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「作り手側の倫理観と合わせて、買う側が知識を身につけることも大切」鎌田安里紗さんに聞くエシカルファッションのいま

モデルとして、また慶應義塾大学で講師として活動する鎌田安里紗さん。彼女にはもう一つ、エシカルファッションプランナーという肩書きがあります。自らもファッションブランドの販売や企画などに携わってきた彼女は、ファストファッションが日本上陸した頃から服が作られる過程に疑問を感じるようになったと言います。現在は服を生産する国へのスタディツアーや国内での勉強会、そしてSNSを通じてエシカルファッションにまつわる情報を発信しています。
今回のインタビューでは、ファッション業界に携わる私たちがエシカルファッションをどのように捉え、どんなことを実践していくのがよいのか、そのヒントをお聞きしました。

作り手だからこそできるエシカルな取り組み

−これまでたくさんのインタビューで聞かれてきたと思いますが、改めてエシカルファッションの定義について教えてください。

エシカルファッションとは、直訳すると「倫理的なファッション」「道徳的なファッション」となります。より具体的には、服の生産から消費・廃棄の過程で、自然環境や労働環境に配慮し、そのインパクトをできるだけポジティブなものにするという考え方です。ただ倫理や道徳を何と捉えるかによって、その定義が変わってきます。エシカルファッションの具体例として象徴的なものは、素材にオーガニックコットンを使用したり、取引をフェアトレードにする、というものかと思います。今回この記事を読んでくださる方は、一消費者である以上に、ファッションの作り手・届け手の方が多いと伺っています。その視点で捉えると、エシカルファッションの考え方は新しい発想の源泉になるのではないでしょうか。着る人にとって喜ばれる服を作るという目標に加えて、できるだけ環境負荷を少なくしながら、生産者さんとも良い関係を築く。そうした服作りのプロセスをも美しくしていくということは、業界にとって新しい挑戦だと感じます。エシカルファッションというと、難しく感じてしまうところもあるかと思うんですが、「クリエイティビティの源泉だ!」と思って興味を持ってもらえると嬉しいですね。

−アパレル業界はなかなか明るい話題に乏しいのが現状ですが、そんな業界に一石を投じ、新しい方法を加えることで、これまでにない視点が生まれるといいですよね。

エシカルファッションの話をしようとすると、どうしても今の課題の説明に集中してしまいがち。ファッション業界で働いている人であれば、ファストファッションが生まれたことによってファッションの構造がすごく変わったと感じるはずです。ファッションの民主化が進んだということもできますが、大量生産することによって廃棄の量も増えましたし、そもそも安く大量に作るための素材の選び方とか、染料の選び方とか、工場のシステムとか、いろいろなところに変化が生じ、特に負の影響が出てしまったんですね。でも、そういった負の是正という視点だけでなく、次の時代のチャレンジとしてみんながエシカルな服作りに取り組んでいったら、きっと楽しいだろうなって思うんです。

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−具体的にどういうところからプロセスを変えていくことができるでしょうか?

一番シンプルなのは素材選びではないでしょうか。従来ならデザインや手触り、そしてコストをふまえて選んでいたところに加えて、それぞれの素材は原材料まで辿ると何からできているのか、作られる際にどのくらいの水や石油といったエネルギーを使っているのか、などというところまで考えて、総合的に素材を選んでいくことができます。たとえば通常のコットンを生産する際には大量の農薬を使用しますが、オーガニックコットンは土壌や生産者の健康に配慮して、ケミカルなものを使用せずコットンを育てます。ただ、農薬を使用していなくても、コットンの生産には大量の水が必要とされます。それは、通常のコットンでもオーガニックでも同じです。こうした生産過程への配慮は、アウトプットとしての製品の見た目や着心地に影響するとは限らないので、そこにコストをかけるのはためらわれるかもしれませんが、調べたうえで素材を選択することがまず一歩かなと思います。

−商品として見た際に大きな差がない中で、企業やブランド側がどれだけ倫理的なプロセスをクリエイトできるか、そこはやはり作り手側が意識を持って変化を起こしていかなければならないですね。

