“洋服はたくさん持っているはずなのに、今日も着ていく服がない…”−−「XZ(クローゼット)」は、そんな悩みに応えるべく、新しい着回し方法をソーシャルで共有し合えるアプリです。今回は、開発を手がけたスタンディングオベーション代表・荻田芳宏さんに、開発に至った経緯や新たに予定するサービスなどについてお話を伺いました。
1人あたり80アイテムもクローゼットに眠っている!?
−まず、XZ(クローゼット)を立ち上げるに至るにはどんな背景があったのでしょうか?
ファッション小売に関して言うと、ECサイトや実店舗でも、新品を単品で買ってもらうことがほぼゴールとされています。それは消費者にとっては買ったものの、うまく使いこなせず、結局タンスの肥やしになってしまっている。今はそこにフリマアプリなどが登場して受け口がありますが、僕たちは新品マーケット(ECサイトや実店舗)と中古マーケット(フリーマーケットなど)の中間、いわゆる“たんすマーケット”の活性化を目指しています。
−この“たんすマーケット”に着目したきっかけは?
おしゃれな子ほど洋服をたくさん持っているのに「今日着ていく服がない」と悩んでいる傾向にあります。また男性にはあまりないのですが、女性には、同じ人と会うのに同じ服を着て行きたくないという心理が働きますよね。かといって無尽蔵に服を買える人は限られているわけで、そうなると手持ちの服をどう生かしながら毎日のファッションを楽しめるかなんです。この普遍的な課題がそのままにされている現状です。
前職の広告業界にいる間、女性誌のリサーチをしていましたが、着回しというのは女性にとって永遠のテーマであることは、明白でした。当社が調査するなかでも人からコーディネートを教えてもらいたいという方が20代を中心に7割くらいいました。また、クローゼットの7割くらいが眠っていて、一人あたり80アイテムほど眠っているという調査結果もあります。
ユーザーは基本的にミックスブランドでいろんなアイテムを組み合わせて自分のスタイルをつくりたいと思っています。ただブランドはショップでのコーディネート提案も、ファッションショーで見せるスタイリングも同じブランドの新作の商品だけで作り上げている。そこにユーザーと作り手側の絶対的な乖離があると思っています。ほかの産業はユーザーと作り手が歩み寄って発達を遂げているのに対し、ファッション業界は作り手が情報を送るだけのトップダウンの構造がなかなか変わらないという実感があります。この結果、年間100万トンの産業廃棄物を生み出していることになっているのです。
XZアプリが実現してくれること
−実際XZアプリではどんなサービスを行っているのでしょうか?
XZではコミュニティを利用して、みんなのアイデアで解決できるという体験を提供しています。そもそも持っているものがわからないとおしゃれになれません。クローゼットの中身は休眠資産であり、アイデア次第で蘇るのではないかと考えています。
そこで僕たちはまずはクローゼットを可視化することをファーストステップとしています。カレンダーにも連携しているため、1ヶ月のコーディネートが自分で確認できます。明日着る服って?そのときには決まるということもそうですが、よりおしゃれなコーディネートを作ることができたらいいですよね。実際におしゃれが向上したという体験をどこまで作ることができるかがポイントだと思っています。
(XZアプリのイメージ画像)
アプリを使うと、世界に一つのクローゼットが共有されていくので、自分のものとほかのユーザーのものとのコーディネートのシミュレーションもできる。デジタル上でアイテムを借りてコーディネートを作ったり、それによって似たようなアイテムの購入につながったり、いろんなユーザーの着回しアイデア集が蓄積されていき、みんなのアイデアでおしゃれを向上させていくことをゴールとしています。
−現在のXZのユーザーの属性や特徴とは?
