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キャリアコラム

異業種のプロフェッショナルから学ぶ接客術【2】|元ラグジュアリーブランド人事責任者・青栁伸子

先日のコラムで、プロフィール写真を撮影した時のエピソードを紹介しました。接客販売とは業種は異なるものの、「その道のプロ」達から受けられる体験が、ファッション・アパレル業界で接客販売職に従事している皆さんはもちろん、人と関わるお仕事に就いている皆さんにとってヒントになるのではと思い披露しました。

接客販売ではなくとも、「お客様」と接する仕事をしているプロたちとのエピソードには多くの学べることがあります。今回もちょっとした事故をとおして見ることができた「プロの接客術」についてお話ししたいと思います。

今回のコラム執筆者

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合同会社NOBuコンサルティング|青栁 伸子さん

東京都生まれ。人事・総務・ITを専門分野とするコンサルタント。日系企業、日系ベンチャー企業での人事経験を経て、1999年にラグジュアリー・リテール業界へ転身。エルメスジャポン、ボッテガ・ヴェネタジャパン、フォリフォリジャパンの各社で人事・総務部門の責任者として、人材育成・組織開発・制度設計などにあたる。同時にビジネスパートナーとして、経営陣に対して人事的な側面からのサポートを行い、会社の業績向上にも寄与。特に接客販売職の「専門職」としての地位確立、処遇の改善、女性が無理なく永く働ける環境づくりなどに注力。2015年にコンサルタントとして独立。

「トラブル発生こそチャンス」

7月26日、私は関西空港発のJAL最終便で羽田に戻ってきました。これはその機内で私自身にふりかかった事件(?)をとおして「さすが」と思わせたプロたちのエピソードです。

その日の私の座席は最前列、遅い時刻のフライトでもあり、機材は通路が1列のみのBoeing737-800、160人ぐらいが乗れる比較的こじんまりしたものでした。羽田についてシートベルト着用のサインも消えたので、自分の手荷物を下して通路でドアが開くのを待っていました。

その私の右足のくるぶしを、他の乗客が下した(衝撃の度合いからすると、手を滑らせて落としたに近い)小型のスーツケースが直撃したのです。思わず「痛い」と呻いてしまった私の声を、客室乗務員(以下CA:敬称略)が聞いたことが、一連のできごとの始まりでした。

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トラブルが起きた時の優先順位は「どこに?」と「何に?」

最初に私にかかった声は、「お客様、大丈夫ですか?ひとまず座席におかけください」でした。私の事件がなければ、CAのするべきことは「お客様をスムーズに機外にご案内すること」のはずでした。ところが、怪我人が出た時点で、ほぼ重要度が同じ「するべきこと」が複数発生しました。

1) お客様を機外にご案内する(通路が1本しかないので、往々にして時間がかかります)

2) 通行の邪魔になりそうな、通路に置いてある私の手荷物をどける

3) 怪我人の移送のための車椅子の手配

4) 怪我人の応急処置のための冷却剤の手配

5) 加害者(あえてこう表現します)への対応

6) 地上係員と操縦室への事故の報告

「お客様、大丈夫ですか?ひとまず座席におかけください」と言われて、自分の席に座った時には、すでに1)2)は終わっていました。

いつの間にか私の荷物はギャレー(飲み物などのサービスの準備をするCAの仕事場)に移されて、1)のお客様のご案内はスムーズに行なわれていました。降機(機外へ出ること)をうながすアナウンスも通常通りにされていたと思います(あまりの痛みに記憶が定かではありませんが……)。

そこで彼女たちが優先したのは、実は0)ともいえる「怪我人に自分たちが状況を把握したことを知らせる」だったのです。

この0)の効果は絶大でした。1)や2)が優先されていたら、怪我をしたことでかえって気まずい思いになっていたような気がします。

想定外の事件が発生した時に何を優先するか、優先順位がつけにくいような事が重なった時にどうするか、まさに「とっさの判断」だと思いますが、こういう時の対応でその企業の底力のようなものが見えてくるものです。

