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お小言とクレーム顛末記|元ラグジュアリーブランド人事責任者・青栁伸子

以前のコラムで「クレームは怖くない」とお伝えしましたが、私自身がクレーム(お小言)を言う場面がありましたので、何がおきてどんな思いをしたのか、何故それを相手に伝えようと思ったのか、せっかくなのでその顛末記をお伝えしたいと思います。

どの接客現場でも起き得るストーリーだと思いますので、接客販売職の方をはじめ本社勤務の皆様方にも参考になるかと思います。

今回のコラム執筆者

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合同会社NOBuコンサルティング|青栁 伸子さん

東京都生まれ。人事・総務・ITを専門分野とするコンサルタント。日系企業、日系ベンチャー企業での人事経験を経て、1999年にラグジュアリー・リテール業界へ転身。エルメスジャポン、ボッテガ・ヴェネタジャパン、フォリフォリジャパンの各社で人事・総務部門の責任者として、人材育成・組織開発・制度設計などにあたる。同時にビジネスパートナーとして、経営陣に対して人事的な側面からのサポートを行い、会社の業績向上にも寄与。特に接客販売職の「専門職」としての地位確立、処遇の改善、女性が無理なく永く働ける環境づくりなどに注力。2015年にコンサルタントとして独立。

ケース1)それはあなたの(会社の)都合でしょう?──ファストファッションの店舗で

【状況】
その店ではセールを実施していました。気に入った商品(ジャケット)があったので(プライスは6,900円)それを持ってレジに行きました。レジで表示されたのは7,900円。「え?」と思ったところから、一連の騒動(?)が始まりました。
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※画像はイメージです。

私:え、そのジャケット、6,900円でしょう?

スタッフ:あの、えっと、バーコードに登録されている価格は7,900円なんです。セール価格のシールを貼り間違えたのだと思います。

私:でも、その価格のシールを貼ってあるのだから6,900円でしょう?

スタッフ:ですから、コンピュータに登録されているのは7,900円で、シールの貼り間違いなんです。

私:それは、あなた方の事情でしょう?間違いでも何でも、商品のタグに6,900円のシールがあれば私はその値段だと思うし、だから買う気になったの。それ以上払う気は無いわ。

スタッフ:え、でも、この商品は7,900円なんです。

私:タグには6,900円のシールが貼ってあるのに、何故7,900円払わなければならないの?

<ここでスタッフは「少々お待ちください」と言って、レジを離れました。多分フロアの責任者に話をしに行ったのでしょう。10分弱が経過します>

【私の気持ち】
まず、レジで価格が7,900円と表示されたことに驚き、スタッフがそれを「シールの貼り間違い」で通したことに立腹しています。貼り間違い(不手際)を謝らなかったことにも不快感がつのっています。ジャケット自体は気に入っていたので、別に7,900円でも買ったとは思いますが、最初にボタンの掛け違いがあったので、ある意味「意地になって」います。

<スタッフが戻ってきました。待たされている間も、こちらとしてはあまり愉快ではないので、「何が何でも6,900円で買う」気満々?です>

スタッフ:今、責任者に確認してきましたが、やはりこれは7,900円で登録されていますので……セールの準備をしている時に、貼り間違ったのだと思います。

私:いやだから、先ほども言ったように、それはあなた方の都合でしょう?

スタッフ:でも、これは、7,900円の商品なので……

私:あなた方は、ウソをつくわけ?そういう商売をするの?

スタッフ:いえ、そんなつもりは……

私:でも、そうでしょう?商品タグに安い価格を表示しておいて、レジではそれよりも高い金額を請求するのって詐欺じゃない?違うかしら?

