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世界に挑み ラグジュアリーブランドを目指す 日本のファミリービジネス 「コロナ禍だからこそ、長く使える価値ある製品、文化を創るブランドを目指せ!」

去る1月28日、早稲田大学ラグジュアリーブランディング研究所主担当の「早稲田大学総合研究機構第16回研究成果報告会」がオンラインで開催され、新型コロナウイルスの影響で停滞する小売業界の現状を鑑み、コロナ禍の今こそ職人の技や文化に裏打ちされた価値ある本物が求められているとの視点から、講演とパネルディスカッションが行われました。

早稲田大学ラグジュアリーブランディング研究所の所長を務める長沢伸也教授による基調講演に続き、リシャールミルジャパン株式会社、GIA Tokyo、アルルナータ、株式会社玉川堂、勝沼醸造株式会社の代表者によるパネルディスカッションへと続く今回のシンポジウム。日本のブランドが世界のラグジュアリーブランドとなり得るにために欠かせない要素を紐解いていきます。

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本物が求められる時代に、日本製品が世界を魅了するために

第一部では長沢教授による基調講演が行われ、コロナ禍だからこそ暮らしと製品、ブランドが見直されている現状をラグジュアリーブランド研究の視点から考察します。

「コロナ禍で社会が質的・量的に急激に変化している今、企業の新型コロナウイルス関連倒産やビジネスモデルの綻びといった問題が顕在化しています。消費者の働き方の変化に伴い、衣食住のあり方を見つめ直し、おうち時間の充実に消費者心理が傾く傾向にあります」

コロナ禍の消費者心理をこう分析し、日本人の消費が高価格と低価格なものに二極化していることに言及。「消費が低迷してもラグジュアリーブランドは売れているが、ラグジュアリーブランドも勝ち組と負け組が鮮明になっている。不安な要素がある時に人は不安を回避する心理が強まり堅実的な消費をする」と語った上で、エルメスなどのラグジュアリーブランドの盤石な経営を紹介しました。

勝ち組のブランドが支持される理由として教授が挙げたのは、職人技の詰まった永続的な価値のあるものが売れているということ。つまりそれは「理念・技術力・実行力(表現力)」というこだわりの3要素を併せ持つブランドであり、日本の場合なら地場の伝統産業や企業がラグジュアリーブランドになる可能性を秘めているというものです。

また、カルティエなどを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモンのヨハン・ルパート会長が新型コロナウイルスの影響がもたらす消費動向の変化について“丈夫で長持ちする商品、環境対応商品へのシフトの加速が堅調で、これみよがしな高級品からより日常に寄り添う慎み深いラグジュアリーへの転換期”と語ったことも紹介し、「日本の製造業はコストダウンの消耗戦に陥っているが、逆に日本らしさを生かし、高くても売れる価値ある製品を作った方が世界で勝負できる」と結論づけました。

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従来型のマスマーケティングと全く異なるラグジュアリー戦略とは

第二部はこだわりの製品で世界を魅了するブランドや企業の代表者5名によるパネルディスカッション。登場したのは、勝沼醸造株式会社の有賀雄二氏、GIA Tokyoの高田力氏、株式会社玉川堂の玉川基行氏、アルルナータの寺西俊輔氏、リシャール ミルジャパン株式会社の川﨑圭太氏で、それぞれが伝統と技術を持ちイノベーションを起こす業界のトップランナーです。

最初に長沢教授が尋ねたのは「新型コロナによる影響」について。

リシャール・ミルの川﨑氏は「この1月の売り上げは昨年を超えました。本国がロックダウンになり商品が2ヶ月作れず売り上げ自体は減ったものの、単価が上がったので影響はありません」
次いで回答したGIA Tokyoの高田氏も「富裕層の宝飾品購入が増加しています。全部ではないが比較的好調なブランドもあり、昨年末にはコロナ前の水準に戻りました。また、ダイヤモンドに関してはコロナ禍で結婚式がしづらいといった理由からエンゲージメントリングはちゃんと購入しようという意識は消費者に広がったようで好調です」

