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「テクノロジーの時代を生き抜くには『越境』を」軍地彩弓さんとムラカミカイエさんが語る「FASHION CREATIVE 東京会談 Vol.2」レポート【前編】

「テクノロジーの時代を生き抜くには『越境』を」軍地彩弓さんとムラカミカイエさんが語る「FASHION CREATIVE 東京会談 Vol.2」レポート【前編】

2015年6月3日(水)、ファッションクリエイターをサポートするクリーク・アンド・リバー社ファッションクリエイター・エージェンシー主催の対談セミナー「FASHION CREATIVE 東京会談 Vol.2」が開催されました。今回のゲストは、「NumeroTOKYO」のエディトリアルディレクターを務めるほか、自身の会社「gumi-gumi」を主宰するファッション・クリエイティブ・ディレクターの軍地彩弓さんと、ファッション、ビューティ分野に強みを持つブランディングエージェンシー「SIMONE」代表で、クリエイティブディレクターのムラカミカイエさん。ファッションをはじめ幅広いフィールドで活躍中のお二人による、「ファッションとテクノロジーの未来」をテーマとした貴重なお話を伺ってきました。当日の様子を前編・後編の2回に分けてレポートします。

前編ではまず、テクノロジーによって変わりつつあるファッション業界の現状、そしてデジタル時代における仕事のあり方について、お二人が感じている問題点も交えながらお話しいただきます。

軍地彩弓さんとムラカミカイエさんが考える、ファッションとテクノロジーの未来

司会:今日はお二人に、「ファッションとテクノロジーの未来」についてさまざまな角度からお話しいただけたらと思いますが、最初に、テクノロジーの進化によりいまファッション業界で起こっている、起ころうとしているのはどんなことなのでしょうか?

軍地さん(以下敬称略):まず最近のニュースを見ていても、「ファッション業界は元気がない」と周りからは言われますよね。ネガティブなニュースが立て続けに報道され、海外でもいくつかの人気ブランドが休止を発表したり、日本から撤退したりしています。業界が変わりつつあり、しかも急速にシュリンクしているのですが、これは仕方のないことでもあるんですよね。

ムラカミさん(以下敬称略):そうですね。簡単に言ってしまうと、ファッションは自己表現のツールだったのが、SNSという別の自己表現の場所を見つけられてしまい、ライフスタイルの発信はSNSでしたほうが費用対効果としてもいいのではないか、という話です。そうすると必然的に、ファッションに使えるお金も限られてくる、という。

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軍地:あとは、売り場を埋めるためにブランドが作られている傾向があるというか、本来の「需要があるところにものを作る」のとは逆の現象が起きてしまっていて。さらに人口、特にものを買う世代が減少しつつあるのが現在だと思います。ファッションは変化を作り出すべき業界でありながら、ここ数年はデジタルしかり、変化に追いつけなくなっていたと思っていて。今後、なくなる仕事、残っていく仕事、そしてこれから生まれる仕事がある、という中で何が必要なのかについて話していきましょうか。

テクノロジーによってなくなる仕事とは!?

ムラカミ:なくなる仕事というのは、分かりやすく言えば「テクノロジーで代替できるもの」なんですよね。一枚の洋服ができるまでには生地屋さん、デザイナー、パタンナー、生産管理、といろいろな人が関わらなければならず、これだけ中間コストのかかる業界も珍しいので、オートマティックに進められるところはどんどん削減されていくでしょうね。

軍地:いま、なくなるとされている職種は具体的には何だと思いますか?

ムラカミ:大きなメーカーでは生産、企画、PR、営業、とすべて内包しているところが多いのですが、小さいブランドはほとんどアウトソーシングしているんですね。その分、利益は当然減るもののリスクヘッジができるので、いい企画力を持っているところほどアウトソーシングから実績を積み上げ、うまく回るようになったら内部に少しずつ人材を投入していく、というのがいまのやり方です。大きな会社がアウトソーシングを検討する際、まず外に出したいと考えるのは生産管理だと思います。それから、メディアの変遷とともにPRのあり方も変わってきて、この先はリース対応をしているだけではダメで、メディアプランをちゃんと考え、計測して報告し、自分の成果として残せることが重要になってきます。

「テクノロジーの時代を生き抜くには『越境』を」軍地彩弓さんとムラカミカイエさんが語る「FASHION CREATIVE 東京会談 Vol.2」レポート【前編】

もちろん企画も大事で、洋服のコピー&ペーストが非常にやりやすくなっている中、本当に求められているものは何か、それを形にできる人は活躍できると思います。20世紀、あるいはゼロ年代までは編集能力があればよかったのですが、これからは編集だけでなく0を1にできる人に価値が出てくるでしょうね。ファッションは社会の変化を柔軟に受け入れ、時代に合わせて新しいものを生み出してきましたが、僕が常にうちのスタッフに伝えているのは、「歴史から学ぶこと」、「経済の流れを最低限知っておくこと」、それから「最新のテクノロジーに耳を傾けること」。この3つを理解しておくと、どんなことが起こってもおかしくない、という前提で物事を考えられるようになると思うんですよね。

