2019年も始まってすでに1ヵ月が過ぎました。2018年を振り返って、ファッション業界はどんな年だったのか、そして今年はどんな企業や業界の動きに注目すべきなのか、今年もプロの目線による鋭い洞察をお届けします。ファッション業界に特化した人材紹介会社エーバルーンコンサルティング代表、池松孝志さんが挙げるポイントは、転職活動を考える際の大きなヒントになってくれるはずです。
求人動向からみるファッション業界の2018年
まずはFashion HR読者のみなさんが最も関心のある、求人動向について池松さんの分析を伺います。
「ファッション業界全般、人手不足が依然続いている状態です。こうした背景からも、求人募集事情は一昨年に比べても多いというのが2018年の最も大きな特徴でした。特に販売職は人手が足りていない状態が続いています。100名単位で募集しているというブランドもあるほどです。また、時代の流れでもありますが、デジタル戦略を推進するためのEC、IT系職種の募集も多く目立っています」
人材不足が叫ばれて久しいですが、その背景には何があるのでしょう。
「ファッション業界の人材不足は通年で課題になっていますが、やはり業界全体の停滞感がその背景にあるでしょう。日本のファッション業界は、マーケットが成熟しきっているため、なかなか状況を打破するのは難しいというのが現状です。競争は非常に熾烈です。さまざまなサービスが登場した近年、ファッションブランド間だけに留まらず、EC、レンタルサービス、メルカリなどをはじめとするC to C(個人間取引)などあらゆる企業や事業が競争相手となっています。そんななか、既存ブランドは競合からパイを奪わなくてはなりません。ブランドによっては前年の売り上げを超えられる店舗がほとんどないなかで、利益重視の戦略に切り替え、店舗オペレーションの改善策を行っているところもあります」
ファッション業界の厳しい現状はまだまだ続いているようです。コストカットしながらいかに優良な人材を確保するか、企業やブランドが抱える課題は決して簡単に解決できるものではなさそうです。
好調なラグジュアリーブランド。その理由は?
厳しい話題からスタートしましたが、ファッション業界で勢いを増し続けているブランドももちろんあります。一体どんなブランドなのでしょうか。
「グッチやバレンシアガは好調です。売り上げを伸ばし、さらに成長しています。その理由の一つは、ミレニアムやジェネレーションZと呼ばれる世代をうまく取り込んでいることでしょう。ファッションが好きで購買意欲の高い彼らはスマホの画面を見せて、『これが欲しいです』と店舗にやってきます。目的買いで来店する彼らにただ希望のものを売るだけでは顧客にはなってくれません。そこで、ブランド側も店内でどれだけ新たな体験(カスタマーエクスペリエンス)をしてもらえるかを重要視し、カスタマーサービスの強化を行なっています。顧客、特にVIP一人ひとりに対して、ふさわしいスタッフを配置し、さまざまなサービスや体験を味わってもらうというところはラグジュアリーブランドの戦略のうまさであり、そういった戦略で成功しているブランドは、新しい顧客を獲得して、売り上げを安定させ、成長しているという傾向があります」
昨年は店舗内でYRの技術を駆使して、カスタマーエクスペリエンスを充実させているブランドも見られました。
「そうですね。最近ラルフ・ローレンでもYRサービスを試みていましたね。海外の事例としてもトム・ブラウンもYRを取り入れたと聞いています。こうしたお客さまに対して付加価値をつけるというブランドは増えています」
2019年、注目のファッション企業は?