接客の現場(店頭)でも想定外の事件はまれに起きると思います。そんな時に、まず優先するべきは何なのか、考えて共有して備えておけば憂いなしです。

まずはお客様を安心させること

次にかけられた声が「青柳様、ただ今、車椅子の手配をいたしました。痛みの程度はいかがですか?折れているような感じでしょうか?取りあえず、冷やしていただくための冷却剤を後方のCAがお持ちします」でした。この間も、他の乗客の降機は続いていますし、乳児を連れたお客様の「ベビーカーを貸して欲しい」というようなリクエストも私の耳には入りました。

ただ、私が心強かったのは「青柳様」と名前を呼ばれたことでした。

足の痛みは増すばかりで腫れてもきましたので、正直立てるかどうか、歩けるかどうかわからない状態でした。そんな不安だらけの時に、きちんと名前を呼ばれたことで、ふっと安心して気持ちが楽になり少し混乱が収まりました。CAは搭乗者名簿をもっていますので、座席番号で私の名前とマイレージのステータス(結構頻繁に搭乗する人、という感じのステータスです)はすぐにわかります。もしこの二言目も「お客様」だったら私の心情はどうだっただろうか、と今になって思います。

また、車椅子と冷却剤を手配していると知らせることで、この先何が起きるのかを私に共有してくれました。ところで私は立てるのか、歩けるのか、歩けたとしても手荷物を持ってどうやって自宅に戻ろうか、最悪の場合タクシーでも良いけれどタクシー乗り場まで歩けるだろうか?などと様々な不安を抱えていましたので、当座の足(車椅子)と痛みに対処するもの(冷却剤)が用意されているという情報は心強いものでした。

接客の現場でも「お客様をお名前でお呼びする」。単に「いらっしゃいませ、こんにちは」ではなく「○○様、こんにちは」とお声がけをすることを重要視しますが、名前で呼ばれる安心感は相当のものがありました。また、何かの事情でお客様の前を離れる時には「○○をしてまいりますので」(例:在庫を確認してまいりますので)と一言添える、というマナーも徹底されていると思いますが、必要な情報をお渡しすることも「安心感」につながります。

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耳に入れなくていい話は小声で、遠くで

車椅子の到着までには少し時間がかかり、私はいただいた冷却剤で患部を冷やしながら、帰り路の心配などをしていました。問題のスーツケースの持ち主は、羽田で乗換えてベトナムに出張するそうで「明日の朝状況を確認したいので電話をして良いですか?」と言われ、お互いの連絡先の交換はしていました。その時点では「骨は折れてはいないけれど、ヒビは入ったかも?」という痛みが続いていました。

その時、ふと耳に入ったのが「飛行機の中で怪我をした場合の責任はJALさんに……」というような話でした。つまりスーツケースの持ち主が「もし私の怪我が重篤(骨折?)だった場合、だれが治療費を負担するのか?」を確認していたのです。

この話がどういう結論だったかは、私は聞いていません。というよりも、その話になった瞬間にCAがこの人をギャレーの奥に案内してそこで話をしていたので、私の耳には話の内容は届きませんでした。私は「加害者はあなた(のスーツケース)でしょ?JALさんには何の過失もないでしょう?」と思っていましたが、どういう結論であれ、あまり聞いて楽しい話ではありませんし、私の耳には入れる必要がない事です。JALの責任にすりかえようとするような発言を聞いていたら、かえって不快になっていたと思います。

たとえネガティブな内容でも、私が当事者として知っておいた方が良い事であればきちんと伝えて欲しいものですが、今回のように「聞かされても……」という話は遠くで小声でするような配慮も時には必要でしょう。

ただ、接客の現場でお客さまから見えるところで何かコソコソ話をしている、話しながら時々チラチラこちらを見ている、というような方法では逆効果です。隠されるとかえって知りたくなるのが人の心理ですので、お客様にいらない不安を与えない工夫が必要です。

