Gap Inc. (ギャップインク)は、Gapを始め、Banana Republic、Old Navyなどのブランドを擁し、メンズとレディス、さらにキッズとベビーなどに向けたウェアやアクセサリーをグローバルに提供しています。
創立以来、男女や人種の壁のない、平等な労働環境づくりを推進してきた同社。今、女性がイキイキと働くための「女性と機会」というイニシアチブと戦略で、より注目を集めています。この施策についてジャパン社代表取締役エリン・ノーランさんにお話を聞くことができました。
創業以来、常にフォーカスしてきた“平等性”
-ギャップジャパンについて教えて下さい。店舗数や従業員の男女比率は?
ギャップジャパンは1994年に設立しました。現在全ブランドあわせて国内に200店舗以上を構え、男女の従業員比率は本社と店舗を合わせ女性が50%を超えています。本社でのマネージメント職の男女比率でいいますと43%が女性です。
-非常に女性の管理職の割合が高いですね。
全国平均に比べると4倍のパーセンテージと言われています。
-Gap Inc.の「Women and Opportunity(女性と機会)」という取り組みについてお聞かせください。
Gap Inc.は1969年、創設者のドンとドリス・フィッシャー夫妻がお互い半分ずつ資金を出し合い、スタートした会社です。このことからわかるように、創設以来常に平等性にフォーカスしてきました。男女ということだけでなく、いかなる差別やハラスメントのない、誰もが平等であるべきという精神がこの会社に根付いています。
会社が成長すると同時に、女性がより重要なポジションに就く機会を増やすために、成功に導くプログラムや、柔軟性のある体制を築き上げてきました。そしてワークライフバランスの取れた環境づくりを推進しています。
-グローバルはもちろん、ジャパン社におけるワークライフバランスも業界内でも広く知られています。在宅ワークや勤務時間の自己裁量制度などを取り入れていますよね。
様々な方法でフレキシブルなワークスタイルを推奨するとともに、それぞれのライフスタイルに合わせられる柔軟性を提供するということにも注力しています。その一環として昨年、産休・育休明けの女性社員向けに搾乳ができるスペースを設けました。これによって幼い子供を持つ女性従業員はいっそうワークライフバランスを取りやすくなります。これは海外などではポピュラーですが、日本では新しい取り組みとなります。
-これも女性と機会の取り組みのひとつなのですね。
はい、Gapブランドが取り組んでいる“Female Star”というプログラムでは、本社と店舗における次世代のリーダーを特定し、彼女らのスキルや自信を向上させるための勉強会やワークショップを実施しています。
また、北米からスタートした“Women In Leadership”という従業員グループが2年前から日本でも始まり、女性がリーダーとして成長するためのサポートを目的に、我々の組織を代表する女性(ときには男性の場合もありますが)に、どのようにキャリアを積んできたのか、どのようにワークライフバランスをとっているのかなど、経験談を話してもらったりキャリアアップの障壁やその改善策について話し合う機会などを設けています。四半期に一度行っているこの活動には店舗スタッフを招待することもあります。
女性が活躍するためには「男性の意見」が必要
-男性のリーダーにもスピーカーとして参加してもらっているのですね!彼らからはどんな話が聞けますか?
女性のリーダーを育てていくには、男性の意見も非常に重要だと考えています。ひとつ例を挙げますと、ある男性社員は「リーダーであり、父親という立場において、仕事から帰って家族と一緒に食事をとること、子どもたちに本を読んであげることが、生活において非常に重要だと考えている。仕事と家庭のバランスの取り方を追求し、オフィス内の模範になれればと思う」と話してくれたことです。男女それぞれのロールモデルを社内に持つことが非常に重要だと思っています。
-日本とアメリカでの「女性と機会」に違いを感じることはありますか。
我々Gap Inc.は、アメリカでも日本でも、より多くの女性に機会を提供したいと常に思っています。その機会を女性自身が認識できているかどうか、そしてキャリアについて話し合いができる環境があるか、または自分の興味、関心やゴールに対して意見を言えるかどうかというところに大きな違いがあると思います。日本の女性にはより自らのキャリアゴールについて声をあげて欲しいと思います。
-その違いをふまえ、ジャパン社の今後の課題とは何でしょうか?
