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意図していないのに、つくったら非常に酷似した商品を発見!コピーの意思はないが罪は問われる?【ファッション・ローQ&A】

大手メゾンブランドから、国内アパレルブランドまで様々な法律の問題が取り上げられている昨今、様々な角度から「Fashion Law(ファッション・ロー)」の必要性が問われています。

知的財産権、著作権、労働者の抱える問題など、様々なファッション業界においても切り離せない「法律」について、ファッション分野に特化した山本真祐子弁護士に解説していただく「ファッション・ローQ&A」。ユーザーから寄せられた質問に、山本弁護士にお答えいただきます。

国内アパレル企業で、企画・生産を担当しています。いろいろなものからインスピレーションを得て従事していますが、先日全く意図していないのに自分がつくったものに非常に酷似した商品が大手ブランドにて売っていました。近年、コピーの問題が増えているなか、コピーの意図なくつくった商品だとしても、その罪は問われるのでしょうか?

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「罪に問われる」とは?

「罪」とおっしゃっているので刑事責任(懲役及び罰金等の刑事罰)のことをご質問いただいているようにも思いますが、以下では念のため民事責任(販売等の停止、損害賠償等)についても解説します。なお、刑事責任については、所属されている企業と、ご相談者様ご自身の双方について問題となりますが、民事責任については、その企業の商品として販売等している以上は、事実上所属されている企業の責任となります。

コピーの意図がなくとも「刑事責任」を問われる?

洋服のデザインのコピーに関して刑事責任が問題になり得る法律は,以下の5つです。(※1)

・不正競争防止法2条1項3号(形態模倣)

:5年以下の懲役、500万円以下の罰金(不正競争防止法21条2項3号)

・著作法

:10年以下の懲役、1000万円以下の罰金(著作権法119条1項)等

・意匠法

:10年以下の懲役、1000万円以下の罰金(意匠法69条)、5年以下の懲役、500万円以下の罰金(意匠法69条の2)

・商標法

:10年以下の懲役、1000万円以下の罰金(商標法78条)、5年以下の懲役、500万円以下の罰金(商標法78条の2)

・不正競争防止法2条1項1号

:5年以下の懲役、500万円以下の罰金(不正競争防止法21条2項1号又は2号)

もっとも、上記の罪については「故意」がある場合にしか問われません。そのため、コピーの意図がないご質問者様のケースで、刑事責任は問われません。

(ただし、その「大手ブランド」のデザインがあまりにも有名であるような場合や、細かいところまで似過ぎているような場合には、「コピーの意図がなかった」といっても信用してもらえない可能性があることには注意が必要です。)

コピーの意図がなくとも「民事責任」は問われる?

刑事責任とは異なり、コピーの意図がない場合でも、民事責任を問われる可能性はあります。洋服のデザインのコピーに関して民事責任が問題となり得る法律は、刑事責任のところで挙げた法律と同様です。

以下で具体的に説明します。

1.「不正競争防止法2条1項3号(形態模倣)」

他人の商品形態を模倣した商品の販売等を取り締まる法律です。「模倣」という言葉のとおり、コピーの意図をもっている場合が対象になります。そのため、今回のご質問者様のケースは対象外になり、民事責任を負いません。(ただし、その「大手ブランド」のデザインがあまりにも有名であるような場合や、細かいところまで似過ぎている場合に、別途独自にデザインしたことを立証できない限り「コピーの意図がなかった」と信用してもらえない可能性があります。)

2.「著作権法」

著作権は、典型的には絵や彫刻といった美術品を保護する権利なので、工業製品である洋服のデザインに著作権が認められるのか?という点には議論があるところです。このあたりは最近特に議論が盛り上がっているのですが、今回は深入りしません。

いずれにせよ、著作権侵害となるのは「依拠性」、つまりコピーの意図がある場合に限られます(※2)。そのため、今回のご質問者様のケースは著作権侵害の民事責任を負いません。(ただし、その「大手ブランド」のデザインがあまりにも有名であるような場合や、細かいところまで似過ぎている場合に、別途独自にデザインしたことを立証できない限り「コピーの意図がなかった」と信用してもらえない可能性があることは、先ほどの形態模倣の民事責任と同様です。)

3.「意匠法」

新規のデザインを作り出した人は、意匠権を取得できる可能性があります。意匠権はだまっていて取得できる権利ではなく、きちんと特許庁に出願して、「新規性」(※3)等諸々の要件をくぐり抜けた上で特許庁に登録されてはじめて取得できます(登録意匠はここで見ることができます)。登録されると、登録時から20年間そのデザインの製品の製造・販売等を独占できることになり、コピーの意図があるかどうかに関わらず、意匠権侵害の民事責任を問えます。

