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パロディとコピーの境界線とは?「ファッション・ロー 〜ファッションの法的保護の現状・課題と将来の展望〜」レポート

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Fashion Law(ファッション・ロー)という言葉が、世界的に注目を集めています。洋服やバッグなど、ファッションアイテムのデザイン等の法的保護について研究するもので、日本においても、服飾デザインの法的権利に関する研究組織が発足するなど、ブランドやデザインの権利を守る動きが広がりつつあります。

7月22日(金)、金沢工業大学のフラッグシップ拠点として、2004年虎ノ門に開設した1年制の社会人大学院「K.I.T.虎ノ門大学院」でファッション・ローにまつわるセミナーが開催されました。登壇者はFashion Law Institute Japan事務局長の金井倫之氏、骨董通り法律事務所弁護士の中川隆太郎氏、エルメスジャポン知的財産権担当の黒川靖子氏。今回は、ファッションをめぐる国内外の紛争事例、さらには世界的にも有名なファッションブランドにおける取り組みなど、普段なかなか聞くことができないセミナー内容の一部をレポートします。

パロディの定義、日本とアメリカにおける違いとは?

第1部は、金井氏による「パロディと商標〜事例紹介を中心に〜」。有名なパロディ事件の紹介から講義はスタートしました。様々な事例から、パロディとコピー(模倣)の境界線や、日本とアメリカでの違いが見えてきました。

パロディの意味とは?

“パロディ”という言葉の意味は、広辞苑では『文学作品の一形式』であり、主に文学作品の文体や韻律を模し、内容を変えて滑稽化・諷刺化した文学のこと。日本の替え歌や狂歌、更に絵画や写真を題材にした作品もこの類とされる一方、アメリカでは、これまでの裁判例から以下のようなパロディの定義が挙げられるそうです。

アメリカでのパロディの定義

オリジナルであることに加えて、パロディでありオリジナルでないことの相反するメッセージが伝わること。パロディとして成功しているとは、2つのメッセージが伝えられていることであり、1)著名商標の需要者にパロディとして有名な商標を想起させつつも区別がつき、2)パロディが風刺か冷やかし、ジョークや遊びの意図を伝えていること。
この相反する2つの意図が同時に伝わらない限り、パロディではなく(not a successful parody)、例えば商標権者の意図だけが伝わるようであれば需要者の混同を招き商標権侵害の問題となるとされます。しかし、パロディだからといって必ずしも混同しないということではない、つまりパロディであっても混同を生じるのであれば商標権侵害を免れるものではないとのことです。

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(Fashion Law Institute Japan事務局長 金井倫之氏)

金井氏は次に、「フランク三浦」の事例を紹介しました。これは、フランクミュラー側が「フランク三浦」の商標登録を無効にしようという裁判で、現在知財高裁で争われた段階ではフランクミュラー側の主張は認められておらず、上告されたため今現在も決着がついていません。この裁判では「商標法4条1項11号:先登録商標との類似」、「商標法4条1項15号:他人の業務に係る商品等との混同」等を理由に審判が請求されましたが、結果的には相互の商標は非類似であり、取引者や需要者が双方の商品を混同することは考えられないなどとして商標登録は無効ではないとの判決となりました。

この他に、アメリカでパロディとして成立した事例であるルイ・ヴィトンのHoute Diggity Dog事件や、ハーシーズのパロディとしてデザインされた配送用トラックが差し止めになったケースなどを挙げました。様々な事例から、日本においては「パロディという概念がディフェンスになるわけではなく、あくまで商標法4条1項11号(先願)、15号(混同を生じるか)等によって判断されること」、その一方でアメリカにおいては「パロディがディフェンスになるものの、しかしパロディでも混同を生じているのであれば商標権侵害になりうること」がよく分かりました。

模倣はどこまで許される?商品を守る法制度

第2部の、中川氏の講義「ファッションデザインとデッド・コピー」では、新商品のデザイン(形態)のデッド・コピーを規制するための法制度である不正競争防止法2条1項3号を中心に説明がありました。法律上、「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことと定義されていますが、ここでいう実質的同一性に関する判断のセオリーとしては以下の2点が挙げられるといいます。

      ①両商品の形態の共通点・相違点を検証。
    ②相違点は些細なものか、特徴的な形状が共通しているか等を検討。

中川氏によると、「どこまでが些細な相違なのか?といった具体的な判断基準・指標について、実は裁判例はそれほど定まっていない」とのこと。そのため、「まずはこれまでの裁判例の大まかな傾向を押さえておくことが有用。ファッションビジネスに携わる人は、具体的にどのようなケースがあったのか知っておくことが大切」なのだといいます。そこで実際に、過去のRyuRyu事件や、シチズン事件、blondy対Apuweiser-riche事件などの具体例もまじえ、これまでの裁判例の4つの傾向について説明がありました。

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(骨董通り法律事務所弁護士 中川隆太郎氏)

これまでの裁判例の4つの傾向

【A】相違点が色や柄だけである場合は実質的同一性を肯定する傾向
【B】需要者に異なる印象を与える場合は実質的同一性を否定する傾向
【C】相違点が同業者にとって容易な変更である場合は実質的同一性を肯定する傾向
【D】創作的な要素がそのまま利用されている場合は実質的同一性を肯定する傾向

また、この制度における模倣に対する保護は国内販売開始から3年で終了と決まっているものの、“いつから保護されるか”は定められていないことから、ランウェイで公表されたデザインは果たして模倣から守られるのかという重要なテーマについて裁判例や議論が紹介されたほか、近年のファッション業界における「See now, Buy now」の動きは、結果的にこのような懸念への対応策にもなっていることなどもこのテーマにおけるポイントとなりました。

エルメスの無効審判事例に見るファッション・ローの重要性

セミナー最後の講義は黒川氏によるエルメスの2件の無効審判のケーススタディによって締めくくられました。
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(エルメスジャポン知的財産権担当 黒川靖子氏)

今までも非常に多くの商標権侵害をされてきたエルメスのバーキンについて、黒川氏は「著名性をここまで獲得するまでには、水面下でダイリューション(希釈化)と常に戦い、希釈化防止のための対応策や常に商標が自社の独占的且つ固有のものであることを主張してきたから」と話します。“バーキンは決して一人で成長しているわけではない”という言葉には非常に重みがあり、著名な商標を守っていくことの大変さが感じられました。常に模倣される立場であるエルメスの著名性を守るためにも、ファッション・ローは欠かせない重要な法律だということを知ることができました。

セミナーの終わりは広い会場を埋め尽くした受講生たちによる質疑応答が行われました。お三方が集まる貴重な機会ということで時間いっぱいまで様々な質問が飛び交い、日本でもファッション・ローの認知が広がっていることが分かりました。ファッション業界における法律の役割の重要さを改めて感じさせられる有意義なセミナーでした。

今回お伺いしたセミナー主催者

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K.I.T.虎ノ門大学院

2016年4月からイノベーションマネジメント研究科がスタート。「MBA」「知的財産マネジメント」の修士号が1年で取得できる社会人大学院。キャンパスは虎ノ門駅から徒歩8分。

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