フリンジと聞くと、「スターの衣装」「カウボーイ」という言葉を連想される人が多いかもしれません。しかし、ファッションの分野におけるフリンジの役割は、そのイメージだけにとどまらず、最新のモードとみごとに調和。ウェアやバッグなどに動きを持たせ、エレガントな着こなしを演出します。
【目次】
・フリンジとは?
・フリンジとタッセルの違い
・お守りとしての歴史
・70年代に大流行
・控えめに取り入れてエレガンスさをプラス
フリンジとは?
垂らした糸や紐による房飾りを意味するフリンジは、織物の端などを装飾する糸処理の技術で、マフラーやシャツ、バッグなど、数多くのファッションアイテムに用いられています。語源は、ラテン語で周辺を意味する「フィムブリア」。紀元前3000〜300年頃の古代オリエント時代には、すでにフリンジの装飾が存在しており、当時は房の多さが身分の高さを象徴していたと言われています。ちなみに、ヘアカットの世界では、前髪を少し額が透けて見えるぐらいで束にする髪型をフリンジと呼んでいます。
フリンジとタッセルの違い
フリンジとよく似た装飾にタッセルがあります。垂らした糸をひとまとめにしている点ではフリンジと共通していますが、フリンジが横並びで紐をまとめ、服やマフラーを部分的に飾る技法であるのに対し、タッセルは、筆のような束ね方をして、それ自体が一つのアクセサリーになるのが決定的な違い。フリンジ同様、その歴史は深く、旧約聖書の民数記にはタッセルには関する記述が見られます。
アクセサリーとしてのタッセルは、イヤリングとしての用途がよく知られていますが、大学の博士帽の中心から垂れている装飾やローファー靴のワンポイントなどにもタッセルが使われています。フランスではフリンジとひとまとめにしてパスマントリーと呼ばれ、16世紀頃から宮殿の装飾に使用。かのマリー・アントワネットも「タッセルはケーキと同じくらい重要」という言葉を残したと言われています。
お守りとしての歴史
長い歴史を持つフリンジは、世界中の国々に分布。さまざまな文化に吸収されるなかで、邪気を払うためのお守りとしても重宝されるようになりました。祈祷や呪術の道具としての使用も盛んで、エジプトやメソポタミア、アラブ諸国などでは子どもの帽子などにタッセルを付けることで悪魔から身を守っていたと伝えられています。
カーテンなどを束ねる紐やドアノブなどの装飾でもフリンジやタッセルが用いられることがありますが、これらは、風水の見地から厄除けや運気の上昇をもたらすアイテムであるといわれています。
70年代に大流行
ファッションの分野でフリンジの認知が広まったのは、1970年代。ヒッピー文化のなかで、ネイティブアメリカンのフリンジジャケットが、ベルボトムや民族衣装とともに自由を求める若者たちの文化に取り入れられました。アメリカン・ニューシネマの名作として知られる「真夜中のカーボーイ」「イージーライダー」の劇中で、ジョンヴォイトやデニス・ホッパーがレザーのフリンジジャケットを着用したのも、印象を強めた一端ではないかと考えられます。
エンターテインメントの世界では、晩年のエルヴィス・プレスリーが衣装として純白のフリンジジャケットを着用していたことから、スターの象徴というイメージが定着。現在でも歌手や俳優の衣装に華やかさを加えるアクセントとしてフリンジが用いられることが多々あります。
控えめに取り入れてエレガンスさをプラス
2022年は民族系の躍動感に都会的な要素をミックスしたエスノシックがハイファッションのトレンドと言われており、多くのトップブランドが、フリンジを用いたコレクションを発表しています。
主張の強いフリンジは、ともすれば存在感が前に出すぎてしまう可能性もありますが、ワンポイントとして取り入れることで、最新ファッションとも調和し、流行的な着こなしにも対応。クロエはリネンドレスやマキシドレスにフリンジを採用し、アクセントとしてレインボーカラーを排することで、シンプルとエレガントが両立したデザインを確立。ステラ マッカートニは、ボディスーツやニットなどでさりげなく、かつ目立つようにフリンジを配置することで、アバンギャルドな個性を提示しています。ほかにもアルベルタ・フェレッティやプロエンザスクーラー、バルマンなどがフリンジの新解釈を打ち出しており、ボーホー、エスニックとアーバンの融合は、今後も熱いトレンドを生み出していきそうです。
TEXT:伊東孝晃