作り手側の倫理観はもちろん重要ですし、それに加えて、受け手側がそれを評価できるかが大事だと思います。やはり何かをやっても誰も評価してくれなかったら、「じゃあやらないよ」ってなるじゃないですか。ですから、企業やブランド側にばかり責任を求めるのではなく、そうした取り組みに興味をもったり、評価をしてくれるお客さんが増えるように情報発信をしていかなくてはならないですね。作り手が誇らしく語れる背景を持つこと、売り手がその背景をしっかり説明できるよう考えを深めること、そしてお客さんがそれも含めて買い物を楽しめるような知識を持つこと。どこから始めればいいのかと言われると、ニワトリとタマゴの話になってしまいますから、まずはモノを作っているブランドが変わってくれるっていうのは、明確な変化としていいですよね。そこに共感したお客さんがファンとなり、一緒に「こんな生産と消費がいいよね」という価値観を共有していけると最高です。

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一人ひとりが導き出す価値の判断基準

−「価値観の共有」。重要なキーワードですね。そのために鎌田さんがされている活動や今後考えている取り組みとは?

企業側が打ち出すのも大事ですし。私の立場としては、そういった企業の取り組みを翻し、「あのブランド、最近こんなことやっていてカッコ良い!」といったことを、発信していく活動により注力していけたらと思います。私だけでなく、タレントさん、モデルさんなど、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる人たちで、興味がある人が増えてきたらよりいいなって思います。やっぱり影響力があって。ファッションを引っ張っていくような人たちが、トレンドのことだけじゃなくて「このブランドのこういう取り組みがカッコいいわ!」というようなことを「あの服可愛いよね!?」という感覚と同じくらいのテンションで伝えられるといいですよね。固くなりすぎず、今、まさに社会的なテーマであるこの問題をさらりと伝えられる人がいてもいいかなって。

−鎌田さんは勉強会もされていますよね。

はい。INHEELSというエシカルファッションブランドとともに「めぐるファッションラボ」というエシカル/サステナブルファッションの勉強会を年に2〜3回やっています。参加者には大学生もいれば、一般企業に勤めている方もいますし、あとはアパレルの販売をやっている人なども来ます。ファッション業界の問題って今、ネットで情報がどんどん入って来ますよね。すごい環境を破壊しているらしいとか、労働環境が酷いらしいとか。そういった事実を一度知ってしまうと、「可愛い!」というテンションだけで服を買えなくなってしまって、服は好きだけどどうやって判断すればいいんだろうと悩んだ人たちが、自分なりの判断基準を得るために参加してくれています。集まった20人くらいの中でも毎回いろんな意見が出てすごく面白いんです。たとえば、リアルファーとフェイクファー(エコファー)の議論。動物へのリスペクトがないのは絶対反対で、そうした問題が明るみに出て、反対運動が進んだのは素晴らしいことです。そのうえで、フェイクファーをエコファーと呼んで賞賛する流れもありますが、石油を使用するフェイクファーはエコなのか?とか、リアルファーやレザーでも、必要に応じて駆除された動物たちをただ捨ててしまうのではなく、活かしていくという方法も必要であるといった議論など。すべてのテーマを善悪2元論で片付けず、何が問題なのか?良いところはなんなのか?をじっくり考えていきます。

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−参加する理由として多いのは、自分自身が服を買う基準をもう一度考え直そうというところからなのですね。

「買い物するのが心苦しい」というところから参加を決めた人が多いです。そうやって問題意識を持って、自分の判断基準がほしいという人はかなりいますね。ただ、今あるエシカルファッションブランドだけだとやっぱりデザインが自分の好みに合わないという意見も多いのが事実。ファッションの好みは多様ですから、思想も合うしデザインも好き、というブランドを見つけるのは至難の技です。思想がいいからといってもデザイン的に着たくなければ本末転倒ですしね。自分にぴったり合うブランドの登場を待っている人はたくさんいます。そして、待っていられない人は自分でブランド作り始めています(笑)。