スタッフ:申し訳ありません。少しお待ちください

<ここでスタッフ、二度目の退場です。今度は5分ほどで戻りました>

スタッフ:今、マネージャーに確認をしまして、特別に6,900円でお売りすることになりました。

私:それは、どうも。でも、最初からこの商品は6,900円だったと思うけど……

ということで会計を済ませて「二度とこの店には来ない」と心の中で強く思って店を出ました。このブランドの店舗はかなりの数がありますので、この店でなくても私は困らなかったからです。

【私の気持ち】
ジャケット1点の購入に20分近い時間を取られ、そのうえ恩着せがましく、なおかつ(本来のタグにあった金額に)値切ったような言い方をされ、非常に不愉快でした。後日談にはなりますが、実はこのジャケットはまだ一度も着ていません。気に入って購入したのですが、見るとこの時の不快な経験を思い出してしまうので。

『何がまずかったのか、どうすれば良かったのか。この時のスタッフの気持ちになって考えてみてください。あなたならどうしますか?』
コラムの末尾に「こうして欲しかった」「ここが残念だった」をまとめましたので、お客様心理の一例として参考にしてください。ただ、わざわざお断りするまでもありませんが、これはあくまでも「私はこうして欲しかった」という気持ちなので、すべてのお客様が同じよう思われるかどうかはわかりません。とはいえ、クレームになってしまったお客様の生の声を聞く機会は少ないと思いますので、「こう考えるお客さまもいる」という一例としてご活用ください。

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ケース2)こんな大げさなことにしないで欲しかった ──ある高級中華料理店で

【状況】
その店の「飲茶ランチ」が気に入っている私は、知人の誕生日のお祝いに、とレストランの予約サイトから予約をして行きました。知人とは過去にもこの飲茶ランチに行っていて、彼女のリクエストでもあったのです。

その時に、ちょっとした不手際が複数あったので、食事中には何も言わず、予約をしたサイトの「フィードバック・コメント」に『お料理はおいしかったので☆5つだけれど、サービスに難点があったので☆4つ。』と記入しました。何が不手際だったか(以下参照)も、簡単に書きました。

【不手際の内容】
1. そこでは飲茶メニューから好きなだけオーダーできるのですが、3回目に追加オーダーしたものだけ、1点ずつしか出ませんでした。それまでは二人分(2つ)出ていたのに

2. その事(今までは2つだったのに、何故今回は1つなのか?)と聞いたところ、「調べてまいります」と言ったきり回答がなく、結局1点しか提供されませんでした。二人の間で出された料理の微妙な譲り合いになりました

3.  4名用のテーブルに二人で座っていたので、ポットで提供された中国茶までの距離が相当あり、自分でお茶を注ぐには席を立たないと手が届きません。しかたなく席を立ってお茶をつぎましたが、その時もその後もスタッフは全くケアをしませんでした

4. 私たちのテーブルに「ラストオーダーです」と声をかけた後も、すぐ隣のテーブルでは15分以上追加オーダーを受けていました(食事のスタート時間が決められた2時間制のシステムなので、ラストオーダーは全卓一緒のはず)どれも深刻な不手際ではないのですが、ランチであってもドリンクまで含めると一人10,000円近い金額を取る店ですから、おのずとサービスのレベルも要求水準が高くなります。また、過去に訪問した際にはこんなことは無かったので、余計に気になりました。同時に、もしこれが仲の良い知人とのランチではなくビジネスランチだった場合、ホストとしてはヒヤヒヤしますし、ゲストもあまり気持ちよく過ごせないと感じました。

私自身、あまりこういうフィードバック・コメントは書かないのですが、ビジネスユースも多い店なので、店の評判にも関わるのではないかと心配になり、また、店に直接ではなくレストランの予約サイトへの書き込みだったので、あまり強い非難にならないように気を付けて書きました。

【店舗の対応】
フィードバック・コメントを書いて3日後ぐらいに、このレストランの支配人からメールが届きました。「来店へのお礼」「サービスに不手際があったことへのお詫び」「今後の対応策」と、おわび状のお手本のような内容でした。ただ、私が困惑したのは次の一文でした。『挽回の機会をいただきたい(ご指摘をうけたことを改善し、自分たちがきちんとしたサービスをしていることを見ていただきたい)ので、ご都合の良い日のランチにご来店いただけませんでしょうか。』
<こんな大げさなことにしないで欲しかった>とタイトルに書いたのは、この一文がとても負担だったからです。

【私の気持ち】
「多分ここにはまた飲茶ランチを食べに行くので、その時にはこんな思いはしたくない」「ビジネス客にこんな対応をしたら店の評判に関わるので、気を付けた方がいいですよ~と言っておこう」「テーブル担当のスタッフのサービスレベルに差があるのに、店側(支配人)が気づいていないかもしれないので、ちょっとお知らせしておこう」という程度の気持ちで「お小言」を言っただけだったので、お詫び状が来ただけで十分でした。