ジャパン本社において女性管理職のパーセンテージは43%ですが、店舗を率いるフィールドチームの女性管理職のパーセンテージは現状17%です。まずそこに私たちが取り組むべきチャンスがあります。2020年までに20%までに引き上げることを目標としています。しかし、ただ女性管理職の数を増やすということだけでなく、彼女たちのキャリアをどう向上することができるのか、どうやって能力を開発することができるのかについて深く考えていきたいと思います。
自分自身もロールモデルとして良き道標になりたい
-女性のキャリア向上への取り組みを進める上で、ノーランさんご自身が素晴らしいロールモデルだと思いますが、ギャップジャパン代表取締役就任までの経緯とは?
私は25年前、Gapの店舗でキャリアをスタートさせました。顧客としてGapでのショッピングを楽しんできましたし、何よりリテール業界に興味があったのです。その後サンフランシスコの本社において様々な部署で役職を経験しました。
Gap Inc.が常に女性に多くの機会を提供していることは有名でしたし、ここでキャリアを積むことができたことを誇りに思っています。私には最終的にアメリカ以外でもブランドを運営したいという夢がありました。そして数年前このチャンスを手にすることができたのです。今まであらゆることをやってきましたが、私が何かやりたいと手を挙げれば、会社は常にそれに応え、チャンスを提供してくれました。
-なるほど。こうして現職になられたわけですね。
私は自分のキャリアストーリーをできるだけ多くの女性社員に話すようにしています。社内はもちろん、社外で出会った女性たちにも、私の経験が彼女たちのキャリア形成のヒントになればと願っています。私自身素晴らしいロールモデルに恵まれてここまでやってきたこともあり、これから管理職を目指す人たちの良き道標になりたいと思っています。
カタリスト・アワード受賞で評価されたGap Inc.の取り組み
-最後に2016年カタリスト・アワード受賞 (*注)についてお聞きかせください。
今年3月にニューヨークで行われた2016年カタリスト・アワード会議でのディナーに出席しました。長年Gap Inc.に務めてきましたが、改めてこの会社の素晴らしさを実感することができました。注目されているキャリアモビリティ(キャリアの可動性)についてですが、これは女性のライフステージの変化に合わせてどのようなキャリアパスを歩んでいくことができるのか、今後もしっかりと体制を整えていきます。また、Gap Inc.の賃金平等性についての取り組みや、柔軟性のある職場環境づくりを実施している点が、カタリストから評価を得た理由だと思います。
さらに私たちは“P.A.C.E.(Personal Advancement & Career Enhancement)”という個人の成長とキャリア向上を目的としたプログラムを行っています。これは縫製工場で働く女性に向けたプログラムです。世界各国にあるGap Inc.の契約工場の従業員は80%が女性です。我々は、彼女たちに対して教育と共に生活のスキル、技術研修などを提供しています。これまでに3万人の女性がこのプログラムを受け、2020年までに100万人の女性にこのプログラムを提供することを目標に掲げています。
-本当に幅広い活動を通して、雇用環境の向上に尽力されているのですね。今日はありがとうございました。
1969年の創業以来、男女や人種の平等性を掲げ、より良い労働環境作りを推進してきたパイオニアであるGap Inc.。しかしそのことだけにとどまらず、時代に合わせて様々な取り組みを積極的に続けています。こうした活動が、より多くの人々が幸せなキャリアライフを築くための大切なきっかけとなっていくのでしょう。
※カタリストとは?
Catalyst(カタリスト)
カタリストは1962年に創立され、職場のインクルージョンを通じて女性の活躍推進をグローバルにリードする非営利組織。1987年以来、職場や世界においてインクルージョンを推進し、成果を上げた企業の革新的なイニシアチブを「カタリスト・アワード」として毎年表彰。