転職回数が増えてしまうと、やはりその後の転職活動にあまりよい影響を与えないもの。今回のご質問を頂いた方は、転職を重ね、職務経歴が長くなってしまったので、出来る限り短くまとめたい……と考えたようです。例えば、試用期間内など、短期間で退職したものに関しては、履歴書や職務経歴書上に書かなくても問題はないのでしょうか。
今回もファッションと法律を考えるWEBサイト「FASHIONLAW.JP」メンバーである弁護士の河瀬季さんに、法の専門家の立場からアドバイスをいただきました。
「採用後に懲戒されるリスク」「採用前に発覚して不採用となるリスク」は別の問題です。採用後のことだけを考えれば、少なくとも原則的には書かなくても法的には問題ありません。ただ、採用前に発覚したら、それを理由に不採用とされても文句は言えません。
試用期間中に退職した経歴は職歴に記載しなくても大丈夫?履歴書への虚偽記載にあたるケースとは。
履歴書への虚偽記載は、犯罪や懲戒事由にもなり得る
求職活動の中で企業に提出する履歴書や職務経歴書は、自分の正しい履歴を記載するためのものです。ここに虚偽の記載を行うと、たとえ採用されたとしても、発覚時に懲戒事由としてクビになってしまう可能性がありますし、最悪の場合は、虚偽記載を行ったことが私文書偽造罪などの犯罪に該当する…ということも、あり得ないとは言えません。
ただ、ここでいう虚偽というのは、相当に悪質なケースのことです。「弁護士でないのに弁護士と名乗る」「アパレル業界での経験が一切ないのに華麗なMD経験の職務経歴をでっち上げる」など、悪質な詐称を行えばクビや逮捕の可能性がありますが、例えば「他の部分は全て正しいが、試用期間中に辞めた会社についてのみ書かない」というように細かな点であれば、「クビ」「犯罪」というような話にはなりません。
過去の裁判では、
- その会社から見て、採用段階で発覚していたとしたら、採用しなかったか、少なくとも同一条件では採用しなかったと判断するような詐称で
- 客観的に考えても、その判断が相当だといえるようなもの
の場合に限って、経歴詐称が懲戒事由に該当する、と判断したものなどがあります。一言で言えば、「重要」な点を偽った場合だけという感じです。
実際、ハローワークなどでは、「試用期間中の退職については書かなくて良い」という指導を行っているケースもあるようです。これは、「試用期間中の退職」は、あってもなくても重要ではない、という判断でしょう。
ただし、一応補足しておくと、何が重要か、というのは、具体的ケースによって異なるものです。たとえば、試用期間中の退職を何度も繰り返している人の場合、会社は、そのことを知っていたら採用しなかった(そしてその判断は客観的にも相当である)、と言えるケースもあるかもしれません。「試用期間中の退職は重要か」というのは、一概には答えられない問題で、あくまで、一般的には重要でない、ということです。
採用前に発覚して不採用になることはあり得る
したがって、少なくとも多くの場合は、試用期間中の退職について伏せたまま求職活動を行い、一度採用されてしまえば、もし後で発覚しても懲戒事由にはなりません。…もちろん、「発覚して社内で気まずくなる」というような問題は別論ですが。
ただ、これはあくまで採用後の話です。
採用前の段階では、企業は、その人を採用するかどうか、少なくとも原則的には自由に判断することができます。「自由に」というのは、「どういう理由/基準で採用/不採用を決めても良い」ということです。「業界のことを知らなさすぎる」「面接で話して社風に合わないと思った」といった理由/基準でも構いませんし、「些細な点であれ、嘘をつく人は信用できない」という理由/基準でも構いません。つまり、採用前に発覚してしまうと、それを理由に不採用となるリスクがある、ということです。
では、採用前に「試用期間中の退職」が発覚することはあるのでしょうか。
保険制度などに関わるため詳細は割愛しますが、答えとしては、少なくとも原則的には、発覚しません。社会保険の基礎年金番号や雇用保険の雇用保険被保険者番号が分からない場合、採用後に会社を通じた手続の中で(試用期間中の退職を含む)過去の職歴が発覚するケースはありますが、採用前段階で過去の職歴が会社に発覚する…ということは、基本的にはありません。
ただ、そうは言っても、狭いファッション業界。退職した会社と応募している会社の社員同士が友達で、偶然に発覚してしまう…なんてことも、絶対にないとは言い切れません。そして偶然でも発覚してしまえば、会社はそれを理由として、「自由に」質問者様を不採用とすることができます。試用期間中の退職を、履歴書に正直に書いて不採用とされるリスク、偶然発覚したときに不採用とされるリスク、どちらを選ぶか、という問題です。私見としては、ちゃんと説明できる退職理由があるのであれば、採用後に発覚して気まずくなる可能性も考え、正直に書く方がオススメですが……。
今回お話を聞かせてくれた方
弁護士 河瀬 季さん
コスモポリタン法律事務所(東京・音羽)所属。ファッション・音楽好きの弁護士として、デザインなど知的財産権関連や労働問題を含む、各種アパレル業界関連の法律問題などを手がけている。
※本記事は2015年3月31日に公開されました。
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