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接客販売職にとって大事な『シンプルなこと』|元ラグジュアリーブランド人事責任者・青栁伸子

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最近、接客販売に携わる方々との女子会を企画して、楽しい時間を過ごしました。ゲストの一人は接客販売一筋で店長経験もある方、もう一人は接客販売のスタッフからスタートして店長としても経験を積み、その後トレーナーとして主にマネージメントや販売スキルなどを教えている方です。二人とも私の尊敬するプロで話題も豊富、大変に盛り上がった女子会になりました。

お食事とおしゃべりを楽しみながらの四方山話の中で、いくつか心に残ったヒントがありましたので、今回はそれを皆さんと共有したいと思います。一つ一つは決して難しいことではありませんが、忘れてしまいがちなことでもあります。このコラムを読んで「あ、そうそう、気をつけなくちゃ」と思っていただければ幸いです。

今回のコラム執筆者

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合同会社NOBuコンサルティング|青栁 伸子さん

東京都生まれ。人事・総務・ITを専門分野とするコンサルタント。日系企業、日系ベンチャー企業での人事経験を経て、1999年にラグジュアリー・リテール業界へ転身。エルメスジャポン、ボッテガ・ヴェネタジャパン、フォリフォリジャパンの各社で人事・総務部門の責任者として、人材育成・組織開発・制度設計などにあたる。同時にビジネスパートナーとして、経営陣に対して人事的な側面からのサポートを行い、会社の業績向上にも寄与。特に接客販売職の「専門職」としての地位確立、処遇の改善、女性が無理なく永く働ける環境づくりなどに注力。2015年にコンサルタントとして独立。

1) 朝自宅を出る前にした方が良い事

出勤前の準備の中に、もちろん身支度を整えたりお化粧をしたり、があると思いますが、毎日必ず「鏡に向かって最高の笑顔を作ること」もしていますか?

前の日に何かトラブルがあったり、ついお友達と盛り上がって飲みすぎてしまったり、ちょっとどんよりした気分の朝は、身支度中もその気分を引きずっていると思います。そのまま出勤してしまうと、大事な仕事の場でも何となくどんよりした一日を過ごすことになります。

そんな時には、と彼女達から習ったのが「鏡の前で最高の笑顔を作る」「作れなかったら、自分の指で口角を上げてでも笑う」ということでした。

彼女たちは最高の笑顔で自分に向かって「今日も一日笑顔で頑張ろうね」と言ってから出勤するそうですが、不思議と一度笑ってしまうと気分もあがるそうです。自分の気分を強制的にでもリセットして笑顔で一日を始める、素敵な習慣だと思いませんか?

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私自身は「今日は表情が硬いなぁ」と思う日は、メイクの手を止めて「表情筋のストレッチ」を一通りします。完璧にメイクをしてからこのストレッチをすると、化粧が崩れてとんでもない事になってしまうので、ファンデーションを塗ったあたりで止めるのがコツです。ストレッチ中は中々面白い顔をしているので、自分の変顔を見てゲラゲラ笑って気分転換にもなります。重たい、嫌な気分で家を出ない、一日のスタートは笑顔で、そのためのちょっとした習慣です。

2) 出勤中の過ごし方

歩きスマホ、していませんか?電車やバスの入口付近に立ち止まって、後から乗車する人を堰き止めていませんか?下車する人のお邪魔になっていませんか?まさか、お化粧はしていませんよね?通勤中に朝ご飯、ということはありませんよね?

先日山手線(東京で最も乗降客が多い路線)で、コンビニのおにぎりとお茶で「朝食」をとっている女性と遭遇して本当に驚きました。朝9時頃で車内もそれなりに混雑していたのですが、まさか立ったままおにぎりを食べ、お茶を飲むという人が居るとは思いませんでした。

もし、この「山手線で朝ご飯」の方が販売スタッフで、この日私がお客さまとしてお店に行って会ってしまったら……。私は回れ右をして店から出ると思います。

販売職は夢を売る仕事です。お客様にワクワクやドキドキ、幸せな気分をご提供する仕事です。その『夢の舞台』に日常は持ち込まないで欲しい、それがお客様の切なる願いだと思います。

ラグジュアリーブランドと言われるブランドでは、店舗スタッフの制服にも神経を使います。店舗の内装やディスプレイする商品と共に、販売スタッフの存在も「ブランドイメージ」を体現するものだからです。私がお客様として、ある素敵な店舗で美しい商品を見ている時に声をかけてきたスタッフが、今朝電車で遭遇した「朝食女子」や「お化粧女子」だったら……がっかりです。

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皆さんの仕事は『夢を売る仕事』、毎日すれちがう方がいつお客様として来店されるかわからない、ということを常に意識しておいてください。女子会メンバーの彼女達も、「顔見知りのお客様に偶然会ってしまうこともあるし、通勤中に特徴のあるお洋服で気になっていた方が、午後店舗にいらっしゃったこともあるし、気は抜けない」「私の場合、研修を担当しているクライアント企業の方と偶然通勤途中に会ったことがあって、それ以来、気を付けるようにしている」と言っていました。

