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ファッション・ローはなぜ生まれたか?|Fashion Law for Beginners 法律編

はじめまして。これからファッション・ローについて、ファッション・ロー研究所(Fashion law Institute Japan)の仲間とリレー形式で連載させていただきます。このコラムでは、【1】ファッションに関する法律の初歩、【2】国内外の事例の2つのカテゴリーに分けてお話しできればと思っています。

第1回は、ファッション・ローの誕生の経緯や概要についてご紹介します。

そもそもファッション・ローとは?

皆さんは、ファッション・ローという言葉を耳にしたことがありますか?実は、日本でもアメリカでもそのような名前の法律があるわけではありません。アメリカのロースクールでは、エンターテイメント・ロー、スポーツ・ローといった産業別に法律を集めた授業が設定されることが多々あります。特許法、商標法のように法律単位で勉強することももちろん大切です。ですが、それだけではビジネス単位で関係する部分を学びたいというニーズに対して、どうしても知識が分断されてしまいます。そもそもこれから勉強を始める人にとっては、どの法律を学べばよいのかわかりづらいことでしょう。

ファッション・ローもそういったニーズに応え、ファッションビジネスという視点から法律を勉強・研究しようという目的でできた分野なのです。

ファッション・ロー誕生のいきさつ

ファッション・ローという分野が注目され始めたのは比較的最近のことです。アメリカでは、2010年にフォーダム・ロースクールに研究機関が設置され、その後数多くの欧米のロースクールなどでファッション・ローの授業が始まり、最近ではハーバード・ロースクールのような名門校でもコースが設けられようになりました。

ファッション・ローという概念が誕生し活発になった背景には、「ITを中心とする技術の進歩」「ファストファッションの台頭」「ラグジュアリーブランドのコングロマリット化」の3つがあると考えられます。

2000年以降とされるIT技術の進歩、具体的には画像のデジタル化やインターネットの普及がファッションブランド・デザインの模倣を容易にする契機となりました。極端に言えば、ランウェイで発表されたデザインをスマートフォンで撮影し、海外工場に画像データをメールすれば、すぐに模倣デザインを作り始めることができる環境が整ったということです。

期を近くしてファストファッションという言葉が普及し、多くのブランドが国際的に台頭してきました。ファストファッションは数週間単位の極めて短サイクルで流行のデザインを販売します。短サイクル化も技術の進歩によるところが大きいのですが、海外でファストファッションによるデザイン模倣などが多く指摘されています。例えば、少し前になりますが、インディーのデザイナが-SNS上で自分のデザインが模倣されたことを非難するような事態も起きています。

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※出典:https://www.dailydot.com/business/forever-21-ripoff-copyright-stolen-shirt-design/

一方で、LVMHにルイ・ヴィトンやディオールなど多くのブランドが集まっているようにラグジュアリーブランドを中心にコングロマリット化が進んでおり、ブランドやデザインの保護を重視する側の力が増しつつあると言えるでしょう。

とはいえ、ファッション業界では昔からデザイン盗用の問題は起こっており、比較的デザイン模倣に寛容であった業界とも言えます。ココ・シャネルは“模倣されることは称賛と愛を受け取ること”と言ったそうです(シーズンごとにデザインが変わってしまうので追いかけてもしょうがないという、あきらめや皮肉の気持ちも込めていのるかもしれませんが考えすぎでしょうか…)。

しかし近年、模倣事例の増加だけでなく、技術の進歩によって模倣出現サイクルが飛躍的に早まっています。これはデザイン側が投資を回収する前に模倣品が出回ってしまう=投資を回収できないということを意味します。前掲のココ・シャネルも一定の名誉や収益を得た後であったから模倣を許容できたのかもしれませんが、駆け出しのインディーのデザイナーが自分の収入を得られない状況で同じようなことが言えるでしょうか?

そういったファッションを巡る紛争の増加や模倣サイクルの早期化に端を発し、議論が盛り上がる中で、ファッション・ローが生まれてきたのです。

ファッション・ローの授業内容

私はアメリカの弁護士から勧められ2014年にフォーダム・ロースクールのファッション・ローコースに参加しました。日本人は私だけでした。クラスの構成は、デザイナー、ファッション企業に勤める人、弁護士などが3分の1ずつ占めるという感じでした。多くのデザイナーが、将来自分のブランド立ち上げを目指して参加しているのが、印象深かったです。授業内容は、商標や意匠制度、ライセンスを含めた知的財産に関するものが6、7割を占めており、そのほかはモデルの人権、労務問題、ファイナンス、発展途上国における労働搾取など、ファッションビジネスに関する法律や問題を広く扱っていました。