支配人からのメールに、「今後はこのような事の無いようにスタッフ一同精進してまいりますので、またのご来店をお待ちしております。」という一文があれば、それで十分でした。私の、多分余計なおせっかいが相手に伝わったことは確認できたからです。

ランチに来てくださいと言われても、誰かを誘って二人で行けば店側にそれなりのコストが発生します。私の「お小言」と「その店の二名分のランチ」は、とても同じ価値には思えなかったのです。また、私はクレームを言って店から何か(金銭とかサービスとか)を引き出すつもりは全くなかったので、そんな質(たち)の悪いクレーマーだと疑われているのか、と少し嫌な気分にもなりました。「私のお小言を受け止めてくれれば、それだけで良かったのに」というのが正直な気持ちでした。

【顛末】
ランチの申し出を辞退するとかえって店側も落ち着かないだろうと思い、仕事上の付き合いのある、比較的親しい関係の方に事情を話してランチに同行してもらいました。当日は文句のつけようの無いサービスでお料理も美味しく、同行の方にも満足していただきました。私からの店へのお礼のメールにもすぐに返信があり、クレーム対応としては満点だったと思います。

ただ、私はこの「お小言」問題はまだ完結していないと思っています。お詫びランチの日は、クレーマー(?)の私が行くことはわかっていますので、店側も万全の態勢で臨めます。本当に私の「お小言」に店側が真摯に対応し、サービスの不手際を見直してスタッフへも周知徹底したかどうかは、「私ではない誰か」の予約で(つまりクレーマー来店の予告なしに)飲茶ランチに行ってみなければわからないと思っています。
それがいつになるかはわかりませんが、店側が忘れた頃に行ってみたいと思っています。

『この支配人の対応に問題はないはずですが、何故私は<こんな大げさな事にしないでほしかった……>と思ったのでしょうか。あなたならどうしますか?』

このケースについても「こうして欲しかった」をコラムの末尾にまとめておきました。

まとめ

クレームは怖くない、の回に、クレームは「等価交換」だと書きました。等価以上の要求には毅然としてNoと言いましょう、とも。この中華料理店のケースでは、先方の申し出が私の考える等価交換を外れていた(先方の申し出の方が価値が高かった)ので、居心地が悪かったのです。ただ、この「等価」の感覚は本当に千差万別ですので、どこまで何をするかについてのマニュアル化は難しいかもしれません。

クレームやお小言などのトラブルに遭遇した場合、相手の方との会話を通して所謂「落としどころ」を探る必要がありますが、その意味でも、クレーム対応は対面で(メールや電話ではなく)することがベストだと思います。Face to Faceで話をすることでわかりあえることが多いですし、何よりも同じ空間にいることで仲間意識のようなものを共有できます。顔見知りになってしまうと、顔を知らなかった時よりも強く物が言えなくなる、ということが多いようです。もちろんそうではない方もいらっしゃるとは思いますが・・・

いずれにしても、クレームは怖くありません。誠意をもって真摯に対応することで、大変な思いも少しはするかもしれませんが、必ずあなたの力になる経験ができるはずです。

おまけ

私はこうして欲しかった(ケース1):

1. レジでタグとは違う金額が表示された時点で、まず「大変失礼しました。タグの価格とレジの表示が異なっているようです」という状況の確認と謝罪(金額相違の事実に関して)が欲しかったです。

2. 本来の販売価格がいくらなのか、ということは購入者(私)には関係のない話なので、最初にレジを離れた時点で、フロアの責任者には6,900円で売るための手続きを確認してきて欲しかったです。

3. 最初にスタッフがレジ前を離れた時、10分以上待たされました。セール中でお客さまも多くレジには列ができていましたので、そんな中でレジを一つ占拠(?)している形になる私には、結構冷たい視線が(この人何してるの?的な)浴びせられました。非常に居心地が悪かったです。何でこんなに待たされるの?と思いました。<こちらの手違いで、販売価格よりも安いタグが貼られていました。こちらはタグの価格で販売してよろしいですか?>という確認以外に話すことはないでしょう?と思っていましたので。

