市場の縮小が不安視されているアパレル業界において、最近生き残り戦略として話題になっているのがオムニチャネル・コマースです。5年以内に70兆円以上の市場に成長する、とされていますが、まだその概念は浸透の途中と言えるでしょう。
「言葉はよく聞くけれど、それって何?」という人のために、今回はその定義や手法、企業による導入事例などをご紹介します。
◆オムニチャネル・コマースとは何か
「オムニチャネル・コマース」とは、さまざまなメディアを介して消費者との接点を作り、アプローチする戦略のことです。
具体的には公式サイトやブログ、SNS、ECサイト、ショッピングモール、直営店など多岐に渡る方法でお客さまとコンタクトし、最終的にインターネット経由なのかリアル店舗での販売かを問わず、購買に結び付ける方法を指します。
最近の事例で言えば「店舗に行って在庫がないとき、その場でネットで注文ができ、その日のうちに自宅に届くサービス」や「SNSでシェアされていた商品を1クリックで注文でき、職場や自宅近くのコンビニで受け取れる」などのサービスがオムニチャネル・コマースの一環と言えます。
◆なぜオムニチャネル・コマースが生き残りに必要なのか
消費者が洋服や雑貨を買う時の販売行動に大きな影響を与えたのが、スマホとSNSの普及です。これまでは買い物の場であった店舗が「ショールーム化」し、消費者は店舗での接客や試着を経て商品を検討したのち、価格やポイント面で優遇される通販サイトで購入する、という流れが一般的になりました。また、購入の前にSNSや口コミサイトで評判を検索する行為も当たり前に行われています。
このように、お店やECサイト、SNSと複数のチャネルを渡り歩いて比較検討する「賢い消費者」に対応する戦略として、企業も販売チャネルを複数設けて、消費者が買いたいと思ったタイミングで購入できる仕組み=オムニチャネル化に取り組んでいるのです。
ITテクノロジーが進化したことによって、それぞれのチャネルで集めた購買データをほかのチャネルで活用することもできるようになりました。商品への接点は別々の場所だったとしても、企業内で在庫と顧客情報を統合管理できれば、適切なときに適切な人に商品を届けやすくなる。消費者にとっては、店でもネットでもシームレスな買い物体験ができて満足度が向上し、ブランドにとっては機会損失の減少になる。そんな可能性がオムニチャンネル・コマースに秘められているのです。
◆オムニチャネル・コマースの成功事例
現在、さまざまな企業がオムニチャンネル・コマースの導入に取り組み、いくつもの成功事例が出ています。そんな代表的なブランドをいくつかご紹介します。
NANO・UNIVERSE
『NANO・UNIVERSE』のオムニチャネル戦略の大きな特徴は、顧客との関係構築に主眼を置いている点です。実店舗とECサイトをよりシームレスに連携させるためメンバーズカードを廃止、店舗とネットで共通のサービスを受けられるオンライン会員制度『クルーメンバーズ』に一本化を行いました。顧客は利用状況に応じてクラスに分けられ、クラスが上がるごとにサービスや特典の内容が充実する仕組みです。
また、店舗において最新の3Dスキャナーを使って全身をスキャン。全身の詳細な寸法データと3次元CGデータをアプリ『ナノユニバースライブラリ』に保存し、ショッピングや洋服選びに活用できる先進的なサービスも提供しています。
UNITED ARROWS
『UNITED ARROWS』は、いち早く実店舗とネットを連携させてオムニチャネルに力を入れてきたブランドのひとつです。実店舗の在庫表示や、店舗での取り置きサービスはもちろん、過去の購買履歴を活用したパーソナルな接客も実施。アプリから店舗での試着予約を行うこともできます。きめ細かい対応の背景には、顧客のカスタマージャーニーを把握するため、データ収集・分析の高速化、データ可視化に投資し、仕組みづくりをしてきた実績が生きています。
MUJI
『MUJI』では、スマホで使えるオムニチャネルアプリ『MUJI passport』を展開しています。アプリ内ではニュースの配信や在庫の検索。優待クーポンのプレゼントなどがありますが、特徴的なのは『MUJIマイルサービス』です。買い物のほか、店舗に立ち寄るだけでもマイルがたまり、買い物に使用できるポイントやクーポンになるため、実店舗への誘導する助けとなっています。
◆「オムニチャネル・コマース」のこれから
ブランドから直接ではなく、フリマアプリ『メルカリ』を使って個人間で中古衣料を売買するなど、消費者にとっての購買チャネルはまだ広がりを見せており、アパレル側も新しい発想でのアプローチが求められています。
たとえば『ストライプインターナショナル』は、自社のブランドを定額で借り放題レンタルできるファッションサブスクリプションサービス『メチャカリ』を運営。さらにそこでレンタルされた服は、一定の期間を経て自社のECサイトで販売することまでを行っています。
これまで「レンタル」「中古販売」と別事業者が担っていた役割を自社で一本化することで、「ブランドのファンを増やす」ことに注力した例と言えるでしょう。
消費者にとっては「店か、ネットか」「新品か、中古か」などはあまり問題ではなく、その背景にある商品への興味や着心地、着用の満足感などが関心事項です。無限の可能性を秘めるオムニチャネル・コマース」使いこなすことで、時間や場所の制約を取り払うのはもちろんですが、いかに既存のビジネスとは違う発想を取り込んで、新しい顧客満足を生み出せるか、が今アパレルに問われているのかもしれません。