(kate spade new york 銀座店)
前編から続く、ケイト・スペード ジャパン社長・柳澤綾子さんへのインタビュー。フレックス制度のほか、ユニークな取り組みを通して、ワークライフバランスの取れたキャリアライフを提供していることが明らかに。
スタッフの声を組み上げたケイト・スペードの制度づくり。
−ケイト・スペード ジャパンでは女性スタッフの比率はどのくらいでしょうか?
89%です(女性362名/男性45名)。女性が出産や結婚などで人生が変わるのはリアリティとしてあると思います。こうした背景をふまえ、ケイト・スペード ジャパンになってからHRもスタートしました。そこでまず、社内のスタッフに「フレックスかハッピーフライデー(金曜日は午前のみの出勤とする)、どっちが良い?」とアンケートをとったところ、11時〜16時の固定で働くフレックス制度を支持する声が多く、制度化することになりました。
出産、育児をする女性社員にとって、そこまで培ったキャリアを潰す権利は会社にないと思っていて、培ったものをしっかり活かしてあげられるように、みんなでサポートし合うことを前提としています。その一環として、お子さんが6年生を卒業するまで時短が取れるようにしています。また銀座店では、シフトに拘束されずに短時間だけ働くママプロジェクトも実施しています。
−12歳までですか。それは女性スタッフにとっては心強いですね。
フレックス制度はもちろん男性社員もすごく利用していて、エグゼクティブチームでもいますが、「ご飯当番だから帰ります」って帰る人もいれば、独身の女性でも病院が空いている朝のうちに寄ってから出社したり、会社帰りにエクササイズや習い事行ったり、いろんな使い方をしていますね。
−それぞれライフスタイルに合わせて働けるということは、ワークライフバランスにつながりますね。
そうですね。それはすごく感じます。チームで夜ご飯を食べ行くために17時頃退社するチームもあったり。そうすると明るいうちからチームで楽しめて嬉しいですよね(笑)。
弊社は、Great Place to Work(以下、GPTW)という世界最大の従業員意識調査に参加しています。それまでは自分たちで作成したアンケートで調査していましたが、GPTWの結果として、本社でも店舗でも、スタッフのブランド愛が強い、協力的である、あったかい雰囲気があるということ、また多様性を認めるという項目がハイスコアであることがわかりました。それがスタッフの声として出てきたというのが、嬉しい結果として受け止めています。もちろんまだまだ努力しなきゃいけないところもあると思いますが。
「販売員はお客様のミューズ」。IT化が進む中でブランドが大切にしていること。
−今後会社として注力していきたい分野、部門などはありますか?
オムニチャンネルの強化は今後もしていきたいと思っています。ケイト・スペードのオンラインビジネスもこの6年間で急激に成長しています。 たとえば、銀座店のお客様に何を見てうちに来たのかをお聞きすると70%以上の方がオンラインをまずチェックしてからご来店されているのです。eコマースの売り上げもマーケットアベレージよりかなり高いという数字が出ているなかで、オンライン/オフラインに関係なく、“ケイト・スペードらしい”わくわくするようなショッピング体験を提供できるように、またお店からオンラインに、またはオンラインからお店に行ったりという流れもきちんと作っていきたいですね。デジタルとファッションリテールに興味がある方とこれから一緒にビジネスに携わると面白いのではと期待しています。
(kate spade new york 銀座店)
−やはりIT化が進んでいる会社ほど今伸びていますよね。
そうですね。それは本当にそう思います。一方でやはりリテールのバリューをあげることも大切だと思っています。私たちは「ミューズプロジェクト」というものをキックオフしていて、お店のスタッフをストアアソシエイトではなく、ミューズと呼んでいるんです。ミューズたちはお客様のミューズでなくてはならないですし、常にお客様をインスパイアする存在であってほしいのです。商品を買いに来るわけではなくてミューズ達に会いに来るっていう関係を作りましょうと。だから長期的なお客様との関係性を構築することを前提にしていて、一部店舗ではすでに結果も出てきています。
−ファッションアドバイザーだとか、コンシェルジュとかいろんな呼び方しますけど、ミューズというのは初めてお聞きしました。
そうですね。でもよく考えると、この人がいるからこのお店に行こうと思うことってありますよね。信頼できる人にアドバイスや、インスピレーションをもらいに。わかりやすいのが美容師さん。美容師さんの勤務先の美容院が変わるとお客様もその美容院に移る、というケースってありますよね。そういう人間的な関係性の構築をすることによってITではできないリテールのバリューを高めていきたいと思っています。
すべての人生に寄り添えるライフスタイルブランドへ。
−フレックス制度にミューズプロジェクトなど、スタッフが働きやすい環境作りを徹底していらっしゃいますね。ほかにも御社ならではのユニークな制度はありますか?
オフィスでは、シニア層に向けて組織コーチングを実施したり、各自が自分の強みを理解し、それを生かしてリーダーに成長してほしいという思いから、自身の成長の促進をするための制度、例えば360度フィードバックやリーダーシップトレーニングを積極的に行ったり、オフィシャルなメンター制度などを行っています。
オフィス、ショップスタッフ含めて、通称「いいねカード」と呼ばれているcore value card配布の実施もスタートしました。この「いいねカード」は、11項目ある会社のコアバリュー(Creative、Collaborative など)を体現した素晴らしい行動や発言をした人に対し、当てはまるコアバリューの書かれたカードにコメントを記入して渡す、というものです。部署やオフィス、ストアといった壁を取り払い、クロスファンクションで、各々の良いところを認め、称賛するカルチャーの醸造を目的としています。
−では最後に、今後の展望についてお伺いできればと思います。
ウィメンズ、メンズ、チルドレン、ホームという4つの柱を確立させ、それに伴ってライフスタイルブランドになっていくことですね。ライフスタイルブランドとは、たとえば23歳から91歳の人生までに寄り添えるようなブランドだと思います。
特に女性は人生の中でさまざまな変化を経験すると思いますが、その彼女が何歳になっても、わくわくし、あってよかった、素敵と思える商品、その時々の暮らしを豊かにしてくれるアイテムが見つかるようなブランドにしていきたいと思うのです。「ケイト・スペード」といえばハンドバッグがメインであって、もちろんそれがコアな商品であることは変わらないと思いますけど、より幅広いアイテムを提案し、ライフスタイルブランドとしての地位を確立していきたいと思います。またマルチジェンダー化していく中で「ジャック・スペード」をより強化していく計画もあります。まだ見たことのないビジネスに対してすごく興味のある方々とともに仕事をしていくことができたらと思います。
−ありがとうございました!
ウィメンズビジネスが好調ななかで、メンズやチルドレン、ホームといったジャンルの強化、さらにオムニチャンネルにも注力するということで、さらなる飛躍が期待できるケイト・スペード ジャパン。その成長を遂げていくなかで大切となるのは、やはり徹底したスタッフの働く環境への配慮だということを、柳澤社長のヴィジョンから伺うことができました。これからの展開が楽しみなブランドです。