ファッション業界で働く楽しさや、自己実現の可能性を再認識してもらいたいというコンセプトで開催されている、クリーデンス主催のイベント「Fashion People+LIVE」の第6弾。マガシークとベイクルーズの各取締役が登壇し「これからのEC×ファッションを考える」と題したトークイベントが2015年3月25日(水)に開催されました。当日の様子を前編・後編の2回に分けてレポートします。
ECサイトはどうやったら成功する? ECという仕事の魅力は? ファッション、そして、Eコマースの最先端に携わるお二人が考える「EC×ファッション」の今、そして未来についてお話を伺います。前編は、マガシーク取締役 ECソリューション事業本部長 田中宏樹さんです。
マガシーク「自分好みに進化していく、自分だけのセレクトショップ」
司会:トークショー第一部では、マガシーク取締役 ECソリューション事業本部長 田中宏樹さんをお迎えして、お話を伺っていきたいと思います。まずは、マガシークの事業内容を教えていただけますでしょうか。
田中(以下敬称略):こんばんは。マガシークの田中です。マガシークは2000年に、元々、伊藤忠商事の中のベンチャービジネスコンテストで選ばれて、今の社長である井上が立ち上げたビジネスです。2003年に伊藤忠商事から独立し、マガシーク株式会社を設立、2013年にはNTTドコモと資本提携しました。サイトの会員数は200万人を超えたところです。昨年度の3月期の売上で112億円、この3月は前年に比べて110%増と順調に伸びてきています。
司会:今、運営されているサイトについて教えていただけますでしょうか。
田中:核となるサイトが「マガシーク」です。コンセプトは「自分好みに進化していく、自分だけのセレクトショップ」で、取り扱いブランドは600以上あります。ユーザーがアクセスしたブランドや好みを分析して商品をおすすめする独自のリコメンドシステムを導入しています。
また、「アウトレットピーク」という世界最大級のアウトレットモールもあります。近年、非常に伸びてきていて、アウトレット製品が市場に完全に定着したな、という感じを受けています。それ以外には、NTTドコモとの資本提携で生まれた「d fashion」というサイトがあり、NTTドコモのdマーケットの中のファッション部門をマガシークが運営しています。
そのほか、ECソリューションサービス部門では、他社サイトの受託であったり、物流だけであったり、何らかの形で30ブランドくらいのお手伝いをしています。
司会:そうなんですね。それではさっそく本題に入りたいと思いますが、率直に「ECで成功しているブランドの秘訣」とはなんでしょう。
田中:個人的な印象ですが、ECは結構簡単に売れるんじゃないかと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、意外と手間がかかります。そこにしっかりと人を割けるか、スタッフの質も重要だと思います。マガシークの場合も、売れているブランドの担当者は非常に積極的で、こんなのが売れるんじゃないかという提案や欠品の補充などをまめにやっていますね。出したら売れるのではなくて、「ここで売るんだ」という意識を持てるかどうかが大事です。
司会:ブランドは、自社ECサイトやモールを複数運営されていると思うのですが、 成功しているブランドはどのように使い分けているのでしょうか。
田中:例えば、マガシークに出店されている某ブランドは、自社サイトとマガシークでの売れ筋の違いなどをきちんと把握し、自社サイトではサイト限定品を出してちょっと色を変えてみたり、マガシークでは一般的に売れるものを出してみたり、「出したり引いたり」をうまくコントロールされていると思います。
―「出したら売れるではなくて、ここで売るんだ」という高い意識を持つことが大切。ECサイトを始めたからそれでよしではなく、お客様の立場に立って在庫管理をし、提案をすることを怠らない担当者をしっかりと配置できることが成功のカギのよう(編集部)。
スマホからのアクセス、受注が完全にPCを上回っている
司会:少し話題を変えて、今、スマートフォンで買い物をされる方が増えていると思うのですが、マガシークのスマホユーザーはどれくらいですか。
田中:アクセスベースだとだいたい7割、受注ベースだと6割くらいで、完全にPCを上回っています。