4. 最初にレジ前を離れたスタッフが戻った時点で「お待たせいたしました。こちらの商品はタグどおりの金額(6,900円)で販売させていただきます。大変失礼いたしました。」と言って、通常通りのレジ作業を進めて欲しかったです。

残念だったこと:

●タグに貼られている価格シールには関わらず、レジに表示される(コンピュータに登録されている)価格を優先する、という傲慢さ(会社が大事でお客様は二の次)に意識が及ばないスタッフの想像力の無さにあきれました。あなたは誰を見て仕事をしているの?お客さまは誰?と聞きたかったです。

●私をレジ前で待たせた事に対しても、「お待たせして申し訳ありませんでした」というようなコメントはありませんでした。待たされている間のこちらの「居心地の悪さ」が想像できないスタッフの無神経さが残念でした。

●二度もレジ前で待たされましたが、もちろん二度目も「お待たせいたしました。」というようなコメントはありませんでした。逆の立場だったらどんな気持ちがするか、考えられないスタッフだったのだと思いますが、残念ですね。

● 最終的にはタグどおりの金額で販売することになりましたが、その時の態度が「嫌々」という感じでした。価格を変更するレジの操作など、面倒なことが多かったのかもしれませんが、それはこちら(購入者)には関係のない事です。そもそもブランド側のミス(価格シールの貼り間違い)から始まったことを理解していないのかと感じました。

● 「あなたがうるさく言うから6,900円で売ってあげます」、と感じられるような物言いが不快で残念でした。最初から最後までお客様の気持ちを汲む、お客様を大事にするという意識は感じられませんでした。

●もしかしたらこのスタッフはセールの時期だけの臨時のスタッフだったのかもしれませんが、ブランドとして「何かトラブルが起きた場合、お客様第一で物事を判断する」という意識があれば、またそれが徹底されていれば、ジャケット1枚に30分、などという買い物はせずにすんだと思います。

私はこうして欲しかった(ケース2):

1. 本文にも書きましたが、ランチのお誘いは負担でしかありませんでした。等価交換のバランスが崩れると、こんなにも落ち着かない感じになるのだ、ということを身をもって経験し、良い勉強にはなりました

2. ランチの誘いを固辞した場合、どうなったかな?と思うことはあります。店側にたってみると、クレーマー(私)と手打ち?をしていないので、また何かを言われるのでは・・・と不安になるのではないかと思いました。私にとって落ち着かなかった理由もここにあります。店が私をクレーマー扱いしているのでは?という疑いを持ってしまったので、それならば、店側のプランに乗ってしまおう、クレーマーではないですよということを店側にわかってもらおう。それが、ランチの誘いを受けた理由です。

3. 以前あった類似するケース(店が販売したおせち料理にちょっとした瑕疵があった)では、支配人自らお詫びに来られ、代金返金の申し出に加えてその店舗で取扱っているケーキのギフト券(3,000円相当)を頂戴しました。口に入るものを扱う店としては、問題が発覚した段階で代金は全額返金、という対応は正しいものだと思いましたし、私の身内では健康被害などはなかったので、その点はお伝えしたうえで、申し出はありがたく受け取りました。

4. 私に上記のような前例があったので、例えば今回のケースでも「店舗オリジナルの中華菓子の詰合せ」程度のことで良かったのだと思います。ただ、この「等価交換感覚」には個人差がありますので、相手の方とのコミュニケーションが大事になります。今回のケースでもメールではなく電話で話ができていたら、私自身ももう少し違う気持ちになれたのでは?と感じています。

前回のコラムで「そうぞう力」が大事です。とお伝えしたのも、こんな場面での想像力も接客のレベルやお客様の満足度を左右する重要な要素だからなのです。逆の立場(お客様の立場)だったらどうして欲しいか、を常に考えるくせをつけておくと、クレームのような突然の非常事態にも慌てずに済みます。

また、コミュニケーション、それもFace to Faceでのコミュニケーションの大切さも心にとめておいてください。何事もデジタル偏重になっている今だからこそ、ぬくもりのあるコミュニケーションに力がありますので。

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