一定期間競合他社への転職をされないよう企業側が労働者側に求める「競業避止義務契約」。入社時の誓約書の内容に記載されていたり、実はさりげなく就業規則に書いてあった……という話も耳にします。果たして、こういった契約はいかなる時も有効になるのでしょうか?今回はファッションと法律を考えるWEBサイト「FASHIONLAW.JP」メンバーである弁護士の河瀬季さんとニシムラミカさんのお二人に、法の専門家の立場からアドバイスをいただきました。
仰るとおり、契約と「職業選択の自由」の調整の問題です。転職をしばる契約は、「常に有効」「常に無効」というわけではなく、「合理的範囲でのみ有効」と考えられています。クリアな判断が難しい問題なので、サインせずに済むならしない方が良いですが……。
他社への転職をしばる「競業避止義務契約」
競合他社への転職をしばる契約は、一般に「競業避止義務契約」と呼ばれています。入社時の誓約書でサインを求められる場合や、就業規則に書いてある場合、在職中にサインを求められる場合、退職時にサインを求められる場合……と、様々なケースがあります。
こうした契約は、従業員の「職業選択の自由」を侵害し得ることから、制限的にのみ、その有効性が認められています。どういうことかというと、「やりすぎ」な契約の場合、サインをしてしまっても事後的に「あの契約は無効だ(従って効力は無い)」と言える、ということです。
「競業避止義務契約」の有効性
そして、「競業避止義務契約」が「やりすぎ」かどうかの判断は、おおむね以下のように行われています。
- 【目的】その契約によって企業は何を守りたいのか
企業が警戒するのは、自社のノウハウなど「営業秘密」やそれに準ずるような情報が競業他社に不当に漏洩されることです。まずは、その「競業避止義務契約」の目的(何を守るものなのか)を検討します。
そして、これを踏まえて、 - 【地位・職種】従業員の地位
- 【地域・範囲】競業避止の地域的限定があるか
- 【期間】競業避止の存続期間がどのくらいの期間か
- 【範囲】禁止される競業行為の範囲について限定があるか
- 【代償】代償措置が講じられているか
などを考え、競業避止義務が合理的範囲と言えるかを考えます。
専門性の高い職種なら「競業避止義務契約」は有効?
ファッション業界の場合、例えば「ブランド独自の技術を習得したパタンナーが競合するライバル企業に転職し、ライバル企業でその独自技術を使われてしまう……なんて困る!」というケースはあるでしょう。
この場合、
- 【目的】自社のパターン技術を守りたい
という目的で - 【地位・職種】パタンナーという専門性の高い職種の従業員に限定して
- 【地域】全国のライバルブランドで
- 【期間】1年間
- 【範囲】パタンナーとして働く事を禁止する
- 【代償】代わりに奨励金などを支払う
という競業避止義務を設ける
といった契約であれば、おそらく「有効」と言えるでしょう。
しかし、
- 【期間】2年超と長期の存続期間が設けられている
- 【範囲】パタンナー以外の職種に就くことまで禁止されている
- 【代償】報奨金もないし、賃金も他業種と同じであるなど、「代償措置」と言えるものがない
といった要素があれば、有効性に疑いが出てきます。
専門性が低いなら超限定的なもの以外無効?
逆に、販売スタッフなど専門性の低い職種の場合は、競業避止義務の有効性はかなり「怪しい」ものになります。
- 【目的】百貨店内のショップが、同じフロアの別のブランドに顧客を取られたくない
という目的で - 【地域】同じ百貨店の同じフロアの別のブランドに限定して
競業避止義務を設ける
といった超限定的なものでない限り、そう簡単に「有効」とは言えないでしょう。
可能ならサインしない方がベター
ただ、上記の通り、「競業避止義務契約の有効性」というのは、なかなかクリアな判断が難しい問題です。一度サインをしてしまった後、転職の際に、転職先企業の人事担当者に「前職で競業避止義務を負っていますか?」と聞かれ、「サインしてしまいました、しかしあの契約は無効だと思います」と答えたとして、「ならば問題ない」と判断して貰えるでしょうか。
在職中や退職時にサインを求められた場合は、可能な限り、専門家に相談するなどしながら
- 【地域】 4.【期間】 5.【範囲】 について、地域的制限や禁止される期間、範囲を限定的にして貰う
- 【代償】について、十分な代償措置を求める
といった交渉を行い、納得した上でサインをした方が良いでしょう。
※2014年7月15日に公開
今回お話を聞かせてくれた方
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