同じ主旨のことが、今朝読んだ新聞に書かれていました(2018年1月7日 朝日新聞朝刊)。書評欄で取り上げられていた「バー サンボア」のオーナーでバーテンダーの新谷尚人さん。いわく「どこで見られてもいいよう、出退勤はスーツで」。

3) 朝の挨拶

開店早々の店舗で買い物をしていると、中番や遅番のスタッフが出勤してくる光景を目にすることが多々あります。雰囲気の良い店、居心地の良い店はこの瞬間にわかります。出社してきたスタッフがきちんと朝の挨拶をするかどうか……。

女子会でもこの話題が出たのですが、最近の若いスタッフの中には「目礼(もくれい)」を知らない(できない)スタッフが居る、とのこと。「まさか目礼って死語になっていないですよね?」「え、どうでしょう。今度若手のスタッフに聞いてみますね」というような話になってしまいました。念のために、目礼とは文字通り「話のできない時や身動きの取れない時に使われる目でする挨拶」のことです。

例えばあなたが出勤した時(すでに開店時刻は過ぎていると想定してください)、先輩のスタッフが接客中だったとします。バックヤードに入るには接客中の先輩とお客様の横を通らなければなりません。最近目にする残念なケースは、足も止めず何も言わずに通り過ぎてしまう、というものです。

「え、だって先輩は接客中だし『おはようございます』なんて言えないですよね」

はい、気持ちはわかります。ただ、お客様目線で考えてみると、出勤してきたスタッフが何も言わずにスッと通り過ぎてしまうと、無視されたような気持になると思いませんか?

ここでお客様に「いらっしゃいませ、ご来店ありがとうございます。お話し中ですのでお邪魔はしませんね」という気持ちをお伝えできるのが「目礼」なのです。先輩にも「おはようございます。ただいま出勤しました。先輩は接客中でいらっしゃいますので、ご挨拶は後ほど」という気持ちを伝えられます。

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私たちの視野は160度ぐらいあるといわれています。例え誰かと向かい合って会話をしていても、話し相手以外の周辺にあるものが案外見えているのです。当然先輩スタッフと話をしているお客様の視野にも、あなたが出勤してきたことは入っています。特に動くものには注意が行きますので「あ、誰か来たわ」とお客様も先輩も気づきます。それなのに目礼も会釈も無く通り過ぎる、かなり失礼だと思いませんか?

接客中なのに「おはようございます」などと大きな声で挨拶をして話の流れを切るのは考え物ですが、お客様の横を無言でスルー、これは止めていただきたいです。先輩社員かお客さま、どちらかが必ずあなたに気づきますので、目線が来た瞬間ににっこり笑って目礼、これで十分あなたの気持ちは伝わりますし、お客さまにも先輩にも失礼にはなりません。この場面での目礼のコツは少しだけ歩くスピードを落とすこと。立ち止まって会釈、になってしまうと結局は接客の流れを止めてしまうことになりますので、あくまでも「通り過ぎながら、でも目で会話」です。

もちろん、先輩とのきちんとした朝の挨拶は先輩の接客が終わってから。その時に「先ほどは接客をされていたので、目礼で失礼しました。改めておはようございます、本日はよろしくお願いします。」という挨拶ができれば良いですね。例では「先輩スタッフが」としましたが、これは先輩に限らず後輩でも同期でも、相手が誰でも同じな事は言うまでもありません。

会釈、敬礼、最敬礼がご挨拶の3段階というのは基本中の基本ですが、その会釈の一つ手前の「目礼」。例えば「大勢乗っているエレベータに乗り込んだら、奥の方に顔見知りが乗っていた」などという時にも使えますので、是非活用してください。

4) 目配りと気配り

朝の挨拶のパートで私たちの視野は160度ぐらいある、と書きましたがこれは顔も目も動かさずに見える範囲なので、少し左右に首を振れば、周囲の相当なものが視界に入ります。上下の視野は上に60度、下に70度と言われていますので、正面を向いた待機姿勢でも、上下左右、相当なものが「見えて」いることになります。

「見えてないんですよね~」
「気付かないんですかねぇ?」という話題。
これも女子会で出たものです。何が見えていないのか、気づいていないのか……

例えばディスプレイのちょっとした乱れだったり、ショーケースのガラス面の汚れだったり。お客様の重そうなお荷物だったり、レジ横に広げられたままのファイルだったり。

多分、見えているとは思うのですが、認識できていないのだと思います。認識するとは「気づく」こと、つまり「あ、ディスプレイが乱れている『から、直さなくちゃ』」「お客様のお荷物が重そうだ『から、お声をかけなくちゃ』」と見た事実を行動につなげることです。

気づくためにはどうしたら良いのか、ただぼ~っと見ているだけでは気づけません。まずは「目配り」、自分の視界で何が起きているか(起きていないか)に意識を集中して視る(観る)ことです。そして気づいたことに「何をすればいいのかを考えて動く(気配り)」。何をしたら良いのかわからない、という場合にはお客様(相手)目線で考えてみると良いかもしれません。

