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企画展 Vol.44『いけないのファッション展』

東京都目黒区にある「アクセサリーミュージアム」で、12月17日(土)まで開催中の企画展 Vol.44『いけないのファッション展』。本展は、環境問題や健康障害、価値観の変化などの理由から、現在では「いけない」とされるファッションアイテムに注目した展覧会で、動物の毛皮、毒を使用した素材、人型のアクセサリーなど、さまざまなアイテムの「いけない」部分が紹介されています。その当時は文化的でオシャレとされた“最新トレンド”が、なぜ「いけない」とされるようになったのか。普段とは少し違った側面から、ファッションを考えることのできる内容です。

動物性素材とファッションのこれから

まず取り上げられているのは『動物性素材』です。例えばリアルファー(動物の毛皮)。これは、紀元前1000年頃から存在する最も古い防寒着で、寒さから身を守る“生きるため”の必需品でした。それが14~15世紀の西欧では、貴重な素材であるがゆえ、毛皮を使用した衣類は権力や富の象徴となっていきます。そして経済や文化の発展を経て、上品で高級なイメージから憧れのファッションとなり、民間へと広がりました。日本ではバブル期にミンクの毛皮のコートがトレンドに。しかし近年では、動物愛護やエシカルな観点から世界中のブランドで「ファーフリー宣言」を出す動きが広まっており、800以上のブランドがそれを決断しています。リアルファーは時代の流れと共に、その価値観が大きく変化している素材のひとつです。

「リアルファーとフェイクファーのスタイリング展示」                                                                        手前からルイフェローのフェイクファーコート、ミンクのコート、ミノムシのバッグなど(スタイリスト:高橋紀子)

そして、リアルファーと並べて紹介されているのが、その代用品として注目されているフェイクファー(エコファー)です。材料がアクリルやポリエステルなどの生分解されにくい化学繊維である事から環境への影響が懸念されているのも事実で、多くのブランドがこの問題に積極的に取り組もうとしています。例えば「ステラ・マッカートニー」は2020年に植物由来原料を用いたサステナブルなバイオファーフリー素材を採用しました。対して「FENDI」は、肉を食べ、レザーを着ている以上、毛皮は有効活用すべきだという点と、フェイクファー(エコファー)と呼ばれる素材は環境に優しいとはいえないという理由からリアルファーを貫いています。

このように、賛否両論あるリアルファーとフェイクファー(エコファー)ですが、今回の企画展ではアイテムを無機質に並べるのではなく、スタイリストがコーディネートする形で展示されています。だからこそ、ファッションとして広く楽しまれていた時代に触れることができ、問題を身近に感じることで動物性素材とファッションのこれからについて想像することができるはず。他にも、アペルト・アルマジロ・カンパニー(テキサス州)で製作されたと考えられる「ココノオビアルマジロのバスケット」(写真:左)や、「ワニ革のハンドバッグとテンの襟巻」(写真:右)なども見ることが可能です。

左:アペルト・アルマジロ・カンパニー(テキサス州)で製作されたと考えられる                                                                          ココノオビアルマジロのバスケット20世紀前半(推定)                                        右:ワニ革のハンドバッグとテンの襟巻20世紀前半(推定) 共にアクセサリーミュージアム蔵

毒をテーマにしたファッションアイテム

続いて注目するのは『毒』。ファッションの歴史を振り返ると、人体に有害である事が証明されないまま、長期間使用されていたものが多く存在します。例えば18世紀から20世紀初頭にかけて発見され、製造・使用された合成無機顔料は、鉄や銅、鉛などの金属を化学反応させることで得られる酸化物や結合物から作られるもの。中にはヒ素が含まれているものも存在し、縫製士や繊維工場の多くの労働者が健康被害に苦しみました。ここではそんな素材が使われた、または使われていると言われているファッションアイテムが紹介されています。20世紀前半のイギリスで製作されたプリントハンカチーフ(写真:左)は、色使いが印象的ですが、現在では使用禁止の染料が使われていると言われています。そして手足のしびれや激しい痛みを引き起こし、最悪の場合死に至る危険もある鉛を使用した鉛白粉(写真:右)は、日本でも江戸時代頃から広く使用されていました。白粉を多用していた歌舞伎役者、中村福助(成駒屋四代目)が演技中に足の震えが止まらなくなった1887年の事件をきっかけに、無鉛の白粉の開発が行われるようになったそうです。

