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スラッシュキルト作家・児玉 晃野(NAKED QUILT)が発信する「クリエイターとして食べていくということ」

温かみのあるノスタルジックなイメージのスラッシュキルト※1を、カラフルでポップな唯一無二のアート作品として制作されている児玉晃野さん。作品の魅力はもちろんのこと、多くのファンを惹きつけてやまないのが、クリエイターが文章や画像などを自由に投稿できるメディアプラットホーム『note』に綴られる凄まじい熱量の言葉たち。クリエイターとしての葛藤や苦悩、そしてそれを凌駕する情熱を綴る言葉の力に圧倒されます。児玉さんのモノづくりの根冠にあるのは「悔しさ」。人よりできないことが多かったからこそ、自分にしかできないことと真摯に向き合う児玉さんに、クリエイターとしての生き方についてお話を伺いました。


きっかけは「口からでまかせ」?

――児玉さんは中学校を卒業してすぐに服飾系の道に進まれたそうですね。

中高一貫の学校に通っていたんですが校風に馴染めず、中学校の時点で高校もまた同じ学校に通うのは辛いなと感じていました。不良というわけではないのですがとにかく学校が嫌で、成績も悪く無断欠席ばかりしていたので、学校側も「エスカレーター式とはいえこのままだと高校進学は難しい」と。両親と担任の先生と学年主任と…色々な人が集まって七者面談になりました(笑)。私が「心を入れ替えて頑張ります!」と言えば進学させてもらえる雰囲気でしたが「心にもないことを言ってしまったら、本当に高校に行くことになってしまう!」と思い、「服飾系の勉強をしたいので高校には行きません」と口からでまかせを…(笑)。高校卒業資格を取得できる服飾系専門学校の付属高校に進学し、高校卒業後は一芸入試でファッションデザインコースのある大学に入学しました。

――ファッションの仕事を生涯の仕事として選んだきっかけは?

大学で技術というよりも『ファッション技法を使った表現方法』を学べたことが大きかったですね。あと徹夜が得意だったのでクラスの中で私だけが課題に間に合うことが多くて(笑)、自分はこれが得意なんだと気付き、より楽しいと感じるようになったのかもしれません。その頃からぼんやりと将来は衣装制作の仕事がしたいと思うようになり、大学卒業後に衣装制作会社に就職しました。でも徹夜は日常茶飯事のブラックな労働環境で、身も心も疲れ果てしまって…。人への優しさはゼロ。皆頑張って働いているのにこっそりトイレで寝ることも(笑)。ある時、同僚たちも精神的にも体力的にも限界がきてしまい退社ラッシュが起こり、「残されたらやばい!」と28歳で退社しました。

自分の作品に対する自信と覚悟

――スラッシュキルト作家になられたのはその頃ですか?

元々は縫製の仕事を個人で請け負って、生計を立てられたらいいなあなんて甘い考えでいたんです。でも実際にやってみるとモチベーションが上がらず、もちろん収入も上がらず…「この人生ヤバイな」と焦りました。お金を十分に稼ぐことができないなら、稼げないなりに好きなことを生涯をかけてやってみようと思ったのがきっかけでした。私は子どもの頃から勉強も運動もできなくて、注意力散漫でミスも多いタイプ。皆と同じことをやっても成果が出ないという経験が染みついていたので、誰もやっていないことをしようと思いました。スラッシュキルト自体は技法なので珍しいものではないのですが、専門的に取り扱っている作家がほとんどいないようだったのでスラッシュキルトでいこう!と。

――クリエイターとしての原動力はやはり「周囲よりもできないことが多かった」という悔しさなのでしょうか。

そうだと思います。もしも学生時代や会社員時代に活躍して皆に感謝されたり人の役に立てたりしていたら、フリーランスという選択はしなかったかもしれません。スラッシュキルトは布を洗濯して起毛させるという工程があり、どんな仕上がりになるかが最後までわからないので、とにかく飽きっぽい自分にぴったりでした。さらに絵柄を上手に表現するにはどういう風に手を加えたら良いのかなど、模索していくうちにその奥深さに夢中になっていきましたね。