そのため、ご質問者様のケースでも、その「大手ブランド」が問題となっている商品のデザインについて意匠権を取得している場合には、意匠権侵害として民事責任を負う可能性があります。ただ、洋服の場合、ライフサイクルが短い、デザイン数が多い、意匠出願をする前に展示会等で公開してしまって「新規性」がなくなってしまっているケースが多い等といった理由から、意匠権が取得されている確率は低いです。

4.「商標法」

商標権は、基本的にブランド名やロゴ等を保護する権利で、特許庁に出願して、登録されることで取得できます(登録商標はここで見ることができます)。この説明からすると「洋服のデザインには関係ないのでは?」と思われると思いますが、実は「その種の商品として予測し得ない非常に特徴的なデザインである」とか、「とても有名なデザインだから、そのデザインを見れば、そこのブランドのものか分かる」といった場合には、例外的に商標権を取得できる可能性があります。そのようにして登録されている代表例としては、エルメスのバーキンバッグ(登録第5438059号)が挙げられます。

また、地模様についても、上記と同様の事情があれば商標権を取得できる可能性があります。例えば、ケイトスペードの柄(登録第5012990号)が登録されています。商標権についても、意匠権と同じく、コピーの意図があってもなくても商標権侵害の民事責任を問われる可能性があります。そのため、ご質問者様のケースでも、相手方が問題となっている商品のデザインについて商標権を取得している場合には、商標権侵害として民事責任を負う可能性があります。

5.「不正競争防止法2条1項1号・2号(周知著名商品等表示)」

相手方が4記載の商標権を取得していなかったとしても、有名なデザインをコピーの意図なく使ってしまった場合には不正競争防止法2条1項1号・2号(周知著名商品等表示)で規制される「不正競争」であるとして、民事責任を負う可能性があります。

例えば、「バーキンの形をみれば、エルメス社のものだと思う」というように、あるデザインがだれかのものとして有名である場合には、商標権がなかったとしても「不正競争」になってしまうのです。そのため、ご質問者様のケースでも、「大手ブランド」のデザインが有名で、「このデザインといえばあそこのだよね」といった状態になっている場合には、コピーの意図があってもなくても不正競争であるとして民事責任を負う可能性があります。

なお、「故意又は過失」がない場合には、民事責任のうち、損害賠償責任は免れます(逆に、販売停止等の責任は故意又は過失がなくても免れません)が、意匠権侵害、商標権侵害については過失があったものと推定されてしまう規定があり(意匠法40条、商標法39条)、これを覆すことはなかなか困難です。また、不正競争防止法2条1項1号の「不正競争」については、過失の推定規定はありませんが、有名なデザインであれば、「調査をすれば他人の有名なデザインであることは容易に分かったはずである」等として、「過失」があるとされるケースがほとんどであるように思います。

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民事責任を負うリスクを防ぐためには万全な事前準備が必要

以上をまとめると、①デザインが意匠登録又は商標登録されている場合、②登録されているかどうかに関わらず有名なデザインである場合、③コピーの意図がなかったと信用してもらえない程度に似ている場合であって、別途独自にデザインしたことを立証できない場合には、たとえコピーの意図がなかったといっても民事責任を負う可能性があります。

ただ、既に申し上げたように、洋服のデザインが意匠登録されていることのほうが少ないです。また、商標登録されるような有名なデザイン、不正競争となってしまうような有名なデザインについてはそもそもご質問者様も知っていることが通常でしょうから、「コピーの意図がなかった」というケースでコピー対象が有名なデザインであることは少ないでしょう。

したがって、実際のところは、コピーの意図がない場合に民事責任を負うリスクは高いとまではいえません。もっとも繰り返しになりますが、万全を期すためには、意匠登録又は商標登録がされていないかの事前調査を行うことが必要です。

※1 企業の刑事責任については、別の条文があるのですが、ここでは割愛します。
※2 他人のデザインの存在を知っていたが、コピーする意図はなかった(意図していなかったが、知っていたが故に無意識に似てしまった)というケースの取扱いについては諸説あるところですが、細かい議論であるため本稿では説明を割愛します。
※3 既に一般に知りうるところとなった意匠や、それと形状の似通った意匠について、意匠権を与えないための要件です(田村善之『知的財産法 第5版』(有斐閣・2010年)367頁参照。)。

今回お話を伺った方

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山本真祐子弁護士

弁護士法人内田・鮫島法律事務所アソシエイト。デザイン・ブランド関連を中心とする知財法務を行っている。2015年、クリエイティブな文化活動を支援するために専門家NPO「Arts and Law」のメンバーを中心とするプロジェクト「Fashion and Law」に参画。執筆論文に「Fashion Law~不正競争防止法2条1項3号によるアパレルデザインの保護~」(特許ニュース2015年12月11日号、溝田宗司弁護士との共著)がある。

 

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