司会:その辺りをうまく取り込む秘訣とは。SNSの活用などはいかがでしょうか。
田中:そうですね、マガシークはスマートフォン専用サイトを開発しているので、スマホで見やすい、見せやすいサイトを作るようにしています。TwitterやFacebook などのSNSも活用していますが、現時点では、直接売り上げにつながっているという感じはあまりないですね。古典的ではありますが、ユーザーの動きに応じたメールをこまめに出すようにしていて、その方が効果がでています。
SNSは、「ブランドの世界観を伝える」ために使っているブランドが多く、写真などでブランドの世界観をしっかりと伝えることが重要
司会:SNSをうまく活用しているブランドはありますか。
田中:ブランドによっては、物を売るためではなく「ブランドの世界観を伝えるため」にSNSを使っているところが多いと思います。例えば、マガシークのカメラマンがブランドの世界観をすべて理解できているわけではないので、そんな時は、ブランド側から「この写真を使ってほしい」と提案してもらうようにしています。ブランドの世界観を表現した写真を掲載すると、やはり売り上げにつながりますよね。
司会:田中さんから見て、未来のファッションのECはどうなっていくと思いますか。
田中:そうですね、これからは実店舗と連動した形でECも成長していくと思います。私たち自身で実店舗を持つというよりも、実店舗をお持ちのブランドさんとコラボレーションすることを模索していかないといけないなと思っています。あとはビッグデータの解析なども行って、それに基づいたマーケティングやCRMを加速させていきたいです。
サイトとしては、1回目にアクセスした人にはこんなポップアップ、2回目の人にはこんなポップアップといった感じで、リアルと同じように細かくユーザー対応できたらよいのかなと思います。
これからのECは、実店舗とwin-winになるようなコラボレーションをして、お互いに補完できる関係であるべき
司会:未来を考えたときに、マガシークでやってみたいこと、この分野が面白いということはありますか。
田中:海外への対応はあたりまえにやるべきですね。日本のECは対応していないところも多いので。欧米などに展開できたらいいのですが、海外のマーケティングが難しく、注文が増えたときに物流のパートナーをどうするか、コストがかかった時にペイするかなども考えていかなくてはいけないですね。あとは、先ほども申し上げたように、実店舗とwin-winになるようなコラボレーションをして、お互いに補完できる関係があれば、そこにビジネスの機会があるだろうと思っています。
司会:なるほど。もともと商社マンだった田中さんが、ECとファッションを仕事にすることの面白味はどこにありますか。
田中:ファッション好きはもちろんですが、データ解析であったり、マーケティングであったり、システムに興味があったりする方が来ると、活躍の場が広がると思います。私個人としては、自分たちで考えた施策が当たって予想以上の売り上げがあった時だとか、ECソリューションの分野はBtoBになるので、コラボレーションをすることによって、1+1が2ではなく、3か4になるような、夢が広がるような取り組みができるので、面白いなと思います。
司会:どんな施策が当たったのかを教えていただけますでしょうか。
田中:例えば、普通はセールをやらない時期にメーカーにお願いしてセールをやってみたら、通常はダメだと言われているタイミングでも、意外と反響があったことがありました。特別なことをしているというよりも、そういった施策を繰り返してやってみているという感じですね。
司会:なるほど。そうなんですね。本日はありがとうございました。
―マガシークの田中さんが考える「ファッション×EC」の未来。それは、ECとリアルの店舗が相互に補完しあうことで、1+1が3にも4にもなるような夢が広がる取り組みができるようになることでした。そのためには、「やってみたらどうかな」という施策を繰り返し行ってみるというチャレンジングな精神が必須。当然ECだけが独り歩きしてもいけないし、実店舗だけにとどまっているだけでもいけない、どちらの存在も大切にしないといけないのですね。(編集部)
後編では、株式会社ベイクルーズの取締役ICT統括 村田昭彦さんにお話を伺います。