ファッションワールド東京2015秋の開催期間中、H&Mジャパン社長、クリスティン・エドマンさんによる特別講演が行なわれました。
講演内容である「H&Mに学ぶ、ファッション業界における女性の社会進出」について、同社の事例や自らの経験をもとに、女性がリーダーとして活躍できる社会をつくるために必要なメンタリティについて説いてくれました。
今回の後半では、企業が女性のリーダーシップをどうサポートすべきかにフォーカスした内容をお届けします。また、講演の終わりには質問形式でエドマンさん自身が日頃実践しているワークライフバランスを整えるコツを教えてくれました。
働く女性がぜひ取り入れたいアイデアは必見です!
女性リーダーを生む環境を整えることが重要
前編でお話いただいた通説を打ち破るための解決策として、H&Mが企業としての女性社員に対する考え方を例に挙げ解説してくれました。
「H&Mではキャリアを長期的な視点で見ることによって、女性のリーダーとなることをサポートしています。
ひとつ私の経験談を話させていただきますと、私は二児の息子のノアを妊娠した時にはすでにH&Mジャパンの代表として働いていました。
日本に上陸して3年で、まだまだやることが山ほどありました。妊娠して席を離れることが不安だったのですが、勇気を持ってグローバルのCEOに話したところ彼のリアクションにすごく驚きました。
『おめでとう、どれくらい産休を取りたい?1年? 1年半?』。 本当に驚きました。私は半年ですぐに戻りますと伝えたところ、『クリスティン、こんなすてきなチャンス与えてくれてありがとう。君が産休に入ることによって、これからカントリーマネージャーを目指す人たちをテストする期間にすることができるから本当にありがとう』。
そういって、私の家族の状況を一番に考えてくれ,1年半もの産休をオファーしてくれました。
スウェーデンでは産休、育休を取ることが企業にとって、個人にとって成長できるチャンスになるのです。」
後輩を育成し、自分のステップアップにもつなげるネクストミー制度
H&Mには、産休、育休に入る女性社員を支え、さらに若手の育成のチャンスともなる「ネクストミー」という制度があります。
この画期的な制度は、個人の能力を高めるためだけでなく、会社全体の成長にもつながるはずです。
「マネージャー職の社員全員に求められる重要な責任のひとつが、『ネクストミー制度』です。
それは会社の中で自分のポジションを任せるポテンシャルがある人を見つけるということです。この制度によって、マネージャーの立場が逆転したり、仕事を失うなどという恐れは一切ありません。これはマネージャーたちが次のステップアップのために、今の自分のポジションを担う人を育てる制度です。
この流動的に常に変わる後輩の成長を育成することで、グローバル企業として、スピードのある成長を続けるために不可欠です。また、ポテンシャルのある社員にとっては素晴らしい機会だと思います。」
最後にエドマンさんは日本企業にエールを送ってくれました。
「日本がさらに多くの女性が管理職に就くには、お話しした2つのマインドセットのチェンジが必要です。
あなた自身が女性のリーダーになれると、ワーキングマザーで管理職になれるということを信じて現実化させるために行動を起こせば“You can” が成立します。
そして“We must”のメンタリティは企業としての個々の女性たちの働き方を考えることです。
女性のマネージャーへの間違った概念を捨て、彼女たちのポテンシャルやパワーを気付くこと、そして彼女たちをサポートする体制を整えること。これらのマインドセットが未来を変えると思いますし、日本でのマインドセットをこれからも応援していきたいです。」
そして、講演の最後には、司会者から、エドマンさんへのミニインタビューが行なわれました。エドマンさんが実践するリアルなアイデアはぜひ働く女性に取り入れてほしいもの。
司会:エドマンさんご自身はどうワークライフバランスを実践していますか。
エドマンさん(以下、敬称略):仕事もプライベートもカギはプランニングです。
月に一度家族会議(主に夫と)をしますが、すごく大きなカレンダーに仕事の大きなイベントや子どもの学校の行事などを書き込みます。半年先の予定まで書き入れ、この週は必ず休みを取らなければいけない、この日はピアノの発表会がある、などと事前に予定を把握することでうまくバランスが取ることができます。
司会:旦那さんとどのように育児の分担をしていますか?
エドマン:彼はスウェーデン人なので家庭のさまざまなことを平等に割り振るというメンタリティです。
ただ、今は平等というより彼の負担が大きいかと思います(笑)。私はお弁当とお風呂、彼は料理や洗濯、それに子どものサッカーの試合の付き添いなど学校関連のこともやってくれています。
司会:お子さんはどんな手伝いをしてくれますか?
エドマン:まだ彼らは小さいので、そこまでは任せていませんが(笑)、
ただ彼らに理解してもらいたいのは、なぜお母さん(私)が仕事をしているかということ。
小さい頃は出張や長いミーティングがあると泣いて電話をしてきたけれど、もう彼らも慣れてきて、私がバランスを取りながら、きちんと一緒に過ごす時間さえおさえておけば、今の状況を理解して、応援してくれます。今日ここに来ることにも「ママ頑張って」と手紙を書いてくれたので、とても心強いです。
司会:会場に来ているワーキングマザーを含む女性たちにアドバイスをお願いします。
エドマン:一番頭に入れておいてほしいのは効率良い働き方をするということですね。
100%ワーキングマザーとして仕事をすることは無理だと思います。
80%の力で効率よく仕事をこなすということ。80%の仕事で満足するということ。それはすごく難しいことです。
100%ママとして、100%主婦として、100%ワーキングマザーとして働きたい気持ちはよくわかりますが、それは不可能。80%のなかで効率よく働かなければなりません。
その方法とは、仕事のOverviewをとって、山ほどあるやることの中からひとつかふたつ重要なことに絞ってフォーカスする。そのフォーカスしたことでベストの結果を出すこと。
What will make the biggest difference? 何が一番大きいか変化を生み出せるか、絞りなさい。ほかは諦めなさい。そういって社員たちにも効率良い働き方を勧めています。
司会:効率良く働くためのコツとは?
エドマン:よく社員に言っているのは、Keep it simple. あなたが伝えたいことを3分で言ってください。何をしたいのか、なぜこれを達成したいのかを明確にすることです。
『Why are you doing this?』『 What will make a difference?』というメンタリティで、何がしたいの?これがどういう影響力を持つの?ということを追求していくと、答えはシンプルになってくると思います。
司会:Overviewというキーワードがよく出てきますが。
そうですね、Keep it simple につながるかと思うのですが、やることの優先順位をつけるためには、小さい視野でなく、大きな視野で選ぶかという考えです。選択したものが本当に正しいかどうかOverviewがないと見えてきません。
全体をみてなぜこれをしているのかというのを確認して、それに対してのアクションプランを練る。一度一歩引いて全体を見ることが大切だと思います。
司会:さまざまな実践的アドバイスをありがとうございました。
会場には、次世代のリーダーを担う女性たちが多く詰めかけたのはもちろん、管理職系の男性もたくさん見受けられました。女性のリーダーシップをサポートする環境を整えるべく、女性自身が、そして企業がエドマンさんの力強いメッセージをどう受け止め、マインドセットを変えて行くのか今後の流れに注目していきましょう。
(Text : Etsuko Soeda)