NY発のモダンラグジュアリーブランド、3.1フィリップ リム。昨年創立10周年を記念した特別講演レポート後編では、ブランドのビジネスの側面をフォーカスしたトークや質疑応答が繰り広げられました。
デザイナーのフィリップ・リムさん、共同創業者でCEOのウェン・ゾウさん、元SPUR編集長で現在「T JAPAN」編集長の内田秀美さんによる、トーク内容をレポートします。
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3.1フィリップ リムのブランドビジネス
司会者:ブランド創立10周年を迎えた3.1フィリップ リムですが、ここからはビジネスについてお話を聞かせていただきたいと思います。
内田:10年ブランドを続けるということは、やろうと思えば誰でもできることかもしれませんが、それをきちんとビジネスとして成功させているところがこの2人のすごいところ。フィリップの服を着ている人が世の中にたくさんいるっていうことは、とても価値のあることだと思います。日本に上陸したのは、2008年。2005年にブランドが立ち上がって3年目に世界で2番目の旗艦店となりますが、なぜ日本を選んだのですか?
ウェン:2005年秋冬コレクションでデビューしたのだけれど、そのシーズンの40%の売り上げが日本の企業からの買い付けだったの。日本人の顧客が私たちを選んでくれたから、2番目の旗艦店を日本に選んだのよ。それはとても自然な流れだったと思うわ。
内田:それまでセレクトショップでしか手に入らなかったフィリップの服が、旗艦店ができたことで、いつで買えるということが、すごく嬉しかったのを覚えています。ショップは、外から中が見えないようになっていますが、どうしてこのデザインを採用したのですか?
フィリップ:僕にとってこの世で最も美しいものは、内部に潜んでいるものだと思っているんだ。僕たちは、ラグジュアリーとは高価でなかなか手が届かないという概念を打ち破って、アクセシブルという付加価値を打ち出してきた。ショップ外側からは中が見えないけれど、中に入った瞬間に美しいコレクションで訪れた人々をもてなしたい、そんな思いを込めているんだ。
内田:そうですね、ちょっとしたひねりとか毒があるというのが、このブランドの特徴だと思います。それからフィリップのコレクションにはいくつかのアイコンバッグがありますよね。これはどういう思いでデザインしましたか?
フィリップ:僕はデザインをするとき、それが服でも靴でもバッグでも、まずはそれが持つ人にとってどう機能するかを考える。美しいものだけれども、まったくその人のライフスタイルにフィットしなかったり、機能しなかったら悲しいと思わない? “PASHLI(パシュリ)”と“31 Hour(サーティーワンアワー)”バッグに共通するのは、グローバルな社会で生きる人々が必要としているバッグを想定して生まれたということ。
ウェン:ビジネス面から見ても、アクセサリー部門の売り上げにはすごく満足しているわ。どのブランドにとってもアクセサリーの売り上げはとても重要だけれども、ファッションとアクセサリーの売り上げのバランスが取れているブランドはなかなか少ないわ。そういう点でも、ファッションとアクセサリーともに順調に伸びていることは非常に大切だと思うの。
司会者:創業5周年では北京の紫禁城でショーを行いましたね。これはどのようにして可能になったのでしょう?
フィリップ:僕たちは本当にラッキーだったんだ。北京の住む友達が、政府と掛け合ってくれたんだ。今振り返ると、当時はまだ若手デザイナーとして奔走中だったけれど、美しい紫禁城でアジア人モデルを起用したショーに、各国のメディアが集まってきてくれた。僕たちのブランドにとってもすごくエポックメイキングなショーだった。どうやってやり遂げたか、その時は必死だったけれど、とにかくハッピーだったよ。
内田:ブランド創業5年目にして、しかもあんなにすごい場所でショーを開催するなんて、本当に驚きでした。
ブランドの未来を見据えて
司会者:こうして10周年を迎えられたわけですが、フィリップさんは今、どんな気持ちでデザインをしているんでしょうか。
フィリップ:年を重ねてきたけれど、前よりもずっと自分が若いように感じられるんだ。10年で学んだことは、常に挑戦者でいるべきだということ。インディペンデントなブランドとして何があっても自分の居場所を確保するために努力し続けるということ。成功とはビジネス面でいくら売り上げたかをだけで指すのではない。自分がやるべきこと、できることをやり遂げることだ。最近より強く、デザイナーとしてもっとできることがあるような気がしている。より楽しみながら、自分にできることを突き詰めていきたい。
内田:フィリップの服って、ファンタジーがありながらも、リアリティがあると常に思っているのですが、売るための努力とは一体どんなことなんでしょう?
フィリップ:売るためのコツがあるわけではないけれど、とにかく心の底からいいと思ったものを作り続けているだけ。その気持ちが人々に伝わっているのだとしたらそれはすごく嬉しいことだね。
内田:私もフィリップのそういう気持ちの込もったクリエイションが消費者の方々に伝わっているのだといつも思っています。ウェンはビジネス的な観点からどう考えているのかしら?
ウェン:ファッションビジネスって本当に簡単ではないから、私もまだまだ学んでいる最中といったところ。商品をマーケットに送り出すためにはいろんなアプローチ方法があると思うけれど、常に情熱を持って働きかけることが大切だと思うわ。それから価値を共有出来るパートナーと取引をするべきね。ビジネスを続けていたらいい時も悪い時もある。経済の状況にも左右される。短期的に成功できるとは思っていないし、長い目で見てブランドビジネスという冒険を一緒に楽しむことができる素晴らしいパートナーと組むことね。
私たちは自分たちの成功を商品だけでなく、どれだけチームが一体となってコレクションを作り上げることができたかがバロメーターとなっているの。毎シーズン、前のシーズンよりもより良いものを作ることができればと思っているわ。
内田:フィリップから見て、ウェンのここがすごい部分ってどんなところですか?