ファッション・ロー研究所は、ファッションに関するブランド・デザイン保護、知的財産にフォーカスして活動していますので、本連載でも同様に進めていきたいと考えています。以下、初回ですので簡単にブランドやデザイン保護に関連する制度をご紹介したいと思います。

ブランドを保護するルール

商標法がメインとなってブランド名を保護します。商標とは商品やサービスの出所を示すサインで、ルイ・ヴィトン、グッチ、エルメス、イッセイミヤケなど多くのブランド名は商標登録されています。ファッションビジネスに関わる方が、最初にかつ最も多く携わるのが商標権かもしれません。商標権は特許庁に出願して審査を通過しなければ発生しませんが、登録されると10年間存続し、以後更新することで半永久的に保護を受けることが可能です。無断で登録された商標を使用する者に対し、販売差止などを求めることができます。

有名になるとバッグのデザインも商標として保護を受けることができます。例えば、エルメスのバーキンなどは立体商標として登録されています。

登録第5438059号

色も商標の保護対象です。2015年にクリスチャン・ルブタンによるヒールのレッドソールについて日本でも商標登録出願されています。現在特許庁で審査中ですが、登録が認められるのか否か興味を引くところです。アメリカやEUでも裁判となった商標ですので、機会があれば詳しく紹介できればと思っています。

商願 2015-29921

デザインを保護するルール

意匠法、不正競争防止法、著作権法がデザインを保護します。

意匠法はプロダクトデザインを保護対象とします。商標権同様に特許庁に出願して、審査を経なければ意匠権は発生しません。特許庁の審査を受けることについては、時間も費用もかかるので面倒に思われるかもしれませんが、審査を通過した安定した権利というのは実際に使う場面になると便利なものです。権利を取得するまでに半年から1年かかってしまい、シーズンごとに変わるファッションアイテムの寿命と合わないことや、費用面からあまり使われていないとの話もありますが、ファッションアイテムのデザインの保護に関しては本命と言えるでしょう。

一方、不正競争防止法は権利を付与するのではなく、一定の不正な競争行為を規制します。その中では、一定期間のデザインのデッドコピーを禁止しており(商品形態模倣)、ファッション業界でもデザイン模倣対策によく使われています。例えば、Chamois事件における大阪地裁平成29年1月19日判決では、下記左右のデザインが実質的同一と判断され、不正競争防止法違反とされています(付した青線は判決で述べられた共通点、赤線は差異点でいずれも著者が付したもの)。

図1

次に、著作権法は文化的な創作を保護します。ファッションでいうとキャラクターや衣服やバッグの表面に付されたプリント、パターンなどが美術の著作物として保護を受けられる可能性があります。以下はいずれも海外の事例ですが、例えば、最近ではアーティストのスケッチをバッグの表面の模様として使ったとしてニュースとなったものもあります。


※出典:http://www.thefashionlaw.com/home/zara-has-co-opted-this-german-artists-work-for-two-new-bags

また、過去に赤をベースとするメダリオンプリントの著作権が侵害されたとして争いになった事例もあります。

※出典:http://www.thefashionlaw.com/home/zara-has-co-opted-this-german-artists-work-for-two-new-bags

ただし、原則として実用品の保護は著作権法では難しく、現状では衣服自体のデザインが著作権法により保護される可能性は低いと言えます。

最後に私の思いを一つ述べたいと思います。成熟した現代においてゼロベースで何かをデザインすることはほぼ不可能だと考えます。ましてやファッションには“着る”という実用目的もあるため、そのデザインは一定の制約を受けます。

一方で、ファッションにおいて”流行”は重要なものであり、流行は多くの人が類似するデザインを選択することにより発生する大きな流れとも言えます。一定の類似は許容しつつもそれ以上は認めない、言い換えればインスピレーションは許容されてもイミテーションは否定されること、単に保護を強くすればよいのではなく”適切な保護”が大事なのだと思います。クリエイターが適切な報酬を受けることができ、かつ新たな創造が生まれ続けるクリエイティビティの循環環境が(制度を含めて)うまく作られることをと願っています。

今回のコラム執筆者

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Fashion Law Institute Japan事務局長|金井 倫之さん

弁理士・ニューヨーク州弁護士。金沢工業大学大学院客員教授、青山学院大学客員教授。ドレスメーカー学院、文化服装学院でファッション・ローの講義を行う。

Fashion Law Institute Japan

知的財産研究教育財団に属する日本で最初のファッションローの研究を行う場。メンバーは国内外のファッションブランドにより構成され、研究員として弁護士等が参加。

 

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