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赤い靴底はルブタンだけのもの?「ファッション・ロー 〜ファッションの法的保護の現状・課題と将来の展望〜」レポート

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K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院では、知的財産マネジメントと経営管理の修士を取得できる学びの場を提供しています。さまざまなプログラムの一環として、第一線で活躍する専門家に出会える場として人気を集める、K.I.T.プロフェッショナルミーティングが定期的に行われています。先日、同院がファッション・ローをテーマに、ファッションデザインを巡って守られるべき知的財産とは何か、そして法的整備の課題について取り上げるセミナーを開催しました。内容を一部抜粋してご紹介いたします。

第一部は「ルブタン商標にみる色と商標」、第二部は「ファッションデザインは著作物か?-日米欧における現状と展望」、第三部は「ファッションデザインの模倣問題」についてそれぞれのエキスパートが登壇しました。

赤い靴底は「クリスチャン・ルブタン」だけのもの?

第一部は「ルブタン商標にみる色と商標」について、金井倫之・弁理士による、事例を交えながらファッション業界における「色」の機能についてのレクチャーが行われました。

デザイン性の高いシューズで多くの人々を魅了する「クリスチャン・ルブタン」。靴底に彩られた艶やかな真紅のカラーは「レッドソール」と呼ばれ、赤い靴底を見れば、多くの人はそれが「クリスチャン・ルブタン」の靴であると認識するでしょう。しかし一方で、ファッション業界において色(特に単色)は、装飾的かつ美的な機能を持っています。商標として保護されるか否かはブランドを識別するための要素として機能するのかどうかがポイントだと金井さんは言います。

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ルブタン社は、アメリカで2007年に、ヨーロッパで2007年から2010年(EUTM)にかけて、そして日本では2015年にレッドソールの商標登録を出願し、アメリカ、ヨーロッパではその後に登録されました。しかし日本では現在のところ登録には至っていません。現在、特許庁においてあくまで商品の魅力向上等のために付された色彩として認識されており、商品の出所を表示するものではないという判断がされているからです。

こうした動きが見られるなか、2012年、ルブタン社により靴本体と靴底に赤を施した商品を発表したサンローランに対して、商標権侵害等を主張した裁判がアメリカで行われました。争点は装飾的機能として赤色を選んでいるかどうか。被告側のサンローランは、赤色は装飾的/機能的であると反論。アンケート結果などからルブタンの商標の強さが認められ権利の有効性が確認されたものの、靴底を含めて全体が赤い靴(単色)については権利行使を認めず、あくまで靴底と上部がコントラストをなしている場合にのみ権利が及ぶと限定されました。一方、EUでは現在、ルブタン商標の有効性が争われている最中です。

日本ではこれから先、ルブタンが主張する商標は認められるのでしょうか。色という特別な機能を持つ要素ゆえ、なかなか判断が難しいとされています。今後の動きに注目ですね。

ファッションデザインは著作物と認められる?

第二部は、弁護士の中川隆太郎さんによるファッションデザインの著作権について。

著作権は、一般に、オリジナリティのある表現につき認められます。しかし、実用品のデザインについて著作権を認めるための判断基準については、現在、日本の知的財産高等裁判所でも、主流派と少数派に分かれてしまっているという現状があるのだそうです。

主流派は、ファッションアイテムは実用品であるという側面を重視します。そのため、①デザインがその実用面と分離可能で、かつ、②美的鑑賞の対象となりうるかどうかが問われます。その結果、テキスタイルなど平面のデザインは①も②も認められやすく、オリジナリティのある表現であれば著作物として認められる傾向があるのだそう。しかしドレスデザインのように、実用的機能によって形作られる要素の比重の高い創作物になると、主流派の考えの下では著作物となり得るものが少ないとされているのです。これに対し、少数派はデザイナーの個性が発揮されたデザインであれば、通常の美術作品同様に、著作物だと認めるべきではないかと考えているそうです。

世界に視野を広げても、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなどでもそれぞれの考え方が分かれています。ファッションを産業政策として重要視するフランスはデザインを広く保護する考え方(日本の少数派と似た考え方)を採用している一方、歴史的に欧州のファッションデザインを取り入れることの多かったアメリカでは、ドレスデザインについてはほとんど著作物であると認めないなど、国の産業政策も著作権に関する考え方に影響を与えるひとつの背景となることもあり、デザインの著作権による保護のあり方はまちまちなのが現状だそうです。

日本は今後どのような産業政策を採用し、ファッションデザインと著作権の関係をどう考えていくのか、まだまだ先が不透明な状態だと中川弁護士は指摘します。

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いわゆる”パクリ問題”の対応策とは?

第三部はファッションデザインを守る法律、権利について、弁護士の山本真祐子さんが登壇しました。

ファッションデザインを守る法律・権利としてあるのが、まずは意匠権。特許庁に出願をしなければ取得できない権利であり、新しいデザイン(公表から6ヶ月以内)であって、既存のデザインからは簡単に作れないものであること等が必要です。そして、保護期間は登録から20年となります。偶然の一致も含めて保護されるそうです。

もう一つは形態模倣規制(不正競争防止法2条1項3号)です。登録は不要で、条件を満たせば自動的に保護されますが、日本国内で販売された最初の日から3年しか保護されませんし、偶然の一致の場合は保護されません。実質的同一のデザインについて販売差し止め、損害倍賞等を請求できるというものです。

ほか、著作権、周知・著名商品等表示(不正競争防止法2条1項1号・2号)、商標権といった法律・権利があり、商品の特性等に合わせてどれが合っているかが変わるそうです。

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今回のイベントでは、ファッションデザインを守る際に活用されることが多い形態模倣規制について、詳しい説明がなされました。会場が特に注目を集めたのは、どの程度デザインが似ているとアウトなのかという点でした。山本弁護士は、いくつもの事例を挙げながら、共通点と相違点がどれくらいあるのか、共通点がどのくらい創作的であるのか(ありふれたものでないか)、相違点はどの程度些細なものか、などという点を総合的に検討し、判断が下されると言います。そして、模倣の責任を問う側は、相手方商品と自社商品の共通点について、事前に先行商品をリサーチしたほうがよいとの指摘がされました。

ファッション業界の法律の必要性

私たちが働くファッション業界には、デザインという、個人またはチームが力を発揮して生み出す創造物(=商品)が身近にたくさんあります。しかし、残念ながらそのデザインの権利が誰のものなのか不透明な部分も多く、保護が不十分な点があるのも事実です。

今後、より議論が進んで法的な整備がきちんとなされ、デザイナー、クリエイターの創造性が適切に守られていくといいですね。業界で働く誰もが、それぞれがきちんと創作物に対するリスペクトを持つことも大切なのではないでしょうか?

(Text :Etsuko Soeda / Photo :K.I.T.虎ノ門大学院)

今回お伺いしたセミナー主催者

KIT

K.I.T.虎ノ門大学院

2016年4月からイノベーションマネジメント研究科がスタート。「MBA」「知的財産マネジメント」の修士号が1年で取得できる社会人大学院。キャンパスは虎ノ門駅から徒歩8分。

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