勢いを増すラグジュアリーブランドだけでなく、池松さんはあるECサイトに注目しているといいます。
「2018年に上場したファーフェッチに注目しています。その理由としては、日本ではZOZOTOWNが好調ですよね。ZOZOは商品の多さ、ブランドの多さが他と比べ圧倒的です。そこが日本の消費者に受けているのだと思います。サイト内でコーディネートをやっていますし、あれだけのボリュームですとディスカウントもしやすい、などというところで買い物がここで完結できるという手軽さがあります。そういった観点でいうとファーフェッチも海外系のネットショップの競合に比べて、膨大なブランド数、商品数があると言われています」
ファーフェッチは、世界中のショップと提携しているということで、規模がかなり大きいのですね。しかし、圧倒的な商品数を誇るゆえのデメリットもあるのだそう。
「業界内の人からすれば、これだけの規模の商品数から選ぶことができるのは非常に価値が高いと言えるでしょう。ただ、一般の顧客にとっては何を買っていいのかわからない状態にもなりかねません。そこでファーフェッチは、今日の気分にコーディネートに合わせたセットを組んでくれるパーソナルショッパーのようなサービスを提供しています。顧客が欲しいアイテムがオンライン上になければ、オフラインから探してくることも。つまり全世界のショップにある在庫を商品としているのです。これから日本でももっと成長していく企業であることは間違いありません」
新勢力と言われているD2Cブランド って何?
もう一つ、池松さんが注目しているのがこれからの時代をリードするといわれているD2C(=Direct to Customer)というビジネスモデルだそうです。どんな形態で、どんな企業が台頭してきているのでしょうか。
「アメリカではすでに有名となっているエバーレーンという企業があります。自分たちで企画し、生産し、店舗を介さずECのみで売るというビジネスモデルになります。このモデルだとコストを大幅にカットできるという利点があります。ですから品質の高い商品を安く提供できるということで近年注目されているのです。エバーレーンでは、商品の原価、材料費、労働費、関税などといったコストをすべてウェブサイトで公開することで透明性の高いビジネスの運営に成功し、顧客の信頼を得ています」
さらにエバーレーンは、最近になって店舗を構えたといいます。
「サンフランシコを訪れた時に、エバーレーンがオープンしたリアルショップにも足を運びました。街にあるほかのアパレルショップは閑散としていたにも関わらず、エバーレーンの店内は多くの人で賑わっていたことに驚きました。こうしてオンライン上でファンを獲得してから、店舗運営に踏み切るところは非常にこの企業のビジネス展開のうまさだと思います。今後日本でも、こうした形態のビジネスが増えていくでしょう」
気になる2019年の転職市場の動向は?
最後に、今後の転職市場の動向について伺います。
「今後も人材不足の状態が続くことは否めません。ただ、ECやIT系の職種を募集していたとしても、専門知識を持った人たちがファッション系企業に応募するとは限りません。他業界での年収や雇用条件に比べるとファッション業界は見劣りしてしまうからです。ファッション業界に魅力を感じてもらう何かが必要だと思います」
ファッション業界を活性化するためのカギは何なのでしょうか。池松さんは3つのキーワードを挙げてくれました。
「今年のビジネスのキーワードは、VIP対応。好調なラグジュアリーブランドが力を入れているように、さまざまな企業やブランドが注力していくことが求められると思います。さらにインバウンドやアウトレットは引き続き好調のため、各企業がサービスや運営に力を入れるでしょう」
さらに転職市場に変化についてもこんな指摘がありました。
「アメリカ訪問時に印象的だったのが、転職に特化したSNSのリンクドインが転職のプラットフォームとしてさらに普及が進んでいたことです。スキルに合った仕事が、アメリカだけではなく、全世界から見つかる可能性があり、人材紹介会社を介さず、企業から声がかかるということで、スピーディさが求められる現代の転職活動のツールとして今後より広がりを見せるでしょう。日本でもウォンテッドリー、ビズリーチといったサービスが登場しており、転職マーケットも変化していくことは必至ですし、ファッション業界にもインパクトをもたらすことは間違いありません」
いかがでしたか。変化の激しい現代において、ファッション業界も常に変化していく必要があるのですね。こうした変化を常にキャッチし、求められる業務内容やスキルをアップデートさせることがキーとなりそうです。
今回お話を聞かせてくれた方
エーバルーンコンサルティング 代表 池松孝志
アメリカ留学時代に古着屋のディーラーを経験。国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。