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デザイナー杉本知春(Thirdman products)が手掛ける 「明日をもっと良くするファッションテック」

ファッション、プロダクト、インダストリアルにグラフィックと、この世にデザインを必要とするジャンルは多岐に渡ります。それらを踏まえた上でのファッションデザインと聞けば一体どんな服を思い浮かべますか?今回お話を伺ったのは、“機能的な遊び服”をコンセプトに自身のブランド「Thirdman Products」を展開する杉本知春さん。自身のブランドのほか大手スポーツメーカーのデザイナーの顔も持ち、北京で開催された冬季五輪のウエアデザインを手掛けるなど多岐に渡って活躍されています。杉本さんは高校時代にグラフィックデザインを学んだのちに文化服装学院へと進み、そこで服作りの楽しさに開眼。それ以降独創的なアイデアと斬新な切り口でオンリーワンな服作りを続けると同時に、植物を育てることで地雷除去運動をサポートする栽培キットを作成するなどジャンルレスな活動を続けています。


機能性にこだわる理由は消費者の目線

―― Thirdman Productsは機能性がテーマのひとつですが、機能を重視する理由とはなんでしょう。

僕は新卒でスポーツメーカーに入社して2年間勤め、現在もお世話になっているのですが、スポーツウエアというのは機能性ありきの服。そこで培った経験を生かせるのはもちろん、実際に袖を通した時に動きやすさや快適性って日常で着るうえでとても大切な要素だと思うんです。また、もともとグラフィックデザインを中心に幅広いデザインを学んでいたので、多くの人にとって使いやすく日常性があるモノ作りというのが自身のデザイン観の根底にあります。そこで消費者に寄り添いながら自分の好みも投影し、かつおしゃれなものができないだろうか、という視点で服をデザインするのですが、機能的であることは外せない要素。デザインと機能両方のベストなバランスを取りつつ、人に寄り添うリアルクローズを目指した結果、今の形となりました。

――スポーツメーカー経験後にレーベルを立ち上げておられますが、企業デザイナーと個人のレーベルでのデザインの違いはなんでしょう。

やはり制約の有無が違いますね。例えば五輪のウエアデザインだと、まずは競技ごとのユニフォーム規定や特性ありき。そこに日本国旗モチーフを取り入れるなど、ナショナリズムや機能性をプラスする必要があります。五輪以外の通常のウエアでも購買層が広いので万人受けするデザインが求められますよね。一方で個人レーベルだと、自分の作りたいものを追求できるので売れる売れないは別として制約はありません。個人の方が自由度は高いですが、それをブランドとして確立し購買に繋げるまでは非常に大変です。僕はスポーツメーカー退社後に東京へ行き、そこでアウトドアやコレクションブランドで働いたのですが実力が追いつかず、結局3年目に大阪に帰ってきました。この東京時代は苦い思い出の方が多いけれど、様々なブランドでの学びや経験がなければ“本当に自分の作りたいものや方向性”が見えてこなかったのではないかとも思っているんです。

SNSで話題を攫った機能派素材とのコラボ

――カーライトやフラッシュに反射するリフレクターを作るメーカー、LIGHT FORCE®️さんとコラボレーションしたアイテムがSNSを中心に大きな反響を呼びましたが、コラボをしようと思ったきっかけはなんでしょう。

LIGHT FORCE®️は多くのスポーツメーカーが取り入れているリフレクター(反射材)メーカーさんなので以前から知っていました。光を受けるとオーロラ色に反射するのが特徴で、僕自身以前から非常に気に入っていた素材です。ただマスをターゲットにしている大手でこの素材を全面に使うのは派手すぎる点で難しいとも感じていて、それなら自身のブランドでコラボしようと。マウンテンパーカーやハット、Tシャツなどを展開したのですが、LIGHT FORCE®️のスタッフさんがこのマウンテンパーカーを着て雪かきをしている写真がSNSに投稿され、それが話題になりました。当初はそんなに反響があると思わなかったのですが一気に受注が増え、急遽クラファンを立ち上げ受注生産という形に。デイリーウエアであるマウンテンパーカーに暗闇で光るという安全性、いわゆる機能性を持たせたこの商品が支持されたことで、自分のやっている方向性は間違っていなかったと確信しました。

LIGHT FORCE®とのコラボ「デニムシリーズ」、植物栽培キット「PLANTS MINE 」

――同様にLIGHT FORCE®️さんとのコラボでデニムシリーズも発売されましたが、こちらはどういう思いで作ったのですか?

デニムシリーズは反射材をデニム生地に織り込んだ素材を使用しているのですが、そもそも光を受けて発光するデニムっておもしろいんじゃないかなと。これは特殊素材の魅力を生かしつつ、デザインはあえてスタンダードを意識しました。ただ、日本人のバランスに合わせたカッティングやサイジングを重視し、例えばジャケットなら脇部分、パンツなら又部分に切替を入れて立体的にし、着用時の動きやすさを追求しています。今ってファッションが均一化している時代なので、そこで勝負するにはやっぱり機能が必要だと感じるんです。うちの服は特別なシーンで着るものではなくあくまで日常着。そこに遊び心や機能性を持たせることで唯一無二の存在感を出せればと思っています。

――銭湯に行くための“銭湯服”というシリーズも出されていますが、こちらは上記のコラボウエアとは少しベクトルが異なりますね。

僕自身が銭湯好きで銭湯通いに着たい服っていうのが発想の根っこなんですが(笑)、銭湯は日本の大衆文化のひとつでもありますよね。刺青を入れているおじさんが隣で体を洗っているとか、そういう日本の銭湯ならではのバイブスも入れたかった。なので人気タトゥーアーティストであるKEE氏にアートワークをお願いし、背面には湯上りを快適にする通気性に優れた生地「Dot Air™(ドットエア™)」を採用。こういう服作りができるのは個人レーベルの強みですね。

目指すは“プロダクトコミュニティーレーベル”

――服以外にも、植物栽培キットの売り上げをJIMAS(認定特定非営利活動法人日本地雷除去を支援する会)に寄付する「PLANTS MINE PROJECT」もされていますね。

東京の植物店との出会いがきっかけで、一緒に何か社会貢献をしたいなと考えたのがこのプロジェクトです。PLANTS MINEは古紙100%で自然に還る地雷型容器に入った植物栽培キットですが、植物も地雷も土に埋められているのは同じ。なのに一方は命を奪うものだから、逆に命や心を育むものを作れたらと考案しました。僕自身はこれをファッションとは全く別物のデザインとは思っていなくて、いずれは服にこだわらずデザインが必要な様々なモノにデザインを施したいと構想しているんです。勝手にプロダクトコミュニティーレーベルと名付けているのですが、プロダクト、つまりモノを通してあらゆるモノづくりのハブ的役割になるのが目標。まだ試行錯誤の段階ではあるけれど、トライ&エラーをしながらより良い方向へThirdman Productsを導けたらとチャレンジングの真っ最中なんです。

3月9日からJUMBLE TOKYOで幅広いアイテムを展開する新業態をローンチするなど、ますます活動の場を拡大する杉本さん。今後も「消費者に寄り添うデザインが自分の軸」と語る言葉そのままに、ファッションという枠を悠々と超えたジャンルレスな活躍を期待しています。


杉本知春 すぎもと・ちはる

Thirdman Productsデザイナー、スポーツメーカー契約デザイナー。

文化服装学院を卒業後、スポーツメーカーを経て独立。在学中にTokyo新人デザイナーファッション大賞で大賞を受賞。

https://thirdman.official.ec /

https://www.instagram.com/chiharu.64/


TEXT:横田愛子

PHOTO:大久保啓二

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