一方ともに自社で生産から販売までを行う玉川堂の玉川氏と勝沼醸造の有賀氏は、
玉川氏「海外の売り上げが半数以上だったので影響はあるが、昨年秋と比べると工場見学者は1.5倍くらい増えてきています」
有賀氏「当社の商品はホテルやレストランでの流通が多いので非常に厳しいが、一方家飲み需要が増え、直販はとても好調」と語り、また、コロナの影響を大きく受けていると言われるファッション界に身を置くアルルナータの寺西氏は、「アルルナータはB to Cの直接販売のみ。コロナで直接お客様にアプローチできるイベントは開催できていないものの、顧客の方に支えられているためさほど大きな影響は受けていません」とのこと。

コロナ禍で厳しい状況に直面する企業が多い中、やはり技術力と理念、実行力を持つ企業の力強さを感じさせてくれました。

価値ある製品を売るための流通・広告戦略

次に議題に上ったのが「プロダクト、プライス、プレイス(流通)、プロモーションをどのように行なっているか」について。

川﨑「リシャール・ミルの時計は高いと言われます。ただ僕らは高いという言葉は使わない。ウォッチコンセプターであるリシャールが情熱を持ち、理想的な素材で作った結果この価格になったということ。広告に関しては雑誌などに出稿しているけれど、基本的には売れない商品を出しています。なぜ売れ筋を出さないのかと言われますが、それでも買ってくださるお客様がいて、そのお客様が他の人に勧めてくれるのを目指しています。広告の費用対効果は意識せず、あくまでもお客様の輪を広げるというのがうちの広告戦略の全てですね」

人伝いにブランドの知名度を広げるという手法に同調したのは寺西氏で、「アルルナータも洋服では高額な部類。会社としてまだ3年目ということもあり、現在は口コミを重視しています。ファッション誌に取り上げられた際に関心を持ってくださる方もいますが、現状は有料での広告は出しません」

一方で国際コンクール受賞によって自社のワインが注目を集めた有賀氏は「長い間、日本のワインは国際商品ではありませんでしたが、当初から世界に通じるワインを作ろうと躍起でした。結果、国際コンクールで評価を得たことが自信となって新たなブランドへと繋がった。そしてJAL国際線のファーストクラスで提供されるワインに採用され、それが徐々に消費者に広がりました。その後、ボルドーのワイン王、マグレー氏からのお声がけで一緒にマグレアルガ甲州というワインを作り、フランスで販売するに至りましたが、その際に価値とコストは違うことを学びましたね」

玉川「私は以前会社が倒産寸前で、流通を変えていこうと決心。直営店を東京の青山、現在は銀座に出店し、自分たちで作り自ら価格を設定し、自分たちで売ることをモットーにする。そうすることで会社が立ち直り伝統工芸が生き残れると感じたのです」

川﨑「それには同感。お客様に直接コネクトすることがとても大事です。業界の尺度ではなく、お客様の尺度で判断してほしい。高くても欲しいとならそれは高くはないのです」

製品の価値に見合う価格なら広告に頼ることなく、また高価(適正価格)でも売れることを体現したその要は直営店にあるよう。実際にこだわりの商品を売るには卸ではなく、作り手の想いを共有した店であることが重要だと結論が出たところで、今後の日本発信ラグジュアリーブランドに何が大切かへと話題は展開します。

ここでは作り手やブランドの歴史、土地がラグジュアリーブランドに欠かせないキーワードとされ、有賀氏「ものづくりの背景を見てもらうことが大切。特にワインは作り手やその土地に触れることで商品に対する価値が変わる。今後は継承できるものが価値を得るだろうと思う」という言葉に、これからの日本のラグジュアリーブランドの指針が集約されていました。

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それぞれが世界に認められた製品を発信する企業の代表者が皆一様に口にしたのが、歴史や土地、職人、創業者の想いやブランドのストーリーの大切さでした。それは作り手の情熱という言葉にも置き換えられますが、この品でなくてはと思わせる魅力を持つ製品こそが世界に通用するラグジュアリーブランドとなり得、それは想いを込めて作る人物や職人、それらの技術や工夫によって完成するもの。世界に通用するラグジュアリーブランドを作るにはこれらが欠かせない要素であることを実感しました。

 

今回お伺いした主催団体

早稲田大学ラグジュアリーブランディング研究所

 

TEXT:横田愛子

 

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