左:プリントハンカチーフ 20世紀前半 イギリス製 所蔵:ブルーミング中西株式会社                                                           右:鉛入り白粉 19世紀 日本 所蔵:アダチ ヨシオ

議論の絶えないファッションと人権問題

『人権問題』を取り上げるカテゴリーでは、19世紀末のイギリスでフローレンス・ケイト・アプトンが制作したキャラクター「ゴリウォーグ」の絵本(写真:上)や香水瓶(写真:左)、販売中止となったケイティ・ペリーが発売した自身のブランドのシューズ「Ora Face Block Heel Sandal」(写真:右)などが展示されています。「ゴリウォーグ」は当時、子どもから大人まで広く知られたキャラクターで、丁寧に製作された香水瓶を見れば、当時、いかに愛されていたかを垣間見ることができます。また、ケイティ・ペリーのフェイスサンダル(黒)は、9色展開されたうちの1色ですが、黒だけが批判を受け、謝罪と共に撤去しました。その際ケイティは「そういった意図は無く、苦痛を与えてしまった事を悲しく思っています」というコメントを発表しています。制作された当時はそれぞれに違った感情があったはずですが、様々な立場の人達がきもちよくアイテムを愛せる様、現在でも議論が行われています。

上:ゴリウォーグの絵本《二つのオランダ人形の冒険》(作:フローレンス・ケイト・アプトン)1985年再販 ほるぷ出版 個人蔵                                                                      左:ヴィニー《ゴリウォーグ》 20世紀初め 所蔵:アダチヨシオ                                                                                                                                                                                           右:Katy Perry 《Ora Face Block Heel Sandal》の黒色 アクセサリーミュージアム蔵

切りはなせない性とファッション

最後に紹介されているのは『性とファッション』。この題材は時代や場所で、快・不快の偏りが大きく分かれます。展示されている「anan」の創刊号(写真:上)は、ヒッピーブームやベトナム戦争の真っ只中に出版されました。戦争するより愛し合おう!という考えが若者たちに支持されたこともあり、「70年のニュー・ソウルタッチ!」という特集には「男性にさわられても嫌がらない」「触ることは愛情表現」というふうに書かれています。触ることは愛情表現でコミュニケーションという文化がその時代のファッションの一つとして掲示されたのです。そして20世紀初頭頃のものとされる帯留め(写真:下)の裏側には春画が描かれています。春画は武士が出陣の際、鎧を収納する箱に入れておくと必ず勝てると言う俗信から勝絵とも呼ばれる縁起物でした。江戸時代に文化として流行し、芸術作品でもある春画ですが、今は展示にも配慮が必要な時代になりました。かつてはオシャレとして愛されていたふたつのアイテムをどう受け入れるべきなのでしょうか。

左:anan創刊号 表紙 1970年3月20日号 アクセサリーミュージアム蔵 右:anan創刊号の特集ページ                                                  下:裏側に春画の描かれた帯留 20世紀前半(推定) 所蔵:羊亭社

他にも戦争や著作権問題などファッション関連の様々な「いけない」が展示されています。時代、場所、環境などの世相と密接な関係にあるファッションだからこそ、時代の流れとともに「いけない」に分類されるようになったファッションアイテム。魅力的なデザインに触れつつ、本当にいけないのか、なぜいけないのか。そんなことを考える機会となる貴重な企画展へ、ぜひ足を運んでください。


【INFORMATION】

企画展 Vol.44『いけないのファッション展』

会場:アクセサリーミュージアム

会期:2022年9月1日(木)~12月17日(土) ※休館日:月曜日、第4・5日曜日

時間:10:00~17:00 ※最終入館16:30

公式サイト:https://acce-museum.main.jp/exhibition/

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