軍地:歴史と経済とテクノロジー、ですね。
そういえば、いまはモノが売れない時代だと言われますが、今年、GUのガウチョパンツは100万本くらい売れているんですよ。それは世代が広がったのと、テレビの取材が大きかったらしく、でもそのネタ元って実はInstagramなんですよね。他にもNaverまとめ、WEARや雑誌に「ガウチョ」というキーワードが頻出することで拡散されたのだとか。以前なら情報の起点は紙媒体だったのが、ネットやアプリに置き換えられていったのは雑誌屋としては悔しいけれど、当然の流れなのかな、と。売れるまでの構造は変わっていても、売れるものはちゃんと売れるし、間にテクノロジーが入っているのを理解できると思います。ところで、いまファッション業界において、ITがもっとも変革を起こしているのは流通の分野なのですが、ムラカミさんはオムニチャネルについてはどのように考えていますか?

ムラカミ:オムニチャネルとはつまり、「どこにでもチャネルがある」という意味なのですが、簡単に言ってしまうと、購入の機会を決めるのはお客様であり、今後はどこでも買えるようインフラを整えることが重要になる、という話です。企業のECでは「絶対に取り組むべきことベスト3」に入るほどのキーワードだと思います。

軍地:オムニチャネルはオンラインとオフラインを繋ぐ「O to O」とも呼ばれています。あるブランドが表参道に実店舗、そしてECサイトを持っているとして、これまでは表参道店でサイズを切らすと、そこで売るチャンスはほぼ失われてしまっていたのが、店頭に在庫がなくてもiPadを使い、その場でECの倉庫から配送することが可能になってきました。一度ECから発送すると、購入者の情報が必ずバックヤードに行くので、サイトを通じておすすめ商品のアラートもできますよね。その際に大事なのは、ユーザーが何を買ったかという情報がデータベース化され、囲い込みがされていることです。

今後も生き残っていくのは「越境」のできる人

ムラカミ:そういった状況になりつつある中で、スタッフの高い接客力のように、テクノロジーで代替できない価値は残っていくと思います。それに関連して、テクノロジー業界では、これからもなくならない仕事は「寿司屋」だと言われているんです。市場でどの魚が新鮮かを見極め、どれだけうまく捌くかだけでなく、どんな酢飯を握り、お客さんを接待する空間をどう作るのか、そういった複合型のサービスにこそ価値がある、ということ。ファッションの世界でも、僕と軍地さんの共通点って実はあまりないんですけど(笑)、肩書きとフィールドが違うだけで、やっていることはわりと近いんですよね。でもいま活躍しているのはみんなそういう人で、共通しているのは、「越境」です。自分の得意とする分野があり、かつ世の中の変化を柔軟に受け止め、他の業界の人たちの考えを吸収していくところは一緒ですよね。

軍地:私は編集者になって25年くらいになります。20年は実直に「編集バカ」として時間も忘れて仕事をしていたのですが、なんでも10年やると知見が出てきますよね。あとの10年は人脈をはじめとする蓄積の時期で、ここ5年がそれら知見と蓄積の結果なのかな、と思っています。活動がマルチになっているのは結果であって、編集バカ一代を経てきたことで、こうやって話を聞いていただくことができ、いろいろなジャンルの人とつながれているんです。

そういえば、先日のグッチのプロジェクトで、細尾真孝くんという京都の西陣織の十二代目が、アーティストのスプツニ子さんと組んで、バイオテクノロジーで光るシルクを作りました。彼が画期的に西陣織を変えたのは、基本的に帯しか作れなかった西陣織で大きなファブリックも作れるように織り幅を変えたことです。その結果、既存の西陣織を越境し、ディオールやシャネルもVMDで使われるようになったのだとか。日本のものづくりはやはり素晴らしくて、このようにもともと持っていた知見は変えずに仕組みを変えるだけでいいし、逆に変えられないとうまくいかないんです。いま、その分かれ道に来ているのだと思います。

ムラカミ:いまは一点突破みたいなビジネスを作ることが難しくて、アメリカでは「スタートアップで成功するには、3つの“H”を揃えよ」と言われているんです。それらはHacker(エンジニア)、Hustler(お金を調達する人)、それからHipster(人前に出る人)。この3つが揃えばビジネスはうまくいくという話があって、会社を作る・作らないは別としても、これらのスキルをどのように磨いていけるかが大事だと僕は思っています。すべて自分で備えられたらパーフェクトですが、一人で無理なら仲間を見つけてチームを作ること。常にそういう視点を持って臨むことで、どんな不況でも乗り越えられる気がします。

「テクノロジーの時代を生き抜くには『越境』を」軍地彩弓さんとムラカミカイエさんが語る「FASHION CREATIVE 東京会談 Vol.2」レポート【前編】

後編では、この時代だからこそ有効なプロモーションの方法、そしてデジタルを取り巻く海外の動向について、引き続きお話を伺います。

 

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