ファッション業界をテーマにした映画はたくさんありますが、その中から発見や学びのある作品をピックアップする『ファッション業界に属する人が観るべき映画』。今回は、世界中で台頭するファストファッションによって起こりうる社会問題をクローズアップした、イギリスのドキュメンタリー映画『スローイング・ダウン・ファストファッション』をお届けします。
ファッションは、鉱業と酪農業に次いで世界で3番目に環境負荷の高い産業
トレンドを取り入れた低価格の衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・大量販売するファストファッションは私たちの日常に浸透しています。しかし本作が制作されたイギリスでは、毎年国内で廃棄される衣料が約100万トンあり、約200万トンが新たに購入されるという膨大な数字に着目。産業や農業と同様、衣料も環境に大きな負荷をかけている原因を紐解いてゆきます。
この物語のナビゲーターを務めるのは、人気バンド『Blur(ブラー)』のベーシスト、アレックス・ジェームス。彼はミュージシャンでありながら、郊外の農場で生活する酪農家であり、環境保護活動に熱心なことでも知られています。この仕組みは本当に理にかなっているのか疑問を抱いたアレックスはゴミの埋め立て地を訪問。石油などに由来する化学繊維の洋服の多くが、土に還らずそのまま残されている様子に愕然とし、ファストファッションがスローイング・ダウンできるのか可能性を探し始めます。
トレンドを超えて未来につながるファッションの新たな「価値」とは
ファッション業界で働く人にとっては、深く環境問題との関わりを考えさせられる作品ですが、本作の面白さはそれだけでなく、流行や消費衝動を超えた所にある「未来につながるファッションの新しい価値ってなに?」という点を、伝統産業からハイファッション、ストリートからリサイクルショップまで様々な専門家や識者、事業主などにアプローチして話を聞いていくところです。
素材の選び方による変化や、生産の透明性がもたらすもの、リメイクやリサイクルの持つ可能性など、そこには「安さ」「速さ」「流行」以外の満足を求める消費者が反応しそうなヒントが満載。しかも本作に登場する環境に配慮したアパレルはどれもスタイリッシュ。これからの可能性を考えるうえでのヒントやよい刺激がもらえるのではないでしょうか。
これからの世代は衣料の産地と「本当の」ラグジュアリーに興味がある
本作に登場するイギリスやアメリカの若いデザイナーやクリエイターは、自ら大量消費に疑問を持ち、新たなアプローチの消費を生みだすために活動しており、そういう「モノ消費」より「コト消費」のムーブメントは近年日本にもしっかりと根づいています。フリマアプリで上手にリユースを楽しむ「賢い消費」が好きな世代には、安いことより価値が変わらないほうが「オトク」であり、流行よりも質がよく長く着られるほうがラグジュアリーと感じる意識の変化も起こってきています。
安い服をたくさん買ってダメになったら捨てる消費を経たからこそ、いい服を少量買って大切に長く着る消費の価値が、いま見直されている。新作を作って販売するだけではない、未来につながるアパレル業界の姿が見えてくる1本です。
『スローイング・ダウン・ファストファッション』
監督/ベン・エイカーズ 主演/アレックス・ジェームズ
提供/ジャーニーマン ピクチャーズ
※Amazon primeビデオで配信中(2018年5月14日時点)
関連記事
MIUMIUのショートフィルムプロジェクトの短編映画『Les 3 Boutons(3つのボタン)』が日本初上陸!7/22〜
菊地凛子が着こなす豪華衣装にも注目!短編映画『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話』6/24公開
衣装協力はシャネル。カルティエ、クリスチャン・ルブタンなど注目ブランドが登場する映画「パーソナル・ショッパー」が5月公開
映画で見るファッション業界。フェンディの修復で甦るヴィスコンティ監督の名作『家族の肖像』
映画でみるファッション業界、12月4日公開「サンローラン」予告