――以前noteに書かれていた「自分で自分の作品を謙遜してしまったら厭味になってしまうくらい私の作品は可愛い」という言葉が印象的です。

好きなものだから、好きなことをやっているからこそ「なんかちょっと可愛くないな」って違和感には敏感ですね。例えば誰かに言われたことを腹落ちしないまま作ってしまうと、きっと可愛くないものができてしまう。でも判断基準が100%自分だったら絶対可愛いものができると思うんです。ちょっと無茶苦茶な理論かもしれませんが、受け入れて着いて来てくださるお客様がいるので、今は自分を信じてやっています。私自身はしょうもない人間なんですけど(笑)、絶対に良い作品を作っているという自信と覚悟があるので。私の作品を好きでいてくださる方にはきっと、私の言葉は届いていると思っています。

自分のブランドを好きでいるために

――前回の個展で商品ではなくアート作品として作られていた、天井まで届くくらいの大きなぬいぐるみからも「クリエイターとしての覚悟」が伝わってきました。

住居とは別にアトリエを構えたりスタッフを雇ったり、今の私にとってお金というのはすごく大切なものですが、収入にならなくても自分のテンションが上がることを大切にしたいと思っています。自分のモチベーションやテンションの低下が結果的に一番の経済的な危機に繋がるんじゃないかなって。私自身が『NAKED QUILT』を愛せなくなったら、多分制作も手につかなくなる。ブランドを続けていくためにも、自分自身が自分のブランドを好きでいられるように一本の筋を通していきたいんです。ありがたいことに支えて下さるお客様がいるので、やろうと思えば貧乏をせずに平穏に暮らすこともできるんですが、どんどん新しいことに挑戦してブランドを大きくしていきたいですね。上を目指す以上は悔しい想いもするだろうし、経済的に圧迫されることもあると思います。場所によっては「売れていてすごいね」なんて言って頂くこともあるんですが、そのままそこにいたら満足しちゃうじゃないですか。だから上を目指すことで自分に負荷をかけ続けています。

――最近は制作の一部を委託することでの分業もスタートされましたね。

一点物を扱う作家の中では「100%自分で作らないと自分の作品じゃない」という考えを持つ人も多くいらっしゃいます。私もぬいぐるみの顔みたいに作品の肝となる部分は必ず自分で作りますが、誰がやっても変わらない作業ってあるんですよ。美学を貫くのと、生涯生まれる作品数が減るということを天秤にかけた時に、どこかで人の手を借りて時間を増やさないと自分の夢に対して回り道になってしまう。もちろん作家は必ず一人の時間が必要だと思うんです。一人で制作に没頭して、世界からきり離されたような感覚になって…そういう不安定な時こそふつふつと制作意欲が湧いてきたりするんですよね。でも、本当に落ち込んだ時に一緒に頑張ってくれる仲間がいることに今はすごく支えられています。そういう意味でも分業をしたことは良かったですね。

――今後の展望は?

ハンドメイド作家からスタートしましたが、アート作家にもなりたいので、これからも大きい作品は継続的に出していきたいです。でもアートの世界では評論家などの有識者の方に見つけてもらわないと中々作家としての価値を付けるのが難しいらしくて…。私はハンドメイド作家からスタートしているので、アート作家としてスタートした人よりも人を集めることができます。著名な人に評価されなくても、アート作品の発表の場が『NAKED QUILT』という独立国家だとしても、集客できるようになりたいんです。それが実現できる新しい手法を見つけるために模索しています。

※1 【スラッシュキルト】 ――数枚の生地を重ねて斜めに縫い目を入れ、一番下の生地だけ残してカットし、洗いをかけることで切り口を起毛させる技法のこと。


児玉 晃野 こだま・あきの

スラッシュキルト作家。

高校で縫製の基礎を学び、大学ではファッションデザインコースに進学。

卒業後は衣装制作会社に就職。退職後ブランド「NAKED QUILT」を立ち上げ。

鮮やかでポップな1点ものの作品で多くのファンを魅了。

メディアプラットホーム『note』ではクリエイターや独立志望の人に向けて自身の経験や想いを発信している。

https://www.instagram.com/naked_quilt/

https://note.com/naked_quilt


TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)

PHOTO:須藤しぐま

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