フィリップ:ハハハハハ。彼女はビジネスパーソンでありながらとてもクリエイティブな女性なんだ。ファッションをとても愛しているし、情熱的に美しいものを求めている。そして決断力があり、ブランドを成長させてくれている。
内田:ウェンから見てフィリップのすごいところとは?
ウェン:フィリップのような人に今まで会ったことがなかったわ!
フィリップ:僕もだよ(笑)
ウェン:とても表現するのが難しいのだけれど、フィリップはとてもシンプルでいて複雑な人なの。繊細で優しくて、いいところを挙げればキリがないけれど、共同経営者としての彼の一番すごいと思うところは、一つのことを成し遂げるための突破力があるということ。
内田:そうですね、シンプルでいて複雑というところは、フィリップの服にも表れていますよね。そして、これからの10年をどう見据えていますか?
フィリップ:Oh my god! 今、僕は今夜のディナーのことくらいしか考えていなかったな(笑)。そうだね、僕は水晶でこの先10年のことを占えるわけではない。でもとにかくずっとチャレンジし続けていきたい。
ウェン:これまで通り誠実にビジネスを続けていくことと、世界情勢はどんどん変化していくから、より良いグローバル市民としての知恵を身につけていきたいわね。
質問殺到!フィリップさんに聞いてみたいことって?
司会者:フィリップさん、ウェンさん、内田編集長ありがとうございました。ここからは質疑応答の時間とさせていただきます。最初の質問ですが、今年の春からデザイナーとして働き始めるのですが、21歳の時、何を感じ取り、何を優先的に行動していましたか?参考にさせていただきたいと思います。
ウェン:19歳の時にファッション業界でインターンシップを始めて、2年後には自分の会社をスタートさせたの。その頃は怖いもの知らずで前だけを見ていたわ。
フィリップ:誰がこの質問をしたの?立ってもらえるかな?(質問者が起立すると)顔を見て話せて嬉しいよ。21歳と42歳(フィリップの現在の年齢)はまったく変わらない。経験不足や知らないことばかりだとしても心配し過ぎる必要はない。とにかく自分を強く信じて、自分の大好きな仕事に邁進してほしい。
次の質問:どのようにバランスをデザインされていますか?
フィリップ:この質問をしたのは誰かな?(質問者が起立)ありがとう。服をデザインするとき僕は常に着てくれる人のことを考えている。ファンタジーな世界観を取り入れたとしても、そこにリアリティを持たせることを心掛けている。
質問者:ブランドの、そしてフィリップさんご自身のミューズやインスピレーションを受ける人とは誰ですか?
フィリップ:よりたくさんの人に会えば会うほど、より多くのインスピレーションを受けている。スターやセレブリティのような影響力を持つ人々が僕たちの服を着てくれることは嬉しいけれど、「グローバルシティズン」な人々から常にインスパイアされているんだ。
質問者:フィリップさんにもアイデアが思い浮かばない時はありますか?その時どうしますか?
フィリップ:僕も時には煮詰まることもある。人間だからね。でもそんな時は一旦立ち止まってみる。全然違うことをしてみるんだ。行き詰まったところで考えすぎないことが大切なんだ。
司会者:最後に一言ずつメッセージをお願いします。
ウェン:今日は来てくれてありがとう。これからの3.1フィリップ リムにもどうか注目していてください。皆さんとこれからもつながっていけたら嬉しいわ。
フィリップ:僕たちをいつもサポートしてくれてありがとう。今日は学生さんが多いから最後にこの話をしたいんだけれど、本当にやりたいことがあったら、それをもっと好きになってもっと楽しんでやってほしい。もし好きじゃないことをやっているとしたら、違うことをしたほうがいい。一日の終わりにいつも感じてほしいんだ。明日はもっと美しい日になるのだと。
内田:こんな素晴らしい話の後になんですが、フィリップと話をしていると愛とか情熱とかそういう言葉をよく聞くんですね。いろんなデザイナーにインタビューをしてきましたが、そういうことをきちんと伝えてくれるデザイナーさんってそんなに多くはないんです。私は「シュプール」という雑誌を作っていた時も今の「T JAPAN」という雑誌を作る時も、こんな感じかな?という不確かなものではなく、自分たちが本当に伝えたいこと、それは愛とか情熱とかだったりするのですが、そういうものって必ず伝わると思っているので、今日お2人の話を聞いて改めてそのことを強く感じました。これからまだ長い人生を送る皆さんの少しでもお役に立てたら嬉しいと思います。
ファッションを学ぶ学生たちからの質問が多く寄せられましたが、一人ひとり、質問者の目をまっすぐ見つめ、真摯に答えてくれるフィリップさんの姿がとても印象的でした。
その姿は着る人のことを思いながら、心を込めてデザインするというフィリップさんの仕事観ともつながります。これからも素晴らしいコレクションでグローバルシティズンとして生きる男性や女性を彩ってくれることでしょう。
今回お伺いした主催団体
早稲田大学ラグジュアリーブランディング研究所
革新的商品や他社には真似できない商品、高くても売れる商品、熱烈なファンのいる商品やブランドを対象として、他と違う商品づくりを絶えず試み、他との違いの本質を伝達し市場をリードすることによりブランドを如何に革新するか等のあり方について学際的に取り組んでいます。また、研究成果の発表、講義録を含む研究成果の出版等の事業を実施。併せて適宜これに関連する研究会・講演会・シンポジウムを開催する。特に、世界的ラグジュアリーブランドの経営者やデザイナーの来日時を捉えて積極的に開催。