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クリスチャン・ルブタンの“赤い靴底”をめぐる訴訟の行方|Fashion Law for Beginners 事例編

これまでアパレルに関する基本的な法律のお話をしてきたこの連載ですが、今回は実際に起きた事例について触れたいと思います。

クリスチャン・ルブタンの象徴とも言えるレッドソール(赤い靴底のヒール)にかかる商標が、日本、アメリカ、ヨーロッパなど各国で商標出願・登録されています。色の商標として興味深いトピックですのでご紹介したいと思います。

各国におけるルブタンの商標登録状況

各国におけるルブタンの商標登録状況を簡単にまとめますと商標はいずれも同じで(下図)、赤色はPANTONE 18-1663TPとされています。アメリカでは2007年7月に出願し2008年1月に登録、ヨーロッパ(EUTM)では2010年1月に出願し2016年5月に登録となっています。日本では2015年4月1日、色の商標が導入された同日すぐに出願し現在まだ審査中です。

アメリカとヨーロッパでは商標登録後にその有効性が争われています。商標は出所を表示するためのもの、つまり誰が作ったものか、誰が販売している製品かという出所を示すのが商標の機能です。おおまかにいえば、レッドソールが商標としてルブタンの商品を示すサインとして用いられているのか、または単なる装飾として用いられているのかということ。“赤いソールが素敵だから買う”のであればその色は出所を示す商標ではなく装飾のための機能であり、商標登録は無効なのではないか、というのが論争の焦点と言えます。アメリカでは5年ほど前に決着し、ヨーロッパでは(ほぼ結論は見えたものの)現在もなお争われています。

アメリカでの訴訟について

2012年にイヴ・サンローランとルブタンの間でレッドソールの商標権侵害およびその有効性が争われました。イヴ・サンローランが販売したのは主に単色の靴で、上下とも赤、上下とも紫などでした。

控訴審ではルブタンの主張について、“ソールが赤く、かつ、上部の色とコントラストがある場合だけ、商標権の行使を認める”と判断されました。提出された証拠により、赤いソールについては使用による識別力を認めたものの、靴底以外の部分の色とコントラストをなしている場合に限られ、イヴ・サンローランが赤色のみならず他色についても上下単色の靴の販売実績を1970年代のものから示したこともあり、全体が赤い靴についてはルブタンの立証が不十分とされたのです。

この際、使用による識別力(Secondary meaning)についてルブタン側は、184点におよぶ雑誌記事等による広告、アンケート調査結果、アメリカ税関では2万点を超える模倣品が押収された事実による盗用の企て、20年におよぶ使用の事実などを述べています。

ヨーロッパでの訴訟について

Van Harenという、赤いソールの靴の販売をしていた靴の小売販売会社に対して、ルブタンが商標権侵害を主張。ハーグ地裁における商標権侵害の訴えに対して、Van Haren側が商標登録の無効を主張し、ハーグ地裁が欧州司法裁判所(CJEU)に判断を求めていましたが、2018年6月にCJEUの結論がでました。ここでのポイントは、絶対的拒絶理由(無効理由)に該当するかという点です(※ルブタンが裁判をした時点は当該規則改正前の状態のもので、現状は2016年改正)。

複雑なので詳細は避けますが、レッドソールの商標が「商品に実質的な(重要な)価値(substantial value)を与える形状(改正後、「又は他の特徴」が追加)のみから構成される標章」は、商標登録を認めないという規定に該当するか否かということです。

「形状」に、レッドソールが含まれるかどうかがポイントで、仮に色もここでいう「形状」に含まれ、さらに赤いソールという特定の形状(ここでは外形を特定した色)にもとづいて商品の購入が行われているのであれば、商品に実質的(重要な)価値を与える形状のみからなる標章ということで登録無効という判断になります。

今年6月にCJEUの判断が下され、図に描かれた靴の輪郭は商標に含まれず赤色の位置を示すためのものであり形状とは関係なく、上記拒絶理由に該当しないとされています。これにより(おそらく)ルブタンの商標は有効なものとして存続することになると思われます。

なお、上記規則改正後の現在において、仮にレッドソールのような商標を出願したとすると「商品に実質的な(重要な)価値を与える形状又は他の特徴のみから構成される標章」のうちその他の特徴に“色”も含まれると判断され、登録は拒絶される可能性があると考えます。

日本での商標登録について

日本では、2015年4月1日に「女性用ハイヒール靴」を指定商品としてルブタンから商標出願され、2016年4月に拒絶理由が通知されています。拒絶理由通知まで1年ほどかかっており、特許庁でも慎重に審査されています。

拒絶理由の通知内容を簡単にご紹介すると、「商標に使用される色彩は商品の特定の位置に付された色彩も含め、多くの場合、商品の魅力向上等のため選択がなされるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別するための標識として認識し得ない」とされ、「商品に通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識」されるにとどまり、「本願商標は、単に商品の特徴を普通に用いられる方法で表示するにすぎない」という理由で識別力を有さないとされています。さらに使用による識別力(商標法3条2項)についても、証拠の不足や「出願人以外の者が取り扱う女性用ハイヒール靴においても靴底に赤い色を付しているものが多数ある実情」が見られることから、「あくまで商品の魅力向上等のために付された色彩として認識されている」と指摘されています。出願人も反論していますが、現在も結論はでていません。

その他の国での商標登録について

アジアを中心にその他の国での登録状況を少し調べてみました(漏れなどあるかもしれませんがご容赦ください)。

韓国では上図の商標は見つからず、下図のようなデザインの違う状態での商標登録が見つかります(No. 4020160025)。

中国では国際登録制度を利用して出願されているようです(G1031242)。中国の商標データベースでは登録となっているようなのですが表示がおかしく、国際登録のデータベースを見ても登録されたのか確認がとれない状況です。現地弁護士に聞いたところ「おそらく登録になってはいるが当事者でないと正式なルートで確認できない」とのことでした(中国商標のデータベースはまだ信頼性に欠けるところがあります)。

台湾ではレッドソールに関する商標登録は見つかりませんでした。

インドについて、2018年7月にニュースがありましたが、デリ高裁において商標法による保護が否定されたようです。こちらの記事によるとインドでは単色は商標として保護されないとの規定があったようです。

今回は一部の国を見ただけですが、こうしてみると保護の可否、保護する場合の範囲など国ごとに判断が違うようです。ただ、傾向としては商標として保護される流れにあるように見えます。日本でどのように判断されるのか興味深いところです。

※ルブタン訴訟の詳細は、中川弁護士による解説サイトを参照してください。

今回のコラム執筆者

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Fashion Law Institute Japan事務局長|金井 倫之さん

弁理士・ニューヨーク州弁護士。金沢工業大学大学院客員教授、青山学院大学客員教授。文化服装学院、ドレスメーカー学院等でファッション・ローの講義を行う。

Fashion Law Institute Japan

知的財産研究教育財団に属する日本で最初のファッションローの研究を行う場。メンバーは国内外のファッションブランドにより構成され、研究員として弁護士等が参加。

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