実は「気づかない人にはどうやって『気づいて』もらえばいいんでしょうね?」という悩ましい相談でしばらく席が沈黙してしまったのですが、私たちは「気づいて」しまう人なので、何故気づけないのかわからないのです。気づき方の教育を受けた覚えも無いので、トレーニングでどうにかなるのかしら?という疑問もわきました。

例えば「指紋だらけのショーケースのガラス」を見ても、平気なスタッフもいるそうで「その都度『はい、ここ汚れているから掃除して』と言うのも何だかねぇ、小姑(こじゅうと)みたいじゃない?」「小姑って今の若い世代に通用する?」「あぁ無理かも」と脱線しつつ笑いつつ、ベテラン3人組はため息をついてしまったのですが……。

私たち「気づける」組は意識していなくても、色々な事に気づいて動いてしまいます。自然にそうしているという感覚しかないのですが、ただ、どうやったら「気づける」ようになるか、という話題では

「興味を持つことじゃないかしら?人にもモノにも」

「記憶力も必要じゃない?正しい位置とか美しいフォルムとか、それを覚えていないと違和感を覚えない(何か違うと思えない)でしょう?」

「美意識も必要でしょう?きちんとしていないと落ち着かないっていう感覚」

「あぁ、それは個人差があるから難しくない?でも、ブランドの美意識は教えられるわね。」

「フットワークの軽さも必要よね。お得意の“瞬発力?”」

などなど、尽きることなく話が進みました。そう、気配り・目配りのためには「そうぞう力」も「瞬発力」も必要なのです。

あなたは「気づける」組ですか?もし気づけないタイプで、周囲から指示されることが多いと感じたら、気づける人の行動を良く観察してみてください。

よく観てそれを真似してみると、いつの間にかそれが習慣になると思います。私自身色々なことに気づいて気になるので損だなぁ、と思うこともありますが、気づいてしまった以上そのままに放置はできないので、何かと動くことになります。

これは性分なので仕方がない、とある意味あきらめていますが、小さい事であっても周囲が快適に気持ち良くなるのであれば、悪い事ではないと思っています。

5) お先に失礼します、の時に

接客販売の仕事はシフト制で働くことが通例になっています。中には1シフト(早番も遅番も無く全員同じ時間に出退勤)というブランドもあるかもしれませんが。シフトで働いていると、まだ他のスタッフは仕事中でも自分は勤務終了(いわゆるあがりですね)ということがあります。

自分の勤務時間は終了したからさぁ帰りましょう、のタイミングで、他のスタッフが忙しそうにしていたら「何かお手伝いできることはありますか?」と聞いてみませんか?店長に「お先に失礼します」と挨拶をする時に「帰る前に(明日のために)何かしておくことはありますか?」と尋ねてみませんか?
「大丈夫よ、ありがとう、あがってください」という返事があったら、ではお先に失礼しますと言って、仕事を終わりましょう。例えばその時にバックヤードが備品で乱雑になっていたら、あるべき所に片づけておきましょう。

え~私の勤務時間は終わったんだから、帰っていいんですよね。はい、もちろん勤務が終わったら帰っていただいて結構です。ただ、少しだけ気を配っていただきたいのは、店舗はまだ営業中で他のスタッフは勤務中、中には接客中で誰かの手助けが欲しいと思っている方がいるかもしれないということです。

店舗運営にはチームワークが大切です。スタッフ間の連携が良いお店は、お客様からみても「良いお店」です。私はこの業界に長いので、夕方店舗で買い物をしていてスタッフがバックヤードに行くと「あ、早番のスタッフがあがるのね」と想像がつきます。その時のスタッフ達(帰る人と残る人)の様子を見ていると、その店の実力がわかる気がします。

自分の退勤時刻になったから、と帰り支度をして意気揚々と(本当にこういう態度の方を見たことがあります)、他のスタッフにも店内の様子にもお客さまにも気を配ることなく帰っていくスタッフ、「この人からは買いたくない」と思います。店舗内の空気を乱さないように、そっと静かに目礼をしながら店舗を出ていくスタッフ、「このお店は良い店だ」と思えます。

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出勤時の過ごし方でお話ししたことは、退勤時にもあてはまります。どこにお客様が、未来のお客様がいらっしゃるかわからないと思って、ご自宅に戻るまで程よい緊張感を保ってください。特に帰宅時は疲れていますので気が緩みがちですが、何とか自宅までは頑張ってください。

前にも申し上げましたが、接客販売の仕事は『夢をうる仕事』です。自分の見苦しいところを見られてしまった方に、翌日店舗で遭遇して「あぁぁ~」と恥ずかしい思いをしないように、少し窮屈に感じるかもしれませんが自宅を出てから戻るまでは身を律してください。

細かいことを色々と申し上げましたが、どれも難しいことではありません。小さな気遣い、ちょっとした気配りの類(たぐい)のものです。

ただ、細かいことだからこそ、つい、忘れてしまいがちになる事でもあります。お客さまも含めて気持ちの良い、楽しいお買物の場を作るためにも、小さなこともおろそかにせず、時には立ち止まってわが身を振り返る機会を作ってみてください。

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