです。僕たちは先輩のために仕事をしているのではないので、気にしていると進めないんですよね。
尾花:そういうことを経験する人は多いよね。そこからどう売り上げをあげていったの?
谷:僕は全くアパレル経験がなかったので、とにかく自分ができないことをやっていきました。当時、雑誌に載れば売れるかもしれないと思って、原宿で雑誌の撮影隊に混ざって雑誌に載せてくれそうな人に声をかけたりしていました。
そこで声をかけた子が、たまたまファッション業界で働きたいということで、採用してプレスとして育てていたら後々カリスマ読者モデルとして雑誌に載ることが増えて、結果的に売り上げが伸びて…。思いつかなかったから、そういうことからやっていました。
尾花:結局、そういう谷くんの発想みたいに、固定概念なくやったことが、一つずつ形になっていくんだよね。
時代の逆をいくセレクトショップ
谷:例えば商社とか、大手で働いたことを活かそうって思っているひとはなかなか上手くいかない。固定概念を捨てて、やりたいと思う動きをすれば成功につながると思います。
尾花:そう。常に当たり前だと思っていることって、意外と他の場所にヒントがあったりする。例えばお店やるのにレジがなきゃできない、っていう人もいるけどレジがなくても店はできる。業界のことを知った上でそれを壊すパワーや熱量がないと、次にいってもうまくいかないよね。
「STUDIOUS」は、良い意味で時代を逆行してる。ライフスタイルが全盛の時代に、全くライフスタイルは無視して、日本のブランドだけを紹介する直球の攻め方って、当時は本当になかったよね。いろんなセレクトショップでライフスタイルの押し売りがオンパレードのときに、「STUDIOUS」が服に直球で向き合っているのは響いた。
谷:最近、インターンシップをやっていると大学生から、社会人になったらお酒飲める方が良いんですか?って質問されるんですけど、問答無用。飲めなきゃいけないじゃなくて、コミュニケーションツールとして大事、どう使うかだと思うんですよね。
尾花:飲めない人は例えば昼の使い方を工夫したり、飲めなくても飲みに行って話したいっていう気持ちがあればいいと思う。
谷:飲みの席で仕事をとる、契約するなんていうのは絶対にないですけど、そういう場所で5年後、10年後の種まきをするっていうのはすごく大切なことですよね。尾花さんは、「N.ハリ」スタッフと接点をどのようにに取っていますか?
尾花:スタッフとはほとんど喋っていますね。自分の中で絶対こうって思ったものを「これどうかな?」って聞く。決めるときの判断基準にあえて下品な言葉で返してもらったり、垣根なく色んなことを話しているかな。
谷:とても距離が近い感じがしますね。ビジネスを通じたファミリーのようなイメージです。
ファッション業界で生き残るための“熱量”
尾花:たまに組織の中でピラミッドが出来上がっているデザイナーを見て羨ましいなと思うこともあるけど、それは逆をいうと誰にも相談もできなくなるわけで、そうすると狭い中でしか考えられなくなる。
僕らはデザイナーズブランドなんだけど、それでもお客さんがいてマーケットがあってニーズがあるからできるということをしっかり考えつつ、その中でこれだけは見せたいっていうものについてをずっと話していくべきだと思う。
谷:「N.ハリ」は10年以上続いていますが、これまでも多くのブランドが出てきたのに長く続かない状況についてはどう思いますか。
尾花:やっぱりとにかく成功してやろう!っていう“熱量”だと思う。もちろん時代もあるけれど、今はデザイナーたちが支援を受けられる場所が増えたことで、小さいブランドをやっている人たちでも中途半端なスポンサーを得て、結局は潰れてしまう。でも、同じような“熱量”を持つ人だったら、ショー会場は決まった場所でしかできないものではないし、別のところでやったって良いと思う。
谷:今の日本のコレクションシーンも、SNS上で架空の盛り上がりを見せて終わってしまっていることも多い気がします。実売につながらず、盛り上げるだけでは数年後にブランドは無くなってしまうはず。
その中でもエンドユーザーのことをしっかり考えることができる、“熱量”を持てる人が続いていくのではないでしょうか。
セミナー中、尾花さんの口から何度も出た“熱量”というキーワードがとても印象的深かった今回のイベント。この後も会場に訪れた多くの学生・社会人たちから、お二人に多くの質問が飛び交いました。
こうしたイベントを通じて、また新たな挑戦をする人々が増えるのかもしれません。ますますこれからのファッション業界が楽しみになるセミナーでした。