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シルクスクリーン/服飾作家・池之上裕之に聞く 既製品の魅力を倍増させるクリエイティブの極意とサステナブル

「サステナブル」という言葉がアパレル業界でも頻繁に聞かれるようになってきましたが、まだまだ日常的にサステナブルファッションを取り入れているという人は少ないのも事実。新素材に注目することも大切ですが、既にあるものを長く愛するというのもサステナブルなアクションの一つです。そこで今回は、ミリタリーやLEVI’S 501等の古着、大量生産から生まれる”SURPLUS (余剰)”を素材として、オリジナルのステンシル※1などで新たな命を吹き込むシルクスクリーン※2/服飾作家の池之上裕之さんにお話を伺いました。


お金はないけど格好良い服が着たかった

――ファッションを好きになったきっかけは?

中学生の頃にLEVI’S 501に出会ったことでファッションが好きになりました。高校生になって「周りの子よりオシャレになりたい!」という欲が出てきたんです。ただ、やっぱりお金がなかったんですよね。でもお金がないなりに工夫して格好良くなりたかった。当時、UNDERCOVERやMAISON MIHARA YASUHIROが好きだったんですけど、そんな服を自分がどうしたら着られるんだろうって考えたら、作る以外に選択肢がありませんでした(笑)。最初はミシンを使って、アイテムを組み合わせたり組み替えたりしながら自分の中にある「格好良い服」をリメイクで作り始めました。母親が手芸をしているのを隣で見ていたので、ミシンを使うことに対しても難しいイメージがあまりなかったのかもしれません。

――池之上さんのもの作りは“自分が着たい服を着るため”がスタートだったんですね。

高校生の時、リメイクした服をフリーマーケットに出したことがきっかけで古着屋さんに自分の作った服を置いてもらえることになったんです。そこで自信がついたこともあり、もっとしっかり服について学ぼうと服飾系の専門学校に進みました。「デザイナーになるにはまずパターンができないと!」ということで、パターンについて沢山学び、卒業後はパタンナーとして東京のアパレル企業に就職。でも東京や組織に馴染めなくてすぐに辞めちゃったんですよね。僕にとっての挫折経験でした。

――退職後に孔版印刷の一種であるシルクスクリーン※2と出会われたんでしょうか。

退職後、別の仕事をしながら絵を描き始めた頃にシルクスクリーンに出会いました。アンディ・ウォーホルが大好きだったこともあって、ポップアートの文化を受け継ぐUNDERCOVERが好きでした。デザイナーの高橋盾さんが当時シルクスクリーンをやっているのを見て、自分もやってみたいなと思ったのがきっかけです。最初は東急ハンズに行って店頭で流れてる制作動画を参考にしたり、とにかく独学で頑張りましたね。そこから自分なりのやり方を見出して今のスタイルを確立しました。あまりに独学なのでちゃんとシルクスクリーンを学ばれた方からは「そんなやり方できるん!?すごいな!」って言われることも…(笑)。

「作りたい」「表現したい」という衝動に突き動かされて

――仕事を辞めることへの不安はありましたか?

もちろん安定した企業で堅実に働けたら良かったんでしょうけど、僕にはそれができなかったので…もう作りたいものをとにかく作っていくしかないな、と。辞める時にはちょっと心のバランスも崩してしまっていました。でもそういう時の方が良いものが作れるんですよね。僕は当時の方が絵が上手なくらいです(笑)。

――どん底からブランド立ち上げまで、どのようにご自身を奮い立たせたのでしょうか。

それはもう「作りたい」「表現したい」という衝動です。とにかくね、楽しいんです。これってシンプルだけど一番大切だと思うんですよね。それを続けていった結果、自分が仕事にしていきたいのはこれだという確信に繋がったのかもしれません。企業に就職して組織に属したことで、自分の個性というものに対して考えることができたのは良い経験でした。結果として辞めてしまったけど、全て意味のあることだったなと思います。

楽しみながら続けられる本当の意味で持続可能な活動

――ミリタリーやLEVI’S 501等の古着、大量生産から生まれる”SURPLUS (余剰)”シリーズが人気です。サステナブルを意識されて取り組まれているのでしょうか。

意識したわけではなく、シンプルに見えるもので、格好良いものを追求した結果ミリタリーとデニムに辿り着きました。僕は作り始める時に、大体の構想が頭にあったとしても一旦素材となる服を机に広げるようにしているんです。一個一個向き合いながらその服が一番輝く魅せ方を探すために。何物にも捕らわれることなく、自分が一番格好良いと思うものを作りたいんですよ。ただ、着なくなった服をアップサイクルとして新しいものに変えるという意味では意義のある、やりがいのあることだと思っています。それが結果的にサステナブルな取り組みとして受け取ってもらえて、手に取ってもらえるのはすごく嬉しい。これは僕が楽しみながら続けられる本当の意味で持続可能な活動なのかもしれません。

――ポップアップなどで行われているライブペイントを拝見していると、池之上さんの作品と向き合う真剣な姿勢を感じます。

服を作る人の売り方として、作って、展示会をやって、セレクトショップのバイヤーさんに見てもらって…というある種のセオリーがあるんですけど、もうそういうのは取っ払っても良いんじゃないかなと思っています。ポップアップをすることで自分の手で直接お客様に届けられる。これほど素敵なことってないな、と。大量に作るのもいいけど、1つ1つ気持ちを込めて作ったものを、一人ひとりに届ける。このためにものづくりをしていると言っても過言じゃない。だからこそ、ポップアップという形がベストだと思っています。

――今後何か新たにチャレンジされたいことは?

在庫というのはどんなブランドでも必ず抱えているものなので、古着だけでなく、そういったところにも注目していきたいですね。ハイブランドとストリートってすごく相性が良いと思うので。ただ在庫を生かす、というだけでなく+αの価値を与えて格好良いものを作り出せるという確信がありますし、わくわくします。

TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)

PHOTO:大久保啓二


池之上裕之 いけのうえ・ひろゆき

高校生の頃からリメイクを始め、フリーマーケットや大阪・アメリカ村の古着屋などでアイテムを販売。

高校卒業後、服飾系の専門学校に進学。パターンを学んだ後にパタンナーとしてアパレル企業に就職。

現在は退職し、シルクスクリーン/服飾作家として活動中。

ミリタリーやLEVI’S 501等の古着、大量生産から生まれる”SURPLUS “を素材として

ステンシル等のグラフィティ要素を加えることで新たな命を吹き込む。

https://ameblo.jp/ninaweb/

https://www.instagram.com/ikenouehiroyuki/

画像提供:池之上裕之

※1 【ステンシル】 ―― 版画や染織、工業用簡易印刷などに用いられる孔版画の技法の一種。図柄や文字を切り抜いた型紙の穴から絵具やインクを紙や布、金属板に刷り出す技法のこと。

※2 【シルクスクリーン】 ―― 網の目のスクリーンを貼った四角い枠にデザイン画に応じた孔を開け、インクを落とすことで色を乗せる孔版印刷の一種。

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