F1層が7割を占めています。Q&Aで質問、回答しているのは大学生19〜20歳代が多く、コーディネートをきれいに作っていたり、コーディネート作成頻度が高いのは30代が多いのが特徴です。現在30万ダウンロード数で、アイテム登録数は150万点、コーディネートは40万件となっています。
手持ちの服を使うため、自分ごととして関心が高く、コーディネート作成率は18%、作られるコーディネート1日1000件と、実戦的に使ってもらえているという実感があります。一人当たりの熱量も高く、一人平均37アイテムが登録されており、100個以上登録している人が3000人以上います。
コンテストを定期的に行っていますが、参加率も非常に高いです。Q&Aでアドバイスしてくれる人はある程度ファッションに自信がある人が多く、今後は、スタイリストの卵として、その層を引き上げて、シンデレラストーリーのように活躍できる機会も提供したいと考えています。ファッションには憧れ要素も必要なので、有名人のクローゼットの公開なども構想中です。
−自分だけではどうしても気付かないような、スタイリングの提案をしてくれるのは嬉しいですね。
ユーザー間でお互いのスタイリストになり合うというプラットフォームができれば、ファッションのプロが入ってきてくれたらもっと幅が広がると思うので、有名人やファッションのプロに参加も検討しています。
また、IBM Watson(ワトソン)の公式パートナーに選ばれたので、今やっていることをAIに学習させることも考えています。基本的にはコミュニケーションのプロセスも楽しんでもらいたいので、AIは最低限。まずは顔が見えるコミュニティとしてファッション好きのユーザー同士がお互いに意見アイデア交換をできる場を作ることを前提に、ただすべてカバーしきれないため、そういうこところにスタイリングを学んだAIや、スタイリングのセオリーや個人の嗜好を学んだAIが提案できると、よりサービスを補完できるかなと思っています。
−実戦的でリアルなことが強みということですが、ビジネスモデルとしてどのように成立させているのでしょうか?
確かにアイデア交換だけではビジネスにはなりにくいため、実際にモノを動かすこと目標に、「ファッション体験エコシステム」を実現してきたいと考えています。つまりユーザー同士、もしくはブランドとの連携で、コーディネートをいろいろ考えた結果、卒業していくアイテムがあり、そこに新品を取り入れるということを繰り返していくのです。来年の前半にはユーザー間取引を導入し、ユーザーのクローゼットを最適化して、新陳代謝促進を目指しています。
IT×ファッションの未来とは?
−ファッション業界自体が縮小しているなかで、IT×ファッションの可能性についてどう考えていますか?
ユーザー本位の体験システムを作っていくことが重要だと考えています。ブランドとの協業については、ブランドページを設け、ファンクラブのような仕組みを作っていきたいと思います。これまでショップスタッフがお客様のクローゼットの中身を知ることはなかったと思いますが、究極のパーソナライズができると思います。クローゼットウェブ接客として、POSとも連携して、お客様のクローゼットに追加できたりもするのです。
ユーザーのクローゼットデータというのは僕らにしか持っていないため、ブランドサイドにフィードバックすることで、ブランド側はよりユーザー本位の商品展開やスタイリング提案ができるようになるのです。初回はリーボック様に公式のクライアントとしてコンテスト企画に参加してもらいましたが、今後ブランドを増やしていきたいですね。
−いろいろと構想があり、今後がさらに楽しみですが、このアプリを通してどんなことを実現させたいと思いますか。
今後3カ年計画で、新たなサービスを続々と導入する予定です。クローゼット機能を外部提携していくことも検討していて、プラットフォームがきちんとできれば、多様な既存コミュニティに展開していけると思います。
目標としては、大量生産で売り切りという考え方をスウィッチしていき、車業界のようにしていきたい。車は単価がもちろん洋服とは違いますが、アフターサービスが充実していて、必ずどこかに行き渡っていく。服もちゃんとリユースしていくなど、エコシステムを作ることができるのではと思います。
ユーザーのクローゼット(中古)とショップの商品(新品)をミックスブランドするオープンプラットフォームを作り、ユーザー本位なファッション体験を提供することで、ボトムアップのファッションの文化を作っていきたいのです。
−今後の展開が楽しみですね。ありがとうございました!
さまざまなファッション系アプリが登場するなかで、クローゼットに眠るアイテムに着目し、独自のマーケットで提供できるサービスを追求する荻田さん。新たなサービスが次々と導入されていくとのことで、ファッション業界に携わる人ならXZアプリの新たな展開を随時チェックしておきたいものです。またユーザーとしてこのアプリを駆使することで、休眠資産を生かしたり、「ファッション体験エコシステム」の発展に貢献できたりするかもしれません。
株式会社 STANDING OVATION