チームワークの大切さ・自社内だけでなく

車椅子が到着し、何とか立てることと歩けることを確認して車椅子の乗客(?)になりました。この時にはCAは一人だけが私についていて、残りの方は通常業務に戻っていたようです。車椅子の担当は地上職の方。CAは私の手荷物を持って搭乗口まで付き添い「お客様同士で連絡先の交換はされていると伺いました。(私の怪我が大事になった場合は、当事者同士で解決してくださいね、というメッセージに聞こえましたし、私もそれが当然と理解していました)。青栁様、この先は別の係員が、お帰りになるまでのお手伝いをいたします。どうぞ気を付けてお帰りください。お怪我が軽く済むことをお祈りしています。」と、私ともう一人の当事者に挨拶をして地上職に引き継ぎました。

この時点で私は「リムジンバスで帰るつもり」であることをCAに伝えていましたので、「リムジンバスの乗り場までお願いします」という申し送り(引継ぎ)がされました。地上職のスタッフ2名(1人が車椅子、もう1人が手荷物担当)は、「では、リムジンバス乗り場までお送りします」とまず私に伝え、「機内用の車椅子なので、乗り心地が良くないこと」「EVとスロープを使用すること」「スロープは後ろ向きで降りること」などを随時私に伝えながら、何処行きのバスに乗るのかも確認し、乗り場に到着しました。もちろんチケットの購入時も、私はお財布を渡すだけで済みました。何事も先回りして(私がこれはどうするんだろう……と心配になる前に)配慮してくださったと記憶しています。

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ご存知の方もいると思いますが、羽田空港のリムジンバスは1つの乗り場から複数の行き先のバスが発車します。ここでJALの地上職の方は私が「足を痛めていることと渋谷行のバスに乗る」事を、バス乗り場の係員に伝えてくれました。もちろん私は車椅子に乗っていますので、怪我をしていることは明白ですが、私が言うよりも先に怪我の状況や行き先を伝えてくれたことが、とてもありがたかったことを覚えています。すぐにバスが到着する時間でしたので、地上職のお二人には「もう大丈夫です」と伝えて引き取っていただきました。

バスが到着して、乗り場の係員は最前列の優先席においてある「ここは優先席である」という札を外して、私の荷物を先に乗せ「こちらにお座りください」と案内してくれました。この頃には足の痛みやその他諸々で「疲労困憊」という感じでしたので本当に助かりました。

機内で怪我をしてからバスに乗るまでおよそ30分の出来事でしたが、想定外の事に動揺して痛みもあり、本当に不安だらけだった私を救ってくれたのは、CA、地上職、バス乗り場の係員の素晴らしいチームワークでした。過不足のない情報共有はもちろんのことですが、「私の担当はここまでですから、後はよろしく」ではなく、「想定外の事態に動揺している私とその状況」を次の人に『手渡している』という感じでした。

今回のことは本当にイレギュラーな「事故対応」にあたると思いますが、とっさの判断で「機内で怪我をしたお客様を安全に自宅までお帰しする」という動きが取れたこのチームには感動しましたし、さすがだと思いました。

接客販売の現場でお客様が怪我をされる、ということはあまり無いとは思いますが、怪我に限らずお客様が何か困った状況になられた時にどれだけベストを尽くせるかが大事だと思います。何よりお客様の気持ちに共感して「してほしいことを感じる(想像する)」ことや、自分たちにできることをご提案することが大切だと思います。

<後日談>

渋谷までのリムジンバスの車内で「夜間救急病院」を検索して立ち寄り、レントゲンを撮った結果、骨に異常はなく打撲と内出血であることがわかりました。

翌日、JALのお客様窓口に電話をして状況を説明し、お名前を伺うことすらできなかったCAの皆さんと地上職のお二人にくれぐれもよろしくと伝言をしました。また今後は「目的の空港に着いて降機する時には不用意に通路に立たない」「周囲の方の荷物(特に重そうなもの)には気を付ける」ということが今回の教訓となりました。

《青栁 伸子さんの著書》

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『人を幸せにするMétier お客さまを虜にする最強の接客サービス』
エルメスやボッテガ・ヴェネタなど、憧れのラグジュアリーブランド。それぞれのブランドでスタッフ育成を手がけた人事コンサルタントが、顧客の心をつかむコツを伝授する。人事のプロが贈る接客販売職への賛歌。

 

 

 

 

 

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