日欧経済連携協定(EPA)の交渉が大枠合意に達し、ファッション業界でも今後の動きに注目が集まっています。
日本政府は2019年の発効を目指しており、今秋にでも国内対策が執り行われるとのこと。実現はだいぶ先のことではあるものの、欧州ブランドが多く進出しているファッション業界で働く方々にとってみれば、EPAがもたらす市場への影響は気になるところではないでしょうか?
単純に関税がなくなれば好景気となり、ますます働く側にとっては売り手市場になるのでは?と思うところですが、そう単純でもないようです。ラグジュアリーブランド市場に詳しいエーバルーンコンサルティング池松代表に見解を伺いました。
関税撤廃で欧州ラグジュアリーブランドは好景気へ?日欧EPAがもたらすファッション転職市場への影響
過去10年でラグジュアリーブランドはどう変化した?
ファッション業界での、この先10年を読むということは難しいことです。なぜかというと、今から10年前を考えてみるとよく分かります。
10年前のラグジュアリーブランドといえば、例えばいわゆる「全身ブランド品で着飾る」といったイメージが台頭にありました。しかし、10年経った今ではどちらかというと「ラグジュアリーブランドも買うけどファストファッションも着る」といった風潮があり、消費者にとってのブランドのステータスは時代の流れで変化しています。
人材市場でいうと、10年前は就職が難しかったラグジュアリーブランドも、今では人材不足になっています。ブランド数・店舗数ともに増えた背景もありますが、百貨店や商業施設も低迷期を迎え、どこも飽和状態が続いています。そういった観点からも、ファッション業界の向こう10年というのは、過去10年よりもさらに厳しい状況となるのではないでしょうか。
昔では考えられなかったブランドバッグをレンタルするサービスが誕生するなど、状況は刻々と変わっています。EPAがもちろん好景気の追い風になることは間違いないですが、各ブランドは引き続き努力をする必要があるでしょう。
各ブランドが強化する顧客/VIPサービス
今、多くのブランドが顧客獲得のための様々な工夫を行っています。顧客づくりを強化するために、CRMやクライアントテリングといったポジションに増員を図る企業も増えています。
新たな顧客を獲得するためにリ・ブランディングを図るブランドなど、まさにグッチが成功例ですが、大幅なリ・ブランディングで若い顧客を獲得し、そこから年月をかけて安定させていく流れは、今後どのブランドにも必要なことでしょう。また、販売員と顧客とのコミュニケーションツールも変化しています。これまでのように電話や手紙での連絡以外に、会社用のスマホを使って顧客とコンタクトをとったり、LINEで入荷のお知らせを行うなど、顧客に合わせた工夫を行うブランドが売り上げを伸ばしています。
今10年後を見据えて顧客づくりに力を入れているブランドは今後も安定的な売り上げをつくっていける。さらに、そういった顧客サービスができる人材というのが、将来的に転職市場で重宝されるのではないでしょうか。
外資系ラグジュアリーブランドが今後求める人材
引き続き、業界全体としても求職者の「売り手市場」は続くので、若手の人材でも比較的チャレンジしやすい状況です。
なかでもキャリアアップを図れる人というのは、顧客サービスに長けている人やVIP対応ができる人材です。もちろんそういったキャリアがない方は、いきなりスーパーブランドに転職しなくても、まずは身の丈にあったブランドからキャリアをスタートさせても良いと思います。
最終的に転職したいブランドがどこかによって、経験を積むことも大切です。EPAによる市場への影響は気になるところですが、まずは10年後にご自身がどんな商品を取り扱っていきたいのか、どんなサービスをしていきたいのか、そのような視点でキャリアについて考えてみてはいかがでしょう。
今回お話を聞かせてくれた方
エーバルーンコンサルティング 代表 池松孝志
アメリカ留学時代に古着屋のディーラーを経験。国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。
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