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ニットの衣服を手がけるブランド「PIRKATANE」の田原菜美が語るニットの魅力【前編】

不思議と心地よい音の響きが耳に残るニットブランド「PIRKATANE(ピリカータネ)」。手に取った人が自由に着こなしを楽しめ、かつ日本の職人技術にこだわった製品をデザイナー自身のペースで届けるこのブランドは、知る人ぞ知る名品として人気となっています。PIRKATANEを生んだ田原菜美さんは、文化服装学院ニットデザイン科を卒業後に渡仏し、帰国してからPIRKATANEをひとりで立ち上げた気鋭のデザイナー。今回は前編、後編にわたり、田原さんにフォーカスします。

―― ファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。

「祖父が着物に手書きで家紋を入れる職人、紋章上繪師だったこともあり、衣服が身近だったことや手仕事をする風景を見て育ったことが影響していると思います。ファッションデザイナーという職業を意識したのは、幼稚園の頃に遊んだリカちゃん人形の塗り絵です。お姫さま然としたドレスの中にひとつだけ、その時に流行していた服をまとった姿があり、とても印象的でした。その時に服の存在を強く意識し、頭の中に将来の夢としてファッションデザイナーが浮かび上がりました。その後、中高一貫校に進学したのですが、高校生のお姉さんたちのお洒落を見て学ぶのが楽しく、自分で服を買う楽しさに目覚めたのも中学時代。毎週末のように出かけて、さまざまなショップに足を運んでいました。その時はまだ、作る側ではなく、着る、見る、という楽しみ方。海外のコレクションを知るために、毎週ファッション通信を食い入るように見ていました」

―― 着ることを楽しむ服好きから、作る方に意識が向いた理由は?

「着る楽しみに目覚めて以降、色々なテイストのスタイルを通過してきました。最初に挑戦したのはロリータで、服作りを始めたのもその頃。最初は学校の制服のカスタムから入りました。セーラーカラーにフリルをつけたり、ソックスをピンクに染めたり。この時に自分で作る楽しみを知り、その後、古着屋さんでアルバイトを始めました。その中で、同じ店で働くお姉さんたちに“将来ファッションの仕事をしたいなら、東京の文化服装学院に行くのがいいよ”と教えてもらい、進学先に決めました」

―― ニットデザイン科を卒業されてますが、その頃からニットへの興味が強かったのでしょうか。

「1年生の時には既製の布地で服を作ることを学ぶのですが、すでにデザインされている布で作ることに違和感があり、ニットならテキスタイルなど最初からすべて自分で作ることができるため、ニットに布にはない魅力を感じました。2年生でニットデザインに進んだのですが、気に入らなければ解いて編み直すこともでき、ロスが出ない素材だということにも気づきました。時代にはもちろん、自分の考え方にとても合っていると感じ、それ以来ニット一筋です」

―― 卒業後にフランスへ行った理由を聞かせてください。

「文化服装学院に通っている間は、それまで大好きだった服を着たり見ることより、作ることに夢中になっていました。この時に消費者から作り手へと意識が変化したように思います。卒業後は就職も考えましたが、企業デザイナーでは作った服が誰に届くのかまでを知ることができません。私は自分が作る服が届く先までを見たい、そう思った時に就職は違うと感じ、感性をもっと磨くべきだと留学を選びました。自分のファッションのルーツがフランスのファッション史だったこともあり留学先はフランスに決め、語学学校に通いながら感性を磨きました」

―― フランス留学で得たことは何でしょう?

「たくさんの刺激を受けましたが、逆に日本を意識するようになりました。日本を外側から見るという経験が、留学で得た最大の気づきです。海外だと自分が日本人であることを否が応でも意識させられるので、改めて日本人としての自分を振り返った時、日本についてあまり知らないことに気がつきました。そのため帰国後は、日本の伝統や文化を学びたいと京都に住むことに。美術館で仕事をしながら服作りをしていたのですが、学芸の方にギャラリーを紹介していただく機会があり、2011年の3月に初個展を開きました」

―― そこからデザイナーとして服を作るようになったのでしょうか。

「開催した個展に来場くださったバイヤーの方が作品を気に入ってくださり、仕事をいただくようになりました。同時期に京都のショップの方が、自身のための服を注文してくださり、コレクションブランドのニットラインを制作するように。同時進行で個人向けのセミオーダーも受けており、その後、2019年にブランドを立ち上げました。私を含め服作りに関わる人たちが無理なく取り組める生産体制を目指したいという思いがあったため、コレクションの回数や型数にはこだわらず、まずはひとりでのスタートでした」

―― PIRKATANEに込めた思いを聞かせてください。

「ニットの可能性をもっと知ってほしい、ということです。世の中の人が思うニットはウールのセーターだと思いますが、ニットは糸を湾曲させてループ状にし、横や縦方向に編んだ布地のことで、Tシャツもニットです。壮大な言い方にはなりますが、作品を通して世の中のニットの概念を変えていきたいというのが目標であり、もっと身近なテーマでいうなら、自由に自分らしく楽しめるニットを作りたいです」

さまざまな経験を経て立ち上げた「PIRKATANE」。ご自身の名前・菜美の由来である菜の花=アタネが美しい=ピリカというアイヌ語を組み合わせた造語であり、美しい=ピリカ、今=タネという意味も併せ持っています。ピリカータネのニットたちは、おろしたての新品でもくったりと風合いが出た頃でも、袖を通す今この瞬間、美しく肌を包んでくれます。続く後編では、田原さんのものづくりへの向き合い方や日本の職人技との融合について、今後の展開などについてお話を伺います。


『PIRKATANE』 田原 菜美

1984年生まれ。紋章上繪師の祖父のもと衣服を身近な存在として育つ。文化服装学院ニットデザイン科を卒業後に渡仏。ハンドメイドのフルオーダーニットブランドを手がけたのち、2019年にニットウェアブランドPIRKATANE(ピリカータネ)を立ち上げコレクションを発表。2012年より京都芸術デザイン専門学校講師を務めるほか、ワークショップ講師、映画衣装提供、他ジャンルアーティストとのコラボレーション等多岐に渡り活躍。

https://pirkatane.jp/


TEXT:横田愛子

PHOTO:長谷川勝久

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