エシカルファッションのいま

−エシカルファッションっていう概念が生まれてから時間が経ちましたが、今現在の動きはどのようになっているのでしょうか。

肌感覚としてはエシカルに興味を持つ人や、そうした思想を持つブランドが増えてきていると思います。一方で先ほども言いましたが、10代、20代から250回ぐらいは相談を受けている内容が、「エシカルで欲しいブランドがありません」なんです。リアルに250人の相談者の顔が浮かぶくらい(笑)。もちろん、今あるエシカルファッションブランドのデザインや世界観は素敵ですが、当然全員の趣味をカバーできるわけではありません。また、エシカルな思想を前面に出さずに素晴らしい物作りをされているブランドさんもたくさんいます。しかし、出会えていない。私自身も思想に共感し、デザインも好き!というブランドさんに出会うのは容易なことではありません。世の中にこれだけブランドがあふれていて、欲しいと言わせるためにいろいろ作っているのに、「欲しいけどない」という状態がいまだに続いているんですよね。

−倫理的なプロセスとデザインの両立がなかなか上手くいかないというのは、もどかしいですね。

もしくは、背景や思想を温度感を持って伝えられる人が少ない、場がない、ということでしょうか。私自身、よくいろんなお店を見にいくのですが、デザインや値段を超えたメッセージを受け取ることは稀です。もっと知りたい、と思っても背景がそこまで明かされていることはありません。私自身、販売員を6年していたのですが、自社製品がどんな風につくられているか、全然わかっていませんでした。販売員もみんなでコットン畑や工場に行くと服の見方や語れることが変わって楽しいですね。

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−せっかくお金を払うものだから、可愛いというだけでなく、その服を選ぶ意義についてもっと伝わってきたら、お互いwin-winになれるはずですよね。

やっぱり自分がお金払うものに納得したいという思いは私自身もすごくあるし、同世代でもそういうものにお金を払いたいという声を聞きます。これだけたくさんの商品が流通している中で、スペックや値段で比較して買う物を選んでいくと疲れてしまいます。背景や思想も含めて、温度感の伝わってくるブランドさんの存在はありがたいですよね。

−まさに、現在の販売スタッフに求められているところだと思います。ここまでお話を聞いてきましたが、鎌田さんご自身がさらにチャレンジしていきたいことは?

服を作ってほしいとよく言われるんですが、私は作り手とはまた違う立場に立つことが必要かなと思っているんです。単に啓蒙だけしていてもダメだとは思いますが、でもやっぱり課題やそれに対するポジティブな動きについて発信していくことは重要であると考えています。そのために、私自身が様々なところにアンテナを張って、常に新鮮な情報を適切な言葉で伝えられるようにはしておきたいですね。その際、誰かを悪者にして批判するのではなく、みんなで一緒に問題をつくってしまっているのだと認識して、そのうえでどうよりよくしていけるか、という現実的な視点を忘れないようにしたいです。でもやっぱり、服を作ってみたい気持ちはあります。「ブランドを始める」という形ではなく「一生活者として作りたい服を少量作ってみる」というイメージです。そうした取り組みを支えるプラットフォームもたくさん生まれていますし、そうしたところを活用させてもらいながら、消費するだけでない服との付き合い方を提案していけるといいかもしれません。とにかく、私自身が楽しみながら、エシカルファッションの可能性を模索していきたいですね。

Interview&Text : Etsuko Soeda

今回お話を伺った方

鎌田安里紗さん

1992年、徳島県生まれ。モデル、エシカルファッションプランナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在学。高校在学時に雑誌『Ranzuki』でモデルデビュー。エシカルな取り組みに関心が高く、フェアトレード製品の制作やスタディ・ツアーの企画などを行っている。著者に『enjoy the little things』(宝島社)。環境省「森里川海プロジェクト」アンバサダー、JICA「なんとかしなきゃ!プロジェクト」メンバー、慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師。

 

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